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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
第一章・引きこもり旅立つ!
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引きこもり、不思議な武器屋のおやじと会う

資金を得た引きこもりのおっさんと

竜の少女は、身なりを整えるべく、

ダンディスに案内された

店へと行くが……

 ダンディスさんから紹介された

2軒先の店に辿り着く。

そこには”武器屋”と書かれている

ように見える。

何ともそっけない。

ここで身なり一式揃える事が

出来るのだろうか。


 心配しながらドアを開けて中に入る。

薄暗い部屋の中には武器だけでなく、

防具や衣料もあった。

どれもシンプルだが出来は良さそうだ。

店主のこだわりなのか、華美な装飾が

付いている物が殆どない。


「誰だ?」


 奥の方からこちらに向かって声が掛かる。

店に入ってきたのだから客以外いないだろう、

と思いつつ


「お邪魔します。ダンディスさんの

紹介で来ました。

身なり一式揃えたいんですけど」

「……フゥ」


 答えたら溜息を吐かれた。

これは一筋縄ではいかなそうだ。

でもこっちは取り敢えず身なり一式揃えて、

この世界で奇異な格好をしている状態を

解消したい。


「失礼します」


 ファニーと共に奥の方へ進んで行くと、

耳の尖った肌の青白く目つきの悪い、

黒髪の男が肘をついて座っていた。


「適当に選べ。ダンディスの紹介なら

安くしてやる」


 関わり合いになりたくないと言った風に答えた。

何だか同じ匂いがする。引きこもりの匂いが……。


 取り敢えず店の中を物色してみる。

街中の人を見ていてオーソドックスな格好は

 長袖のシャツにベージュのベスト、

ベージュのボトムスのようだ。

女性はワンピースに上着を

羽織っている人が多かった。


 ただこれは冒険者では無いので、

やはりボトムスが良いだろう。

いくつかファニーに自分の好きな物を

選ばせて、俺はベーシックなものを

チョイスして店主の所へ持って行く。

武器は見たけど、俺の力に

耐えられそうなものは無かった。

どれもキレ味は良さそうだけど。


「……ここは武器屋だってのは解ってるのか?」


 店主は不機嫌全開でそう言ってきた。


「ええ、でも残念なことに俺の力に

耐えられそうなものが無いんで、

取り敢えず服だけで」

「……何?」


 店主は俺の答えにカチンと来たのか、

語気を強めて言った。


「生まれつき馬鹿力なもんで。

殴るだけでも十分だし」

「……こっちへこい」


 殺気を発しながら店主は

更に奥にあった扉を開けて中へ入って行く。

何がしたいのか予想がつかないが、

食われる訳じゃなし行ってみるか。


「俺に斬りかかってこい」


 中へ入ると一本の剣を投げつけられた。

それを受け取り見ると、特に店で

売っている物と変わらなかった。

目線を店主へ戻すと、店主は殺気を

発しつつ剣を構えていた。

どうあってもこのまま終わりにはならない感じだ。


「解りました」


 俺は短く答えて剣を片手で持ち、

店主へ斬りかかる。

厳密には剣を叩き割ろうとして振り下ろした。


「何っ!?」


 店主の驚きの声とともに、

剣は俺が持っていたものと

店主の持っていたもの両方が砕け散った。

怪人、いやゴブリンを倒すほど、

そしてファニーを封じていた岩を砕く

ほどの力だ。普通の剣を持ったところで

意味が無い事は解っていた。

衝撃に剣が耐えられないと言う事が。


「……良いだろう」


 店主はそう言いつつ何か箱の中を漁り始めた。

そして殺気は全く無くなっていた。


「こいつならどうだ」


 投げてよこされた剣は、黒く輝く

装飾も凝った剣だった。

俺はそれを握って振ってみる。

……これは店のどの剣とも違う。

異質なものだ。そう感じた。


「……どうやら馴染むようだな」


 店主は俺を見てニヤリと笑った。

最初の雰囲気とは随分違う。


「お主、この剣をどこで?」


 ファニーが俺の後ろから店主に尋ねた。

それを聞いて店主は眼を瞑り

暫く黙った後


「そいつは俺が昔鍛えた剣だ」

「お主が……?これは普通の技では無いな?」

「ああ、その通りだ。お前も似た者だろう?」

「……誰だお前は」


 ファニーがゴブリンを威圧した時の

ような感じで店主に問う。

それを感じても店主は平静だった。

フンと鼻で笑った後


「俺は見ての通り、エルフだ。

ただ禁呪を犯したダークエルフだがな」


「エルフだと?ドワーフでもないエルフが

剣を鍛えるなど聞いた事もない。

エルフにそんな力は無いはずだ」

「その通りだ。だが俺は憧れた。

この世で最も強い剣を作る事に。

そして禁を犯してこの有様だ」

「ではこれは禁呪の結晶か?」

「違うな。製法の一部に禁呪を用いているが、

呪われた武器ではない。

ただべらぼうに魔力が吸われるがな。

その代わり切れぬものも砕けぬ物も、

持つ者によっては無い。極端で使い手を選ぶ剣だ」

「……エルフを材料として使ったのか?」


「それも違う。エルフは極端に

保守的なのはお前は知っているな?

全てエルフの法を守り伝統を守り、

そこからはみ出る方法を許さない。

用いる物もまたしかり。

エルフがレイピアを得意とするのも、

それしか作れないから得意なだけだ。

禁呪の種明かしをするなら、黒曜石と隕鉄を混ぜて

鍛えては溶かし鍛えては溶かし、

その後術式を組み込んで

黒曜石と隕鉄の元素をガッチリと

組み合わせて剣となした。

エルフの術は普通の術とは違う。

門外不出で尊いものだと

されている。傷を癒す物などな。俺が用いた術は」

「魔術に近いな」

「そう言う事だ。元素を扱うと言う事は、

術をより研究し理解し

もっと突っ込んだ部分を習得するしかない。

だから俺は魔術師に師事し、習得して完成させたのだ。

そして里から追われ、肌も髪もご覧の通りだ」

「生まれつきのダークエルフではなく、

禁を犯した罰によって変化したのか」

「理解が早いな。その通りだ。

エルフの保守的な部分の

異常さが解るだろう?お前達もエルフの里には

近付かんことだ。何をされるか解らんぞ?」


 店主はフフフと小さく笑う。

そこに後悔も恨みも無かった。


「じゃあ何で店の中の剣は」

「単純な話だ。生きる為に大量生産した

剣に何の魅力がある。

俺も最初は世界一の名工を目指して良い物を作り

高い値段で売っていた。

王家のお抱えになったこともある。

だがな、お前もそうかもしれないが、

人間のバカバカしさに呆れ果ててこの街に来た。

生きる為だけに作った剣などには

何も感じる事はないからな。

店で並んでいる物は俺の心情が反映されている。

ただ折れたら買いに来て疑問を

感じない者たちには、

店にあるもので十分だろう?」

「なるほどな。理想と現実が乖離している事に

絶望したと言ったところかな」

「まぁな。久しぶりに解る者に

逢えて嬉しくなった。

それは全部持って行け。

俺からプレゼントさせてもらおう」

「え!?そんな大事な物を!?」

「剣は使ってこそ意味がある。飾りものでは無い。

ただ気がひけると言うなら、

服込みで金貨10枚でどうだ」

「……有り難く頂きます」

「ああ、使い込んでやってくれ。

剣はお前を裏切らない。お前も剣を

裏切らないことだ。

それがその剣を使うコツでもある。

後交換条件と言ってはなんだが」

「なんでしょう。聞ける事ならなんでも」

「単純だ。偶に見せに来い。剣の具合も気になるしな」

「お安いご用です。旅の資金が出来るまで

この街に留まる予定ですから」

「ほう。なら丁度良いな。ここから斜め向かいに

冒険者ギルドがある。そこで登録すれば、

仕事がある。

今この辺りは魔物が多いからな。

腕を磨くにはもってこいだろう。

その異質な力を制御する方法を学ぶが良い」

「ありがとうございます!」


 俺は久しぶりに人に対して

素直に礼を言って頭を下げた。

初めてはいつだったか。

これもまた遠い昔だ。


「さ、この部屋で着替えて

冒険者ギルドに行くが良い。

あそこは夜になると酒場の色が強くなる。

そうなると落ち着いて話など

出来ないだろうからな」

「ありがとうございます。

あの、聞いても良いですか?」

「何だ?」

「俺はコウと言います。貴方は」


 それを訊ねられた店主は

眼を見開き軽く笑った後


「失礼した。あまりに久しぶりの事だった故に、

名乗るのを忘れてしまった。

俺の名はリードルシュだ。今後とも宜しく、コウ」


 手を差し出された。俺は恐る恐る手を出すと、

リードルシュさんは俺の手を握って硬く握手した。

その後俺とファニーは着替え終わると、

リードルシュさんに別れを告げて

冒険者ギルドへと向かった。

旅の資金を稼ぐ為、

ある程度のものが整い始めた

引きこもりとおっさんと少女。

この後旅の資金を稼ぐべく

本格的な行動へと移るのだった。

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