フツーのお仕事!
「うぅ……」
俺は目が覚めたものの、ボロカスである。
昨日の酒豪の集まりに参加したばっかりに
エライ目にあった。
酒量を弁えていた筈なのに、
まぁ偉い人には逆らえないと言う事にしておく。
雰囲気にのまれたとも言う。
「おはようコウ。大分堪えたみたいね」
壁を頼りに下の階に降りて、
何とかカウンターに辿り着く。
俺はカウンターに突っ伏し頷く。
それしか出来ない。
お腹が空いているのか胃が痛いのか
判別が付かない。
前者なら食べたら回復するだろうけど、
後者ならトイレに一直線だ。
「取り合えず柔らかい物を、少しずつ良く噛んで食べると良いわよ」
「うす……」
俺は生返事で、器に盛られたコーンフレークのような物を、
少しずつスプーンですくって口に入れる。
ゆっくり食べながらダラけていると
「おはよー!」
頭に響く元気の良さを押し売りに、
恵理が来た。
俺は取り合えず見て頷いて食事に戻る。
あー気持ち悪い。
「コウおはようっ!」
次に元気なロリーナが登場し、
俺の近くで大きな声で挨拶した。
頭がカチ割られる。
「コウ、よく我らより先に起きたな!」
ファニーは俺の背中をバンバン叩いて来た。
リバースすんぞコラ。
「コウ様、おはようございます」
背後からウーナの声が掛かる。
それに対して振り返り頷いて
また突っ伏す。
「コウ殿、おはようございます」
プレシレーネはそっと挨拶してくれた。
ホント優しさがあるのはミレーユさんと
プレシレーネだけだな。
「おっちゃんおはようだのよ!」
「コウ、おはよう。飲み過ぎか?」
ビルゴリムン親子も降りてきた。
今の俺のパーティがこれで全員揃った訳だ。
「あ、そうだ。リウの小屋」
「それなら私が以前馬を止めていた所に案内して置いたわ。野菜ならどれでも大丈夫みたいだから、お肉と野菜を混ぜたものを食べて貰ってるの」
「ミレーユさんホンッットに有難う」
俺は涙が出そうになる。
気が利かない連中が多い中で
ミレーユさんは仏様やで。
「で、コウ。今日の依頼なんだけど」
「どんなのがあるかな」
「そのリウの野菜を買った農家の人が、収穫作業の手伝いをして欲しいって事なんだけどどうかしら」
「凄く良い。戦闘じゃない依頼なんて珍しいから尚更良い」
「コウの体力強化にもなるしね。ならご飯後に早速行ってもらって良いかしら?」
「えっと皆どうする?」
俺は体調が少し良くなったので、後ろのテーブルにいる
皆に声をかける。
「俺とリムンは参加させてもらおう。そういう普通の依頼もリムンに体験させたい」
「お父と一緒に頑張るだのよ!」
「我は確認せんでも良い」
「私も奉仕活動になりますし、ご一緒しますわ」
「僕も久しぶりに農業したいから参加で」
「私も以前街の人の作業を手伝った経験がありますからお役に立ちます」
「アタシはパース」
「恵理は強制参加っと……」
「ちょっ!?何でさ!」
「何でも何もお前は絶対参加だ。こういう事は経験すべき」
「勝手に決めないでよ!」
俺の横へ来て怒鳴る恵理。
俺は突っ伏したまま顔を向け舌を出す。
すると恵理は俺の腹を蹴ってきた。
俺は飛びかかろうとするも
逃げ出した。
それを追いかける。
「オッサンの都合で決めんじゃないわよ!」
「社会経験は大事だ!」
「オッサン臭!」
「オッサンだから仕方ない」
「人に強制とかウザいんですけど」
「……言い方が悪かった。謝る」
俺は確かに強制していた。
押し付けはいけないなと反省し
頭を下げる。
「何ソレ。調子狂う」
「恵理ねーちゃん、一緒にお仕事しようだのよ。きっと楽しいだのよ」
リムンに寂しそうな顔で腕を引っ張られ
ねだられると、どうやら恵理は袖に出来ないらしい。
眉間にしわを寄せて唸る恵理。
「恵理、一緒に農作業しよう。俺も恵理と一緒に仕事がしたい」
そう言うと恵理はそっぽを向いて腕を組む。
暫くした後
「……解ったわよ。そこまで言われたらするしかないし」
「有難う恵理」
「やったー!お姉ちゃんと農作業だのよ!お弁当持っていくだのよ!」
リムンはぴょんぴょん跳ねて喜びを表す。
その姿を見て恵理は鼻の頭を掻いていた。
何とか一件落着か。
と思ったが。
「我もやはり気が乗らぬなぁ」
「私も何だかやる気が無くなってしまいました」
「僕も止めようかなー」
「私もやはり」
と始まった。
マジかよ。
「いや、皆と一緒に青空の下でフツーの事を偶にはしたいんだよ!ホントだよ!?」
「恵理としたいとお前は言っていたではないか」
「そうですわね」
「そうそう」
「残念です」
ぬぬぬ。
一人持ち上げると他が凹んだ。
俺はまだ体調が万全では無いものの、
皆の所へ行き、肩を揉んだり拝んだり、
ご機嫌を取った。
仕事前にスゲー疲れた。
そしてその様子をリムンを抱きかかえながら、
嫌らしい笑い方をしてみる恵理を見て
はっ倒したくなった。
お前の所為でこんな事に……。
「じゃあこれがビルゴとリムンと恵理の取り分な」
農作業前にバンクに行き、崩して
ビルゴとリムン、恵理に報酬を分配した。
エルフの里の件は金1銀貨5000で考えて、
残り6500を8等分し多めに銀貨900を3人に渡した。
ビルゴとリムンはそのままバンクに預け、
恵理は俺と一緒に預け帳を新しく作り全て預ける。
「こういう世界でも銀行ってあるんだね」
「まぁ何処に言ってもあるもんだよな。銀行の仕組み自体は元の世界でもかなり大昔からあったからな」
「そうなんだ。オッサン物知りじゃん?」
「それほどでもないよ。それより農作業の前に、手袋とか仕入れに行こうか」
「行こう行こう!」
恵理は最初のり気では無かったが、
新しい事に触れてやる気が出てきたらしい。
俺の背中を押して、俺達は道具屋へと向かうのだった。




