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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
反乱のエルフ

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奇襲

 恩人との別れがたい気持ちを抑えているのだろう。

 プレシレーネは傍を、ゆっくりとゆっくりと

 離れて俺の前に来た。

「プレシレーネ、残っても良いんだぞ?」

 そう俺が言うと、首を横に振った。

 だよな。

 このまま泣き寝入りなんて出来ないよな。

 プレシレーネが泣く位の恩人だ。

 仇を討ちたいだろう。

 俺の横に携えている黒刻剣ダークルーンソード

 泣いているのか怒りをこらえているのか、

 振るえているように感じる。

 俺が感じている以上の後悔や悲しみが、

 プレシレーネと俺の相棒の中にある。

「なら戻ろう。向こうもどうなっているか解らない」

 俺は多くを語らず先を歩く。

 先程のおばさんが出入り口に居たので、

「おばちゃん、師匠の供養をお願いします。私はまだ手を合わせる訳にはいかないので」

 と俯きながらプレシレーネは言った。

「まかせときな。プレシレーネちゃん無理しないでね」

「あの、これ供養代です」

「いらないよ。この親方には皆世話になったんだから。皆で送らせておくれ」

 と俺が供養代を渡そうとすると断られた。

 近所の人たちも集まってきており、衛兵も中には居た。

 プレシレーネの師匠は愛されていたんだ。

 俺も死ぬ時にはそういう人でありたいと思いつつ、

 そんな人を自分の欲の為に殺めた奴への怒りが

 溢れそうになる。

「すいません、宜しくお願いします!」

 俺とプレシレーネは皆に頭を下げると、

 ゆっくりと街の出入り口へ向かう。

「コウ殿、急ぎましょう。皆が心配です」

 気丈に振る舞おうとするプレシレーネの頭を撫で、

 俺は先にリウに乗り手を伸ばす。

「さぁ行こう。弔い合戦だ」

「弔い合戦とは?」

「亡くした人への手向けの戦いだよ」

「はい!弔い合戦に参りましょう!」

 ぐっと俺の手を掴んだプレシレーネを引き上げ

「リウ、来た時の倍の速度で頼む」

 とリウの首を優しく撫でて言う。

 リウも何かを感じてくれているのか、

 頷くと、本当に倍速でカッ飛んでくれる。

 景色が変わるのを感じる事も無く、

 吹き飛ばされないようにしがみ付いた。

 リウ凄い。

 おっさんと女性一人乗せてこれだけ速度が

 出せるなんて。

 意気に感じてくれているのだろう。

 だけど後で少し休ませてあげないと。

 これからの戦いはどうなっていくのか

 見当も付かない。

 リウの力も必要になる。


「グァ!」

 リウの声に顔を上げると、

 エルツの街の入り口まで来た。

 俺はプレシレーネを促し下ろし、

 俺も次いで降りる。

「リウ、ゆっくり追いついて着て良いぞ!」

 と声を掛け走り出す。

 リウは疲れも見せず、俺とプレシレーネに

 付いてきてくれた。


「ミレーユさん無事か!?」

 俺は冒険者ギルドに飛び込むと、

 開口一番そう言った。

「コウ、お帰りなさい」

 見渡すと冒険者ギルドがめちゃくちゃになっている。

 まさかここまで……。

「ミレーユさん他の皆は!?」

「我らはここだ」

 ファニーとウーナが二階の階段から降りてきた。

 しかしロリーナの姿とブルームの姿、ルールの姿が無い。

「コウ、不味い事になったぞ」

 ビルゴがテーブルの瓦礫から出てきた。

「おっちゃんお帰り!」

 リムンがビルゴの懐から飛び出す。

「皆ロリーナは!?」

「ロリーナ姫はリムンを庇ってくれた。それで怪我をして二階で手当てを受けて寝ている」

 俺はかつてない程の怒りが身を焦がす。

「敵はルールか?」

「ルールが同じような格好の奴らと共に、ブルームを連れ去ったのだ」

「やられたか」

 俺は拳を強く握る。

 また後手か。

 くそっ!

 俺は傍にあった瓦礫を殴りたい気持ちで一杯だったが、

 リムンが居るからそれは出来ない。

 これ以上怯えさせるわけにはいかない。

「皆すまん。俺が軽率だった」

「あんなもの予想できる訳が無かろう?それにお主が謝ればプレシレーネが傷つく」

 ファニーに窘められ、俺はハッとなる。

 横に居たプレシレーネの顔は暗いままだった。

 師匠を亡くした上に、自分の所為で

 皆を危険にさらしてしまったという顔をしている。

「プレシレーネ。責任を感じるなら、奴らを倒す為に力を溜めておいてくれ」

「はい……」

「タダでは済まさないぞ……」

 俺は天井を見上げて歯を食いしばる。

 こんな真似をされて黙って居ると思うなよ。

「コウ様、落ち着いて下さい。このまま行けばエルフの里と正面切って戦う事になりますわよ」

 ウーナが冷静に指摘する。

 確かに。

 だが奴らがそれを望んでいるなら上等だ。

「コウ様、落ち着いて」

 ウーナは俺の握った拳を解く。

 そして血にまみれた手を拭いてくれた。

「冷静で居られないのは同じですわ。でもここで英雄として貴方の力を振るえば、貴方は殺戮者の名も同時に得る事になる。狙うのは一人で良いはずです。エルフの里そのものを変えるのは私達の役目ではありませんわ。どうか目的を見失わないで下さいまし」

 そう祈るように俺の手を握る。

 そうだ。

 俺には力がある。

 だからこそ使う人間の理性が大事なんだ。

 前の世界では力があれば、全てを消し去ってやりたいと

 思った事がある。

 だが今は違う。

 この力で救えるものがある。

 救われる俺も居る。

 英雄を気取るつもりもないが、

 この与えられた力は、誰かの為に与えられたと

 俺は思っている。

 

「有難うウーナ。少し冷静になった」

「なら今後の方針を」

「そうだな。今は冒険者ギルドを復旧して、エミルが作ってくれているエルフの耳の完成を待って発つ」

「私も当然行かせていただけますわよね?」

 俺はそれを聞いて回答に困る。

 実のところウーナの分は頼んでいない。

 宗教の事もあるからだ。

 ここから先は綺麗事では済まない。

 意思のある者と斬り合う。

 それにシスターを巻きこむのは気が引けたからだ。

「シスターであるのと同時に、私はコウ様付きのシスターです。貴方が今のように冷静さを失った時にブレーキとなり、貴方の道を正すのも役目です」

「だが血生臭い事になるぞ?」

「なるべくならないようにしましょう。主神オーディン様は無益な殺生は好みませんが、時と場合によります。隣人が刃物を向けて来たら、受けて立つべしという武闘派でもありますもの」

「なるほど、それは信仰が広まりそうだ。やられたらやり返す、ではなく受けて立つって所が気に行った」

「ならコウ様も」

「それはそれとして、さ、冒険者ギルドの復旧を始めよう!」

「コウ様のいけず!」

「おー!」

 俺達はカラ元気を出して声を上げた。

 今はこの気を抑えて来るべき時を待つんだ。


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