夜に紛れて
何故だろう。
俺は引きこもりで無職で、
早く死にたいと思っていた人間だ。
それが環境が変わり、
力を得ただけでこんなにも
多くの人と交わり生きている。
しかも懸命に。
世界を壊そうとも思わない。
誰も死なせたくない。
楽しく生きていたい。
復興を手伝い、日が暮れて。
夜になると仲間たちと食を囲む。
笑顔が溢れる。
そして次第にそれは
エルフの里の人たちも加わり、
暖かさも溢れて行く。
こんな感じが世界中に広がれば
幸せになれるのではないか。
俺は一人エルフの里を歩く。
そして暖かさを、笑顔を思い返すと
涙が溢れそうになる。
上を向く。
何故俺は元の世界で
それが出来なかったのか。
笑顔で居られたらと思っていたが、
違う。
笑顔で居るんだ。
笑顔になれる事をする。
そうすれば暖かさを
溢れさせる事が出来る。
いつだって世界は俺の見方次第で
変わったんだ。
ああ、夜空が綺麗だ。
「チッ」
俺は舌打ちより先に殺気を感じて一撃目を避け、
二撃目を黒刻剣で受け流す。
「いつ来たんですか?」
俺は笑顔で魔族の神に挨拶する。
魔族の神は眼鏡を指で押しつつ元に戻すと、
剣を鞘に収めた。
「いつも何も、我らは好きな時に好きな所へ行ける」
「それは自由であり、不自由ですね」
「哲学か?」
「いえ、何処でもパッと行けるより、誰かと共に行く方が楽しいです」
「……お前は変わったか?」
「何も。ただ綺麗事を言う事に一生懸命になっただけです。でも結局綺麗事で終われませんでした」
「お前は全てを救いたいのか?」
「いいえ。全てを救う事なんて出来ないし望みません。ただ自分が居る所が、笑顔であればそれで」
「笑顔では居られなかったのか」
「恐らく。笑顔のまま終われないでしょう。自分が提案した事は、禍根を絶つ為に肉を切らせて骨を絶つものです。連鎖が終わる方法は思いつきませんでした」
「お前は全て救えるとは思わないと言いながら、責任を負おうとするのは何故だ」
「それが綺麗事を一生懸命言うと言う事です」
俺の言葉に眼鏡を押しつつ笑みを漏らす。
俺もそれに釣られて笑う。
「面白い。何時か見てみたいものだ。お前が作る国と言うものを」
「それは無いでしょう。俺は国の王になるには自由すぎる」
「引きこもりに最適な職だと思うがな」
「引きこもりは好き好んで引き籠るんです。引き籠らざるを得ないのとは違いますから」
「まぁ良い。今日はお前が腑抜けて無いか様子見に来ただけだ。更に腕を磨け。まだ覇を唱えるには力不足だ」
そう言って闇夜の中に消えて行った。
「エドベ様」
「おぉお前達!良く来てくれた!さ、ここから私を出してくれ」
「はい、今すぐに」
俺の勘が当たり、移送された急造の小屋に幽閉されていた
エドベを助けにエドベの部下達数人が来ていた。
恐らくこの人たちはエドベが正しいと思って、
着き従ってきた人たちだ。
予想だが、今まで散々手を汚して来たからこそ、
エルフの里が変わっていく事を受け入れられない
人達でもある。
それはそれで仕方ないので、
話し合うなりして欲しかったが、
やはり実力行使に出てしまったか。
「そこまでだ」
俺はその行為を止めるべく、姿を晒す。
エドベと部下達は焦り、
鍵を開けようとするが開かない。
エミルが売った錠前だ。
今まで開けてきた物とは訳が違う。
ブルームでもなければ開けられないだろう。
「クックソッ!貴様、そうまでしてエルフの里を支配したいのか!?」
「エルフの里を支配したいのはお前たちだろう?俺はそんなものには興味が無い。エルフの里は自ら灰の中からもがき、生まれ変わろうとしている。それに大人しく加わってくれれば良かった。闊達な意見を汲み交わして欲しかった。でも残念だよ」
「早く開けんか!」
「無駄だ」
俺は黒尽くめとの間合いを0にして、
素早く鳩尾を狙い一人倒すと、
残りを黒刻剣を
鞘に入れたままの状態で薙ぎ倒す。
「何でお前がそこまでする!?」
「言ったろう?お前は相棒の仇だ。だが斬る位じゃ治まらない。惨めに年を重ね、この里が変わり誰も覚えてないような状態になるのが、一番辛いだろう?それなら相棒も許してくれると思ってな」
「私は……私はこのままでは終わらんぞ!」
「一人では何も出来まい?これは温情でもあるんだ。観念して大人しくしてろ。それで良いだろう?ルール」
俺は後ろに隠れていたルールに声をかける。
「このままにして良いのか?」
「面倒だろうが、お前はこいつらを見張る仕事が足される。根気が要る事だが、頑張って見張ってくれよ。何度も混乱が起これば、エルフの里は絶えてしまう」
「……連れて行くぞ」
「俺も行こう」
倒した黒尽くめを、
俺とルールと女王に与した黒尽くめ達で
担いで別の急増小屋へ押し込んだ。
「お前は本当に殺さないんだな」
「必要無いからな。だがあれは頭痛の種になる。その点は申し訳ない。だが教訓としてエドベと言う存在を残す事で、戒めとしてくれ」
「……この先何時まで殺さないという選択肢を選べる」
「別に今まで命を奪った事が無い訳じゃないし、自分の命を蔑ろにする気はない。だが出来るギリギリまでは粘るさ。俺は力を与えられた。ルール、お前もそうだ。命令で殺して来たのかもしれないが、これから先はお前の判断だ。だが奪ってきた命に問いかけて、それでも斬るしかないなら考えれば良い」
ルール達は黙って俺について里へと戻る。
皆復興で疲れているのか、一緒の家で寝ている。
俺は特別に一軒借りてくれたようだ。
というか色々問題があるから隔離されているという
言い方が正しいのかもしれない。
俺はホッと一息吐いた後、瞼を閉じるのだった。




