引きこもり、冒険者ギルドに登録する
武器屋を後にした
引きこもりのおっさんと
竜の少女は、冒険者ギルドへ向かう。
旅の資金を調達する為に。
俺とファニーはリードルシュさんが
教えてくれた冒険者ギルドへと
向かった。大きな煉瓦で出来た
建物の看板には
”冒険者ギルドへようこそ!”
と書かれていた。改めて思うが、
異世界に来て文字も違うのに
すんなり読めるのは有り難い。
これも力と共に付随した能力なのだろう。
力と文字が読める事、話が出来る事の
3つ以外に何があるのだろうか。
リードルシュさんに貰った剣は
”魔力を膨大に消費される”
と言っていたが俺にも魔力があるのだろうか。
「コウ、中に入らんのか?」
「ああ」
ぼーっと眺めつつ考えていると、
ファニーから促されて中へと入る。
西部劇に出てくる、入口に小さな板が
左右に付いているウェスタンドアを
押して中に入ると、小さなテーブルが
幾つも並んでいる飲食店のような
雰囲気が広がっていた。
人で溢れているのかと思ったが、
人はいなかった。
「あらいらっしゃい新人さん」
店の中を見渡していると、
俺たちの右側から声が掛かる。
そちらを向くと、ブロンドのウェーブが
掛かった長い髪の女性が
カウンターに肘をつきつつほほ笑みながら、
こちらを向いていた。
「あ、ど、どうも」
その女性はアメリカ人のモデルのように
ハッキリとした彫りの深い
整った顔立ちをしており、美人なので
引きこもりが顔を出し動揺してしまった。
「すまんが、こちらで仕事が頂けると
聞いたのだが」
俺の後ろに居たファニーが、
ずいっと前に出て女性に尋ねた。
「そうよ。ここは冒険者ギルドですからね。
私はミレーユ。貴方達は?」
「あ、お、俺はコウ」
「我はファニーだ」
若干食い気味で名乗るファニー。
そんな様子をミレーユといった女性は
小さく笑うとカウンターの下に手を伸ばし、
紙を取り出した。
「じゃあここに記入して頂戴。
夕食前だから冒険者の人たちは
少ないけど、もうそろそろ増えてくるはずだから」
「あ、ど、どうも」
俺はぎこちなくカウンターに近付き
記入しようとしたが、
ファニーがまたもや俺を追い越し
カウンターに行き、
さっさと記入してしまった。
「はい、どうも。これで貴方達はこの街、
エルツの冒険者ギルドに所属することに
なりました。
ギルド証を2つお渡しします。
無くさないようにね。
初回は無料だけど、紛失すると発行するのに
銅貨100枚は掛かるから」
「は、はい」
金銭感覚が解らないが、恐らく
安くは無いのだろう。
安いと気軽に無くす人もいるだろうから。
「二人とも前に並んでくれる?
一応貴方達の力とかを
測らせてもらうから。
仕事を回すのに目安が無いと困るし」
俺はファニーの横に立つ。
何故かファニーに肘で脇腹を強めに
突かれ一瞬顔が歪んだ。
「……貴方達以前はどこのギルドに居たの?」
ミレーユさんは怪訝そうな顔をして俺達を見た。
まぁ確かに俺もファニーもこの世界の一般とは
かけ離れているから
そう言われるだろうとは思っていた。
「いえ、森で狩りをしつつ生計を
立ててたんですが、
ゴブリンが増えてしまって。
それで冒険者ギルドに
登録して資金をためて、ゴブリンを
追い出そうと思いまして」
俺は面倒な事になる前に
適当な話をでっち上げた。
ただ流石引きこもって居ただけあって、
早口で捲し立てるようになってしまった。
自然にしようとして失敗したパターンである。
「なるほどね。貴方の場合は力と魔力が
突出しているだけで、
後は平均以下だから一応納得しておくわ。
御隣の娘に関しては、悪い雰囲気はしないし、
低めにして二人に仕事を回すわね。
この街は初めてみたいだし、
仕事始めは簡単なものにしましょう」
「あ、有難う御座います……」
どうもミレーユさんの前だと、
引きこもり体質が顔を出してきて
上手く喋れない。
ミレーユさんはそんな俺を置いて
用紙をカウンターの下から
取り出した後、カードを2枚出した。
「これが初めの仕事の詳細が書いてあるもので、
このカードがギルド証。ギルドに関しての
決まりごとは、仕事の詳細が書いてある紙と
一緒に渡しておくから、
読んでおいて頂戴ね。
違反すると最悪ギルドから
追われる事になるから気を付けてね」
怖い事をサラッと言って戸惑うが、
それを見透かしたのか
「大丈夫。一般常識的なものがほとんどだから。
それにギルドに追われる様な事になったら、
大体兵隊にも追われる事になるし」
と安心させるように言われた。
俺は黙ったうなずく。
「説明有難う。で、この近くに根城に
出来そうなところは無いか?」
ファニーは俺がもう少し聞きたい事が
あったのを手で制止し、
ミレーユさんにそう尋ねた。
「それならうちの2階を使って頂戴。
あいにく部屋の数が少ないから
別々の部屋という訳にはいかないけれど、
それでも良ければ」
「大いに結構。案内して頂こう」
ファニーはミレーユさんが話し終わるか
終わらないか位でそう言った。
俺は一人あわあわしつつ、それを見守っていた。
「はいはい、じゃあ二人ともこっちへどうぞ」
ミレーユさんは後ろにあった棚から
カギを取ると、カウンターを出て
俺たちの後ろを通り進む。
俺はすぐにそれを追おうとするが、
またファニーに押しのけられてしまった。
トントン拍子に今日の宿も決まり、
野宿をせずに安堵しつつも
何だか落ち着かない心地のまま、
ミレーユさんに案内された部屋へ入るのだった。
冒険者ギルドでの登録を済ませ、
宿も決まった
引きこもりのおっさんと
竜の少女。
書類に目を通しつつ、
夕食までの時を過ごすのだった。