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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
反乱のエルフ

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ここは冒険者ギルド

「よしっと」

 俺達は襲撃された冒険者ギルドの復興に

 全力を注いだ。

 ビルゴに資材を手に入れてもらい、

 T字の頭になっているこの世界の釘を

 使いながら、テーブルや椅子を直して行く。

 途中から他の冒険者も加わり、

 思いの他早く終わった。


「アンタ達も大変だな。妙な事に巻きこまれて」

 何度かギルド内で顔を合わせた事のある

 冒険者として俺よりも凄い人が

 声を掛けてくれた。

「申し訳ない。皆の場なのに」

「いやアンタが謝る事は無いさ。な、皆」

 そう他の冒険者に声を掛けると、

 皆そうだと言ってくれた。

 有り難い。

 皆の憩いの場を俺達の所為で荒れてしまったのに。

「所でアンタ達はこれから何処へ行くんだ?」

「ちょっとエルフの里まで」

 俺はつい素直に答えてしまった。

 それを聞くと冒険者の先輩は

「それは大変だ。皆、何か情報があったらくれないか?」

「エルフの里なら近くを通った事がある」

「俺もだ。あの近くは結界が張られていて」

 次から次と情報が舞い込んでくる。

 ここは冒険者ギルドなんだなぁと改めて

 思った。

 

 集まった情報はエルフの里の近くには結界があり

 エルフ以外の侵入が難しいと言う事。

 結界の近くには門番が居て、

 容易に近付けない。

 エルフの里に紛れこんだ事もある人が居て、

 直ぐに見つかり追い回され殺されかけたという事。

 エルフの衛兵と戦った事がある人は

 その衛兵はレイピアという細身の剣を使い、

 素早い攻撃を仕掛けてくるものの軽かったそうだ。

「まぁ何にしても難儀な場所だよな」

「そうですね。あの、俺コウって言います。貴方は」

「ああ、悪い名乗るのを忘れてた。俺はヘラクルスだ」

 ドラフト族に負けない巨体で、

 その割には軽装、しかし身の丈より大きな剣を

 背負っていた。

「アンタの名前は最近良く聞くようになった。何時か剣を交えてみたいものだな」

「いやいや、偶々ですよ。俺は強くないですから」

 俺とヘラクルスさんは握手を交わす。

 豪快にヘラクルスさんは笑った後、

「そう言う奴に限ってデキるものさ」

 と言って肩を叩かれた。

 不思議と嫌な感じはしなかった。

 苦手な部類の人の筈なのに、何故か親近感が湧いた。

「ヘラクルスさんもエルフの里に?」

「ああ、一度入った事がある。最近だが、どうもあの里の連中は良からぬ事を考えているようだ」

「良からぬ事?」

「そうだ。エルフって連中は保守的なのはお前さんも知っていると思うが、冒険者ともなれば、一度や二度は通りかかる。中には紛れ込む奴がいるのも話を聞いた通りだ。外からの刺激を受けて、エルフの中でも里を出て街に溶け込んで生活しているものも居る。それが連中からすると気に入らないらしい」

「まさか外に逃げたエルフを処分しようとか?」

「連中は自らが優れた種族で世界の神秘を護る存在だと自負している。それが外に漏れるのを一番嫌っている。だがエルフの女王は、少しずつでも良いから外と交流を持とうとしたらしい。しかしその女王が今危篤状態にある。それが外の連中の仕業だと先導している奴がいて、どうにかしようと企んでいるらしい」

「……なるほど」

 

 思った以上に状況は切迫しているようだ。

 超保守的から超過激的へというのは、

 歴史で学んだ事がある。

 エルフといえば、リードルシュさんがそうだが、

 剣の速さは相当なものだろう。

 だがリードルシュさんほどの使い手が、

 保守的なエルフの中に居るとは考え辛い。

 となると、結界の件もそうだし

 リードルシュさんへの処分の事もそうだが、

 呪術の類が得意なのだろう。

 となるとどの世界でもやる事は同じか。


 俺はふぅと溜息を吐いて天井を見る。

 待つのがこんなにも堪えるとは。

 だが急かすわけにも行かない。

 エミルに任せた以上はただじっと待つのみ。

「ミレーユさん、皆にご飯を奢りたいんだけど」

「あら良いの?」

「先行投資の意味も込めて」

「ほう、お前さん分かってるじゃないか。冒険者ってのは同業者で気前の良い奴は好きだ」

 同業者か。

 俺も無職では無くなったんだなそう言えば。

 無職から個人事業主に名前が変わったようなものだろう。

 仲間もいる事だし、事業主としては皆を養わなければ

 ならない。

 かと言って今回の件は依頼で動くわけではない。

 無料奉仕か……。

 そんな事を考えていると、オードルが

「コウさん、ご馳走さんっす!」

 と言って声を掛けてきた。

「いいや、今後も頼むよオードル」

「お任せくださいっす!」

 前ほど苦手ではなくなったオードルに笑顔で言う。

 オードルは解り易く浮かれながら

 各テーブルにミレーユさんお手製の夕飯と、

 酒類が振舞われた。

 ギルドの中は大騒ぎだ。


「プレシレーネ、師匠は静かなのが好きか?」

「……いいえ、何時でも明るく鍛冶師の仕事を愛しておられました」

「ならプレシレーネも。弔いの宴会だ」

 俺はそう言って自分も苦手なのだが、

 忘れるように皆と肩を組んで杯を鳴らし

 歌を歌った。

 ヤケクソでしかないが、プレシレーネと共に

 悲しみを吹き飛ばすように歌う。

 悲しみを忘れる事は無い。

 しかし浸っても居られない。

 だからこそ、冷静に獲物を捉える為に、

 今は前向きに動き研ぎ澄ます事が必要だ。


 こうして馬鹿騒ぎは夜半過ぎまで行われた。

 何故か俺はこの世界に来て、

 酒を沢山飲めるようにもなっている。

 残ったのはヘラクルスさんとミレーユさんと

 俺だけだった。

 ファニーもウーナも、そしてプレシレーネも

 テーブルで寝ており、

 ビルゴとリムンは部屋に帰って寝た。

「もし仮にエルフの暴走が止められたとしたら、お前の名声はまた高まるな」

「いや、そういうのは今回は別の当てがあるので問題ないでしょう」

「アイゼンリウトの件もそうだっただろ?誰かが知っていればそれは何れ解る。そしてそう伝え聞く事でお前の名声は高まる」

「別に名声なんて合っても困るだけですよ。暗殺者には狙われるし厄介事は多いし」

「そうだな。あまり名声を得ると、ふらふらしていられなくなるかもしれない」

「それは困りますね。俺はこの世界を見て回りたいんで」

「まぁこのギルドを起点にしていれば、今のところ困る事はないだろう。それに名声が高まれば、融通が利くことも増えるんだぜ?」

「良くも悪くもって事ですね」

「そうだ。俺はお前に期待している。人の身で何処までいけるものか。エルフの里には気をつけて行って、無事に帰って来い。今度は俺が奢らせてもらう」

「頑張ります」

 俺とヘラクルスさんは杯を鳴らし、

 一気に葡萄酒を飲み干した。

 こうして夜も更けていくのだった。

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