ギルドの仕事かと思ったら遠足だった件
「帰るまでが遠足だぞー!」
先に元気良く歩く恵理に、
皆が白い目で見ているのは解る。
何故か俺が拘束されているからだ。
腕を引っ張られながら俺はうなだれる。
先行き不安すぎるんだが。
「元気なのは結構だが、お前その内刺されるぞ」
「刺されるのきっとアタシじゃないと思うけど」
「……解ってやってるなら話は別だ」
俺は振りほどこうとするが、解け無い。
コイツもこの世界に来て力は与えられている。
それでも俺の方が強い。
でもあまり激しく動くと当たりたくない所に
当たるから動き辛い。
恐らくそれすらも見越してやってるな。
コイツ悪質だ。
「で、その雑魚の居場所は?」
「解いてくれたら教える」
「無理―」
「無理じゃねぇよ。ホントいい加減にしろ」
「まぁまぁ女子高生と腕組めるなんて無い経験だからって喜ばないでよ」
「喜んでる顔に見えるとしたら、お前の性格が歪んでるだけだ」
「ないわー」
「あるわ!」
というやりとりをしていると、
ファニーが近付いてきて俺の頭を殴ると、
解こうと手をひっぱり始めた。
「何すんの?」
「嫌がっているんだから止めよ。最早我らの我慢も限界だ」
「嫌よ嫌よも好きの内ってね」
「……誰か助けて!この娘変だよ!盗賊の人でも良いから!」
俺は白い目で見る仲間達より、
まだ見ぬ盗賊に助けを求めた。
「ナンだ?テメェらは」
まさにその盗賊が森の茂みから出てきた。
いつの間にか囲まれている。
俺は戦闘態勢に入ろうとしたが、
腕を取られている。
そしてファニーも解こうと格闘している。
恵理は俺の腕を離さんとしている。
何なのこの人たち。
「おーいもういい加減にしてくれー。出番だぞー」
俺は呆れ果てて言うが、双方譲らない。
「フザけてんのかコラァ!?」
盗賊の皆さんもお怒りだ。
数は十人。
片手で捌けるかなこれ。
相棒、何とかなるか?
―可能ではある。少し魔力を使うが―
なら頼む。
コントロールはこっちでするから。
―了解した―
黒隕剣は俺の腰から抜けると、
盗賊の一人に向って飛んでいく。
俺は剣身と柄の間に意識を集中させて、
強く叩きたいと念じる。
相棒はその通りに動いてくれた。
「コ、コイツ変だぞ!」
ああ、それは剣が飛んでいるのが変なんだよね。
きっとそうだよね。
この状況でこの状態の俺の事じゃないよね。
ミニマムハートが傷つくわ。
曲がりなりにも戦いに対しては、
真剣に向き合ってきたのに。
日常では振りまわされても戦闘では
何時も先頭に立って闘ってきたのに。
俺はうなだれる。
――コウ、気を抜くな――
その声に俺は黒刻剣を
空いている左手で抜き、盗賊の一人のナイフを防いで
蹴り飛ばす。
それに合わせてビルゴやプレシレーネ、
ウーナにロリーナとリムンも動き出す。
「皆、取り合えず黙らせてくれ!」
と俺が指示をすると、
皆の動きが止まる。
そして俺の方を見る。
うん、解る。
黙らせるのは俺の横にいる二人だ。
解ってるけど違うんだよね今。
「だーかーらー!アンタひつこいんだよ!」
「ひつこいのはお前だ!何時までふざけているつもりだ!」
「はいはい、ひつこいじゃなくしつこいの
間違いだからね。そして二人とも真面目にしよう!
盗賊の人達に失礼じゃないか」
「「お前は黙ってろ!」」
Oh……マジかよ。
俺悪く無くない!?
「野郎!」
俺に斬りかかる盗賊を、
恵理とファニーは空いている手と足で
あっさり処理する。
二人とも強いから性質が悪い。
それを皮切りに次々と動けなさそうな
俺の所へ来るが、
恵理とファニーに叩き落されていく。
いがみ合っていても危険は察知しているようで、
最後の二人はヘッドロックを決められて
泡を拭いていた。
魔力消費よりも精神力が削られていく。
しかしこいつら何で街近くまで来てたんだ?
「おい、お前らはこれから街に盗みに入ろうとしていたのか?」
俺は拘束されつつも、一人を合気道の真似事で
背中を強く押し活を入れた。
むせて目を覚ました盗賊を皆で囲んで尋問する。
「へっ言うかよ!」
次の瞬間ファニーと恵理の蹴りが盗賊の顔面を捉えて
吹き飛ばした。
盗賊は木にぶつかりまた気を失った。
「……二人ともマジで落ち着け。そしていい加減にしろ」
俺は声を低くして言うが、
それを無視してファニーと恵理は盗賊の所へ行き、
ファニーが前から、恵理が背中から活を入れる。
当然盗賊は意識を取り戻すがもんどり打つ。
「わ、解った!言うからもう止めてくれ!
今日ここを商人が取引の為に通過するって
聞いて襲撃の為に待ってたんだよ!」
「で、その情報はどこから手に入れた」
「それは知らん。いや、本当に知らないんだって!
御頭が仕入れてきた情報だ!
そしたらお前らと出くわしたんだ」
「そうか……」
まさか罠って事は無いよな。
ここからはのんびり冒険者したいのに。
勘ぐってしまうのは癖か。
「コウ、それってさぁ、逆に利用出来ないかな」
「逆に利用って何だ」
「その商人の一行に情報を流して護衛して、
護衛代金を頂く。そしてノコノコ出てきたコイツらの
仲間を片付けてギルドの報償もゲットってのはどうよ!?」
「ほう、お前にしては良い事を言う」
「当たり前だし!お金は幾らあっても足りないもんね!」
おいおい意気投合するなよ。
「ビルゴ、それは不味いよな」
「そうだな。商人から護衛代を頂くのは
ギルドを介さないで依頼の交渉をするという事だから
良くないだろう。ただ商人一行を逃がさないと、
アジトに着いた所でもぬけの殻と言う事もある」
「報酬は別として、作戦としては妥当か」
恵理も中々侮れない。
そう思い見ると、気付いて得意げな顔をする恵理。
ちょろインかこいつ。
確かにビルゴの言う事ももっともだ。
「なら商人の一行を探そう。おいお前、
来るコースを案内してくれたら、
お前だけ見逃してやっても良い」
「……そんな事したら仲間にやられちまう!」
「へぇ。じゃあ今やっちゃおうか」
恵理は鎌を呼びだし盗賊の首に突き付ける。
「解った……だけど俺も盗賊のはしくれだ。一緒に衛兵に突き出してくれ」
「良いだろう。交渉成立だ。さっさと行くぞ」
「チェー。残念」
恵理の言った事をスルーして、盗賊に先を歩かせる。
縄をビルゴが準備していてくれたので、
さっきの盗賊九人を縛り上げ繋げて引き摺ってくれた。
流石ドラフト族最強の戦士。
軽々やってのける。そこに憧れる。
「私納得できないから加わるわ」
「アタチも!」
「ならば私も」
「私も」
拘束を解かれるどころか
両腕に背中に両端の裾を掴まれ、
俺は女性陣に連行されつつ商人一行を探すのだった。
傍から見ればお笑い集団である。
前二章が懐かしい……。




