大樹の鼓動
「皆さんこちらへ」
ブルームと母親である女王は、崩れた神殿の奥へと
進んで行く。
外では雷が落ちたような音が絶え間なく続いている。
ウーナは振り返りつつも前に進む。
「お前達!コウはどうした!?」
ダンディスはコウが瞬時に居なくなって
呆気に取られていたリードルシュ、イリアを連れて
神殿まで戻ってきていた。
何かあるとすればここだと踏んでいたからだ。
「コウ殿は今何か意思が通じない状態になっています」
「大樹が何か原因では無いかと考えておられるようで、私達に大樹を調べて欲しいと、変わる前のコウ様から依頼を受けてきました」
「……アイツもホントややこしいやつだな」
「全くだ。大人しく生活出来ないものかな」
「コウ様らしいと言えばらしいです。アイゼンリウトに引き止めなかったのも、そういうあの方らしさを思えばこそですから」
「フッ……姫も言うようになったな」
―――汝ら何を求める?―――
和やかな雰囲気になったダンディス達の元へ、
低く威厳のある声が届く。
女王は膝を突き、両手を重ねて胸に当て目を瞑り
祈る。
ブルームも真似をして祈った。
ダンディス達は警護するように周りを警戒する。
「大樹よ、エルフの里の守り神よ、どうか怒りを鎮めたまえ」
―――我の怒り?それは違うであろう―――
「では」
―――お主の中にある怒り、エルフの里の者たちの怒り―――
「それは……」
―――我はずっと見守り感じてきた―――
―――もうそれを解決するには全てを―――
―――エルフの里その物を無に帰するしかない―――
―――そう感じたからこそ、我は与えたにすぎない―――
―――誰も彼もが疑問を感じながら―――
―――小さな怒りともどかしさを感じながら―――
―――ただ伝統と掟を護り固執してきた―――
―――自ら変わる事を拒んでいるのに―――
―――変えなければならないと思っている―――
―――この矛盾に我もお主たちももう疲れただろう―――
―――だから壊すのだ全てを―――
―――器は用意されていた―――
―――我はそれに力を注いだに過ぎない―――
―――器は満たせなかったが壊すには十分―――
「大樹よ。壊すなら私達の内の誰かにすれば良いではありませんか。何故里の者以外の者を選んだのです」
―――お前達にその器があれば―――
―――エルフの里は変わっていたであろう―――
「それは……」
―――あれは天が与えた器―――
―――破壊する事で新たな種を植える者―――
―――人の街を蘇らせた英雄―――
―――この里の誰もが成しえない―――
―――そんな者がここに来てくれた―――
―――私は天啓を感じたのだ―――
―――エルフは滅ぶべしと―――
「大樹、でもコウを返して!あの人を壊す権利は誰にも無いはず!エルフの里を滅ぼすなら、私の手でやるから……だからコウを返して!」
―――女王の娘よ―――
―――この凝り固まった里をいかなる方法で滅ぼす?―――
―――あの天の器以外にどうすれば里を滅ぼせると言うのだ―――
―――お前もエルフであろう?―――
「コウが居てくれれば、あんな乱暴な方法じゃなくても滅ぼせます!現に私は従来のエルフとは全然違います。私が変われたのも、母を助けてくれたのも、あの人なんです!そして里を救ったあの人が居れば、今までの概念としてのエルフは滅びます」
―――そうか―――
―――ならばその結末を見届けよう―――
―――概念としてのエルフの死を―――
その声が終わると、大樹は光を吸い込み始めた。




