遠足に来たらヒャッホーどころか阿鼻叫喚だった件
「ほう」
俺は感心した。
盗賊の一人は大人しく真実を話してれた。
商人は馬車に乗り荷物を乗せて獣道を
エルツに向かって移動していた。
「すいませーん!」
俺は遠くから呼びとめる。
そして何時もなら軽やかにいけるが、
今は女性陣全てにイソギンチャクに捕らえられた
小魚状態になっている。
動き辛い。
何だこの状態と状況は。
そんな俺が出てきたものだから、
恰幅が良く服装も上等な物で作られたものを
身に付けていた人は、馬を急がせようとした。
「ち、違うんです!そのまま行くと盗賊に捕まりますよ!」
いや、自分でもこの状況でそんな事言った所で
聞いてもらえないとは思うが嘘では無い。
「情報通りだ!野郎どもさっさと身ぐるみ剥がしちまえ!」
馬車は少し先まで移動した所で、
馬がいななき前足を挙げて止まった。
盗賊たちのお出ましだ。
「皆行くぞ!」
そう言っても俺の体を拘束し続ける乙女たち。
いい加減このボケは何時まで続くんだ。
そんな事をやってるうちに、ビルゴは
盗賊たちを木に縛り付けて馬車へと向かう。
もうこうなったら引き摺って行くしかない。
俺は覚悟を決めて踏ん張りつつ引っ張っていく。
「あ、馬車が危ないだのよ!」
「そうだの」
「しゃーないか」
「行きますわよ」
「そうですね!」
一斉に俺を放して馬車へと走り出す乙女たち。
当然俺は勢い余って突撃し、
盗賊の一人を吹っ飛ばす。
そして地面とこんにちわ。
痛いしムカつくわ。
「コウ!何をしておる!」
「おっちゃんしっかり仕事するだのよ!」
「オッサン真面目にやってよね」
「コウ様!英雄が泣きますわよ!」
「コウ殿!」
俺への叱責が飛び、俺はゆっくりと
起き上がると体育座りをして
皆の様子を眺める。
やってられねー。
何このひどい扱い。
無職の時と変わらないじゃん。
「貰った」
背後で声がするが、黒隕剣が
盗賊の武器を弾く。
今や戦いも全自動式である。
現代人が腐る要因だよな。
―コウ、ふざけている場合では無いぞ―
相棒にまで突っ込まれる始末。
俺は膝に顔をうずめる。
酷す。
「ふざけんなコラァ!」
「ふざけで無いわ!」
俺は再度襲い掛かってくる盗賊を、
立ち上がりながら黒刻剣を
引き抜いて盗賊の武器をはじき飛ばし、
鳩尾を打つ。
そして俺はキレた。
「何で俺が文句言われんだコラァ!」
俺はそのままの勢いに任せて
盗賊たちをなぎ倒して行く。
チクショー何で俺がふざけた事になってるんだ。
真面目にやってきたのに!
20人ほどいた盗賊たちも半数以下になると、
俺の勢いに押されたのか段々遠巻きになり、
逃げようとしていた。
「逃がすか!」
俺は追撃してビシバシ叩き落として行く。
勿論キレてるからと言って、刺したり斬ったりしない。
そこは紳士。
弁えているのである。
「コウ、人に当たるで無い」
「そうだよオッサン。更年期障害?」
「おっちゃん落ち着いて」
「コウ様ダメですわよ!」
「コウ殿落ち着いて!」
いやホント誰の所為だと思ってるんだ。
俺はその宥める発言にガックリ来て、
相棒2振りを腰と背に収めた後、
地面に手を突いてうなだれる。
ホントのんびり冒険を楽しもうかと思えば
碌な事が無い。
殺気!
―コウ!―
――危ない!――
俺は黒隕剣で一つ目をはじき飛ばし、
黒刻剣で二撃目を
叩き落とす。
三撃目は2振りを交差させて防ぐ。
的確に俺の頭を狙ってきた。
だがこの世界に弾丸とかあるのか!?
「皆!急いで物陰に隠れろ!」
俺の動きと声に、皆一斉に木の陰や馬車の陰に隠れる。
そしてパンパンと乾いた音の後に、
盗賊たちが打ち抜かれていた。
相棒、方向は?
―恐らくこの先にある高台だろう―
なら飛ばすか!
俺は勢いを付けて森の中を走り出す。
その間にも仲間たちの所へ向けて放たれる
銃声が止まない。
また俺や恵理と同じ異世界の人間か!?
だが迷う暇も警戒する暇もない。
狙いは正確。
恐らく相当な腕の狙撃手だ。
俺がこの世界で絶世の美女や眼鏡から
目薬みたいなものをさして貰わなければ、
やられていた。
それほどこの距離でも正確に狙撃してきたのだ。
目の前に絶壁が現れるが、
俺は跳躍しながら足場を確保し飛び上がる。
「そこまでだ!」
俺は崖の上へと飛び出る。
すると雨のように弾丸が目の前に飛んで来ていた。
俺はそれを相棒達と共に全て防ぐ。
―コウ、リミッターを外せ―
リミッター!?
リミッターってなんだ!?
――エルフの大樹から得た力だ――
あれはまだ俺の中にあるのか。
リミッターの解除ってどうすれば出来るんだ。
―解放せよと念じ、体の内側を爆発させるイメージだ―
――幸い森の近く。精霊の加護もあろう――
そうか、なら
「うぉおああああっ!」
俺は弾丸を弾きながら、
自身の内側を爆発させるイメージで叫び声を上げる。
すると心臓の鼓動が痛くなってきた。
そして静電気が俺の体に起こり、
髪の毛がふわりと浮く。
弾丸を弾いて狙撃手との間合いを一気に詰める。
「貰った」
「どうかな」
その声に俺は体を半身にして避ける。
後ろから狙撃!?
チラリと見たが、銃が浮いている。
「お前さんだけの特技だと思わない事だ」
その声の主は、細身ながら薄い服では隠せない
筋骨隆々の俺より年上のおっさんだった。
「貴様!」
「おっと今日はここまでだ。生憎と俺は盗賊にこれ以上肩入れしてやる義理は無い」
「悪いがそうはいかない。俺の仲間も命を狙われる」
「それはないぜ坊や。俺は盗賊たちに口を割られると困るんで消した。そしてお前さんと話がしたくて狙撃して誘導してやったんだ」
「どう言う事だ。冗談で済む狙いの定め方じゃ無かったぞ」
「あれ位防いでくれないと俺が困る」
「回りくどいのは嫌いだ」
俺は湧きあがってくる力をコントロールしようと、
抑えてはいたが、怒りで静電気は余計強くなる。
これ案外肌が痛い。
「何、ちょっと面倒見てる小僧の国造りの為に資金が必要でな。俺としては盗賊に情報を売った金が必要だった訳だ」
「諸悪の根源はお前か」
「違うだろ。実行したのは奴らだ。俺はそう言う事があると言ったまでの事。それは罪には無らんだろう」
「国を造る物が自国民では無いからと言って、命を軽んじるのか」
「綺麗事では国は立たん。汚れ役も必要ってことだ」
「ご立派な考えだ」
「……どうやら理解してもらえないようだな」
「出来ない。俺の仲間に危険がある以上、見過ごす訳にはいかない」
「解った。アンタのあそこにいる仲間には手を出さない」
「そんな口約束が通じる相手だとでも?」
「通じるだろう。俺の力を見て勘の良いお前さんなら解っているはずだ。俺がこうしている間に、お前さんの仲間を狙っていない筈が無いとな」
なるほど……。
銃を遠隔操作出来るなら、
こうして喋っているうちに
配置は完了しているってことか。
「アンタ何者だ?」
「さてね。単に銃が趣味のオヤジだよ」
「……軍人崩れか」
「傭兵だ。血生臭い事ならアンタより上手だ。ゲスな事もな」
「俺がアンタを逃がすとでも?」
「逃がすさ。俺はアンタらとぶつかる気は無い。何より同じ異世界に紛れこんだモノ同士、話が合う事もある。だから俺にはアンタらを狙うリスクよりも、何れの事を考えてぶつからない方を取る」
「現実的な考えだ」
「だろ?だから今日は終わりにしよう。盗賊の生き残りはギルドの報酬に充ててくれ。盗賊の巣窟にも目ぼしい物はある。俺達はいらんがアンタらはいるだろ?」
「国の為にお前達もいるんじゃないのか?」
「生憎と盗品は後で問題が出てくると面倒なんでいらんのだよ。ではな坊や。また必ず会う」
次の瞬間その狙撃手は煙幕を張り姿を消した。
俺は苛立ちから剣で薙いで煙幕を晴らすが、
そこにはもう影も形も無かった。
軍人までこの世界に居るのか。
思った以上に危険がある。
俺はそう思いながら、皆の所に戻るのであった。




