農作業
「いらっしゃいまし!」
そう言えば俺が道具屋に来るのは初めてだ。
オードルのように、キツネの耳を生やした
エプロンをつけている若い人が出てきた。
「どうも初めまして。農作業をするから手袋が欲しいんだけど」
「あ、コウさんですね!オードルの奴がいつもお世話になってますっ!」
「ありゃ、オードルの家族の方で?」
「そうなんすよ。オードルが弟で俺が兄貴のシードルっす!コウさんの事はオードルだけじゃなく、お仲間の方からも聞いてますっ!」
「そりゃどうも。何時もお世話になってます」
「いえいえとんでもない!ウチこそ何時も色々買って頂いちゃって感謝してますよっ!手袋を御幾つで?」
「えっと8人分頂きたいんだけど」
「あいよっ!ミッドカウの革で出来た手袋が最適ですぜ!旦那方のと女性の方達のは別で……合計銅貨16枚になりやす!」
「はい、じゃあこれで」
「丁度ですね!毎度ありっ!また是非来て下さいね!」
短いやり取りの後、
俺達は冒険者ギルドへ戻る。
戻る途中でビルゴと恵理から手袋代を出すと
言われたが、面倒だから要らないと断った。
でもと言われたので
「仲間なのに水臭い事を。手袋代位出させてよ」
と押し切った。
案の定冒険者ギルドに戻ると皆そう言うので
「皆で楽しく作業するのにいらん!」
と突っぱねて強引に渡した。
「じゃあコウ、この依頼書を持って農家へお願いね。向こうで仕事に使う鎌とかは貸してくれるから」
「了解!じゃあ行ってきます!」
そうミレーユさんに告げて、俺達は冒険者ギルドを出る。
今回もリウはお休みだ。
エルフの里で頑張ってくれたし、
冒険者ギルドにきてから気のせいか
肌のつやとか良い感じだ。
リウはこれで成竜なのかな。
大きくなったらどうやって小屋を作ろうか。
エルフの里復旧の時に学んだ工法で家クラスのを建てよう。
「じゃあリウ、いってくるな」
「グア!」
首を優しく撫でると気持ちよさそうに首を預けてくる。
ホント癒し系恐竜だ。
俺達は正門であるギルドの南から出て、
そのままアイゼンリウト方面に向かった。
途中の草原に民家がポツポツと立っている。
「おうい!こっちだこっち!」
その声は聞き憶えがあった。
よく見てみると、リムンが森で一人で居た時に
迷惑をかけてしまった農家の人だった。
「どうもお久しぶりです!またお会い出来るなんて」
「いやぁアンタ達の事が気になっててな。ギルドに指名で依頼したのさ。色々あったみたいだけど元気そうで良かったよ」
「こちらこそです!お役にたてる機会があって良かった」
「本当は英雄さんにこんな仕事を頼むのも気が引けたんだが」
「何を言ってるんですが。水臭い」
「そうか。やっぱアンタ良い人だな。それにお嬢ちゃんも元気そうだ」
「おっちゃん、前はごめんなさい」
「どう言う事だ?」
農家の人はリムンの謝罪を受けて、頭を掻きながら
正直に話した。
森が荒れているのを解決してもらう為にギルドに
依頼した事。
誰かの悪戯の可能性もあったのに調べなかった事も。
だから農家の人はお互い様だし、
ひょっとしたら寝覚めが悪い事になっていたから、
自分にも非があるとしてビルゴに頭を下げた。
「いや、全ては私の責任だ。娘を放っておいて、夢から醒めずに居た愚かな私の。申し訳ない」
「取り合えずお互い謝罪した所で、出来ればお仕事を頑張らせて頂きたいんですが」
重い空気を払うように、俺は口を出す。
ファニーやロリーナ、プレシレーネにウーナ、
恵理に背中をポンポンと優しく叩かれた。
よくやったと言いたいんだろう。
まぁそうじゃないとお互い謝りっぱなしになったろうし。
「そう言ってもらえると有り難い。キチンと報酬は払うから、頼むよ」
「お任せ下さい!」
俺は胸を叩く。
がオッサン故にむせる。
それを見て皆が笑いだす。
俺も釣られてむせながら笑った。
それから農家のマックさんの手ほどきで、
稲を刈る作業を始めた。
恵理は自分の鎌でバッサリサクッと出来ると
言い始めたが、それだと稲が痛むと俺が止めた。
そしてある程度束を纏めて、地面から少し離れた
部分に鎌を当てて、サクッと刈り取る。
マックさんの親戚の農家で、
主にエルツに出荷する分と言う事で
俺達の食にも影響するので張りきった。
だが広大な面積の稲は中々終わらない。
俺は女性陣の負担を軽くする為、
丁寧にしかし速度を出して自分の列を終わらせる。
だが経験者のプレシレーネやウーナ、ロリーナは
俺以上に早い。
手際良く刈っては一つ取り縛って束にして置いておく
という作業を、とても早く完成していた。
その他のメンツは性格が出る刈り方をしていた。
ファニーは俺の真似をして器用にこなす。
ビルゴは細かい作業が苦手なようで、手こずりながらも
丁寧にこなしていた。
リムンは恵理と一緒に楽しそうにしていた。
農家のマックさんは二人について暫く教えた後、
俺たち以上のスピードでこなしていく。
「皆さん昼食ですよー!」
額の汗を拭い、次の列に移った所で
声が掛かる。
見ると女性や年配の人たちが数人畑の
脇に来ていた。
「どうもこんにちわ」
「アンタ達がお手伝いさんね。有難うね。大分早く済んだみたいで」
「いえ、思ったより遅くて申し訳ない」
「とんでもない!人手があるだけでも有り難いのに、中には経験者まで居るんだから、私達としては有り難いですわ」
俺が済まなそうにしていると、
年配の人たちが俺の前に来た。
「あの」
「アンタがアイゼンリウトを救って下さった方ですか?」
「いや、アイゼンリウトはイリア姫達アイゼンリウトの人達が頑張った結果です。俺はお手伝いをしただけで」
「やはり……有難う御座います。私達の故郷はアイゼンリウトなのです。生贄の事が怖くて離れてしまったが、故郷を忘れる事はありません。有難う」
「いえ、そんな」
年配の方達は俺の手を取り
感謝の言葉を口にした。
俺は参ったなぁと思いながらも無下にはできず、
握手を交わした。
「英雄さんに農作業をお願いするなんて気が引けるけど」
「いや、出来ればお手伝いさせてください。それにギルドからの正式な依頼ですから」
「そうかい。有難うね。ならお昼ご飯をしっかり食べて頑張って」
「はい!」
俺達は農家の人達と昼食を楽しく取った後、
作業に戻る。
夕暮れまでには4つの畑を刈り終わり、
ギルドの依頼書にサインを貰って帰路につく。
くたくたになりながらも、ここ最近無い
気持ち良い疲労感に、眠気が増す。
こうして俺達は冒険者ギルドへと帰還するのだった。




