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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
反乱のエルフ

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暴走の果て

「死ね」

 俺はここに来て人に対して久々に口にした

 最悪な言葉に、以前なら何も思わなかったが、

 今は凄く気持ちが悪い。

 死とは軽い事では無い。

 俺が軽く扱われたから解った事だ。

 だが俺の口からは自然と出る。

 あの頃のように。

「ぐっ何だこいつは!」

「チィッ!傀儡共!砕け散るまで戦え!」

 エドベと女は何かしようとしていたが、

 俺は瞬時に差を詰めると、

 エドベの顎を捉えて空に浮かし、

 女の鳩尾を蹴りあげ空に浮かした。

「聞こえなかったのか。死ね」

 俺は今客観的に俺を見ている。

 俺であるものが、何かの意思によって

 勝手に動いているように見える。

 だが感覚は伝わる。

 人を殴る感覚、人を蹴る感覚。

 吐き気がする。

「お、おのれぇええええ!」

 何層も重ねられた魔法陣で俺であるものは拘束される。

 しかしそれを無かった事にしながら俺はエドベに

 近付き、

「もう一度言う。死ね」

 と耳元で囁くと、エドベの脳天を

 強打し地面にめり込ませた。

 泡を拭いて気を失うエドベ。

「もらい!」

 背後から声がしたと同時に振り向き

 鎌を避けて懐へもぐりこむ。

「まだ解らないのか女。未熟を恥じろ。そして死ね」

 また耳元でささやくと、

 俺は拳で重い斬り女を殴りつける。

 斬りもみしながらエルフの里の入口まで吹き飛ばされる

 少女。

 このままでは本当に死んでしまう。

 まだ名前も聞いていないのに。

 アイツがあんなになったのも何か理由がある。

 出来れば何かしてやりたいのに。


「クソがぁあああ!」

「クソはお前だ口を開くな下郎」

 必死に抵抗する少女の鎌を難なく掻い潜り、

 鳩尾に一撃、肝臓目掛けて一撃、

 そして顎を蹴りあげて宙へ浮かすと、

 それを俺は追撃する。

 少女は受け身も防御も取れずに

 ただ浮いていた。

「終わりだ」

 俺である者は首を掴み、

 顔面にひざ蹴りを浴びせると、

 大きく振りかぶった。

 やめろ。

 

 やめろ。

 

 やめろ。

 

 やめろ!

 

 それ以上する必要は無い!

 お前は誰だ!?

 何故俺の体なのに俺が自由にならない!?


「五月蠅い。俺はお前の底にある意識そのものだ。壊したい、死にたい、滅べばいい、死ね。そう呟いて来た相手であり、お前その者だ。だからこそ俺はお前の思いを解き放つ」

 そう俺は俺に対して言うと、

 少女を振りかぶって地面へ叩きつけるべく

 投げた。

 誰でも良い!

 誰か止めてくれ!

 綺麗事だけじゃないのは解っている。

 だがこんなのは間違っている。

 こんな事は望んじゃいない。

 止まれ俺!


「ん?」

 地面に爆音がした後を見ると、

 そこにはファニー達が居た。

 ブルームが母親と共に居て、

 何か精霊術のようなもので

 妖精を呼び受けとめていてくれた。

 助かった。

「……貴様ら、そいつを寄越せ」

 俺はゆっくりと地面に降りる。

 そして手招きをする。

「貴様誰だ?」

 ファニーが皆を庇うように前に出る。

「俺は俺だ。俺以外の何者でもない。他に何というのだ?」

「お前はコウではない」

「いやこれが本来の俺だ。こんな世界全て壊してやる。所詮夢現の世界だ」

「やはりお前は違うな。コウは夢現の世界であろうと、そこで生きている人達いが居る事を知っているし、綺麗事ばかりではないがなるべくそれに近い形で解決したいと願っている、愚かな男だ」

「愚かな振りも飽きたのだ。俺は今とてつもない力に溢れている。それを寄越せ。跡形もなく粉みじんに砕いてやる。この世の苦痛を余すことなく与えた後でな」

「やらん。元のコウを返してもらおうか」

「俺と戦うだと?馬鹿な真似はよせ。今の戦いを見ていなかった訳ではないだろう?お前達など10数える間に粉砕できるのだ」

「やってみろ」

 俺は自分を押し留める。

 動くな!

 動くな!

 動くな!


「さぁ足掻いて見せろ。事によれば俺がお前達の知る俺に戻るかも知れんぞ?」

 俺はファニーの間合いに飛び込む。

 そして仁王立ちする。

 だがその時、少女が逃げ出そうとしていた。

 俺は瞬時にそれを追い立ちはだかる。

「貴様正気か?お前ならご存知だろう?」

「ひぃ」

「有名なセリフで陳腐ではあるが、効果がある」

「や、やめて」

「ボスからは逃げられない」

 俺は微笑むと、少女の首を掴み

 地面に叩きつけめり込ませた。

 どこからこんな力が。

 というか俺がいつボスになったんだ!

「ボスだろう。あのアーサーのように、俺は今この世界1の力を持つ者となったのだ。さぁ来るが良い。少しの希望を胸に俺を屈服させてみろ」

「良いだろう。死なん程度に手加減してやる。その思い上がりを叩きつぶしてくれる」

「威勢が良いのは結構。では良いかな?」

「いつでも」

「ならば」

 俺はファニーと乱打戦へ入る。

 黒刻剣は鞘に納まり、黒隕剣も動かない。

 相棒二人も今の俺を拒否してくれている。

 有り難い。

 女王が頑張ったんだ。

 今度は俺の番だ。

 この状態になったのは

 あの巨人から力を吸い取ったのが原因。

 だとすれば、俺の悪意を表面化させているのは、

 ひょっとするとあの大樹の影響もあるのではないか。

 あの大樹はずっとこの里を見守ってきた。

 エルフの生真面目さを愛していただろうが、

 その鎖国的な里に対して

 里の掟を破った者を、同胞を処分するエルフを見て、

 大樹は悲しい思いをして来たのではないか。

 それがエドベの魔法陣やロキの手法に乗る形で

 現れ、滅べば良いと思ったのではないか。

 だとすれば大樹を諌める事が出来れば、

 俺の暴走も止まるのではないか。


 相棒、伝言を頼む。


 ―承知―


 ――承知!――


 俺の体から2振りの相棒は飛び、

 ウーナ達の元へと行く。

 そして俺の考えている事を伝えてくれた。

 俺は何とか視界に移る皆に

 思いが伝わるよう念じると、

 皆が頷き大樹へと向かってくれた。

 ああ、まだ救いがある。

「聞こえなかったのか?」

 俺はウーナ達の前へ立ちはだかる。

 クソッ勘の良い奴だ。

「行かせん」

「それはお前だ!」

 俺の後頭部に激痛が走り、吹き飛ぶも

 宙で態勢を立て直し地面に降りる。

「なるほど。流石竜。力を解放すればこの程度は出来ると言う事か」

「解れば良い。お前の相手は我だ。お前とは一度闘うべきだと思っていた。我は我慢していたのだ。お前の素行に対して。憂さを晴らさせてもらおうか」

 ファニーの笑顔が怖いし素行が何の事か解らないが、

 今は頼もしい。

「フン。下らん。どいつもこいつも下らん。自分の事ばかりで他人の事などどうでも良いのだ」

「それはお前もだ。普段のお前の素行を思い返してみろ。我が言いたくなるセリフだゾそれは」

「黙れ」

 俺の拳は空を切る。

 そしてファニーの拳が鳩尾に決まる。

 最初は効いていないように思えたが、

 俺は膝を突く。

 めちゃくちゃ痛い。

「おい、寝るのは早いぞ?」

 その言葉が終わる前に、後頭部に激痛が走り、

 地面に顔をうずめる。

 そしてファニーは容赦なく追撃し、

 俺に反撃の隙を与えない。

 ファニーめちゃくちゃ強いし、

 そんなに憂さを溜めていたのか!?

 と思うと元に戻っても怖くなってきた。

 皆早く大樹を何とかしてくれ。

 でないと俺がマジで死ぬかもしれない。


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