ドワーフのエミル
「ミレーユさんおはよう」
俺はカウンターに腰掛挨拶をした。
「おはようコウ。昨日は有難う」
「こちらこそ。迷惑かけてすまない」
「迷惑なんて無いわ。貴方が壊したものでも無い物を直して、更にご飯まで奢ってくれたんですもの。皆宜しく伝えてくれって」
「そっか。また皆と馬鹿騒ぎしたいもんだ」
「出来るわよ。貴方が望めば」
「頑張ります」
俺の目の前に朝食が出された。
ミルクに小麦を小さく固めて物が浮いているものと、
サラダにスクランブルエッグ、鶏肉の骨付きだった。
小麦を小さく固めたものは
コーンフレークのような味がして、
しかも甘みがたっぷりだ。
胃に優しい。
染み込むようだ。
ゆっくりと噛んで味わう。
そして胃にゆっくりと流し込んでいく。
「お、おはようございますコウ様」
「おはよう……コウ」
「コウ殿、おはようございます……」
3人娘はぐったりとした様子で現れた。
「朝から不景気な顔をして」
「お前の所為だコウ」
「そうですわ。あんな乱暴な宴会に……うっ」
「ウーナ、トイレに行ってくればどうだ?」
プレシレーネがウーナを介抱している。
魔族とシスターという奇妙な取り合わせは、
うちのパーティならではだな。
そう言えばトイレはかなり昔からあったから、
この世界でもそう呼ばれていた。
生物が生きる上で欠かせないものだから
当然か。
「おはようございまーす!」
項垂れ娘3人を横に朝食を食べていると、
後ろから元気な声が飛んでくる。
3人娘は耳をふさいだ後頭を抱える。
そんなに効いてるのか昨日の宴会は。
「お!エミル!待ってたよ!」
振り返るとエミルが立っていた。
グッドタイミングだ。
「随分早く完成したんだね」
「はいー。私も手伝いまして、何とか。本当は昨日の夜にでもと思ったのですが、乗り遅れてしまったようですね」
エミルは3人娘を見て察したようだ。
「エミル、良かったら朝食をご馳走するよ。勿論夕飯は別の機会に奢らせてもらうから」
「有難う御座いますー。ではご一緒させていただきますねー」
俺は自分の席を空けて、エミルを促すと
エミルは笑顔でそこに座る。
俺は椅子をタイミングよく押して、
エミルが座ったのを確認すると
その右隣へ座る。
「ミレーユさん、エミルにも朝食をお願い」
「はい、ちょっと待っててね」
そう言ってミレーユさんは奥へと下がる。
「コウさん、ではこれをどうぞ。お約束の品です」
そう言ってエミルは手に持っていた袋と、
背中に背負っていた鞘を俺に向けた。
「有難う」
俺は袋をテーブルに、エミルの背中にある鞘を
優しく取ると、黒刻剣を
収める。
どうだ相棒、収まり具合は。
――良い感じだ。今の我の気を抑えるにも――
そっか気に入ってくれたなら何よりだ。
今のうちに気をためておいてくれ。
必ず爆発させるから。
――心得た!――
威勢の良い声に少し頭が痛くなるも、
頼もしいと感じた。
「コウさん、エルフの里にはどうやって侵入するおつもりですか?」
エミルは俺が黒刻剣を
収めたのを確認すると、そう尋ねた。
そうだな、それが今一番問題だ。
エルフの耳を偽装しても、エルフが一人も居ない。
「それが実は困っててね」
「耳を偽装できても、それはエルフが数人居なければ」
「だよなぁ。当てが悪い意味で外れて困ってるんだ」
「でしたら私が協力しましょうか?」
俺は目を丸くしてエミルを見る。
「エミルってエルフなの?」
「いいえー。ドワーフです」
「だよね。……あ、なるほど」
「そういう事です。私たちドワーフとエルフは仲が悪いですが、背に腹は代えられませんから」
「となると、俺たちは肌をもっと白く何かで塗りたくれば、エミルを連れて来たエルフっぽく見えるわけだ」
「悪くない案だと思いますが」
「いや、凄く助かるんだけど、血生臭い事になりそうなんだが」
「それについてはご心配なく。先にも申しましたが、ドワーフとエルフは仲が良くありません。例え敵対しても私は困る事はありません。そして私たちドワーフは力には自信がありまして」
「その背中に背負っているのは折りたたみの斧?」
「ですです。リードルシュさんお手製の可変式アックスですー。護身も問題ありません」
「しかしなぁ今回は依頼でもないし、無料奉仕に近いんだが」
「もし仮にエルフの里が壊れるなら、ドワーフにとって利益ですし、エルフの里が良い変化をして外と交流できれば、私たちにとっては商売のチャンスです。先んじて交渉できれば、大きな儲けが生まれますのでー」
笑顔でコワい事を言うエミル。
流石ドワーフの商人。
良い商人っぷりだ。
きっちり損得を考えて協力を申し出てくれたわけだ。
「コウ、話に混ぜてもらうけど良いかしら」
ミレーユさんがエミルの朝食を用意しつつそう言った。
「勿論」
「有難う。今回こういう事になって、私も防戦したから犯人は解っている。本来ならギルドから布告を発して、エルフの里に犯人の引渡し要求をしても良いのだけど、そうなると大事になってしまう」
「だろうね。エルフでも街にとけ込んでいる人も居るだろうから、そんな事になったら嫌な感情を抱く人も居なくはないか」
「そういうこと。ダンジョンの依頼から派生した依頼として、私からクエストとして依頼するわ。この件の解決を」
「良いのかい?」
「こっちとしてもコウが解決してくれれば、必要最低限の人員と費用で出来るわけだし助かるのよ」
「流石ミレーユさん。商売上手ですねー」
「エミルほどじゃないわよ」
近い仕事同士気が合うようだ。
というかミレーユさんからエミルを紹介されたから、
昔からの知り合いか。
「じゃあ改めて協力をお願いしようかな」
「喜んで」
ミレーユさんが入れてくれたミルクのカップで
俺たちは成功を祈って乾杯する。
こうしてエルフの里への準備は着々と始まっていた。




