ルーンの剣
俺は飛び掛ってくる魔剣を払いながら
魔剣の説得を試みる。
「おい、お前名前はなんて言うんだ」
――それに何の意味がある!――
「あるに決まってるだろう。折角生まれてきたのに名前が無いなんて」
――我に名など無い!――
俺は斬り払いながら、
黒隕剣に意識を集中する。
どうだ相棒、あれはどんな感じだ、と。
―意思を持つ剣が我以外にあろうとはな―
それは俺も驚いている。魔族が鍛えた剣。
黒隕剣とは違う材質で出来ているのか。
―我とは違う物だな。だが相当良いものだ―
という事は、これを鍛えた奴にも
何らかの思惑があったということか。
―恐らく。魔族という生き物がどういう者か我にも解らぬが―
それは言えてる。
あの眼鏡やアリス、イーリスにプレシレーネ。
俺と逢ったことのある魔族は、
皆誇り高かった。
イーリスとアリスは魔族らしく狡猾ではあったが、
卑劣な者には少なくとも俺といた時には感じなかった。
―コウ、我が言葉を交わしても構わぬか?―
ああ頼む。
俺は頭の中でそう黒隕剣に伝えつつ、
斬り払う。
相変わらずめちゃくちゃに飛来してくる
魔剣を斬り払うのは最小限の動きでよく、
切れ間無いものの、消耗は少なかった。
―魔族が作りし剣よ、我は黒隕剣。我の呼びかけに答えよ―
――貴様如きと交わす言葉など無い――
―呪われし剣よ、何もお前が呪わた剣で居続ける必要はあるのか―
――何!?――
―呪われた剣として作られたにも係わらず、何の為に意思がある―
――それは――
―お前は剣だ。だが選ぶ事も考えることも出来るのだぞ―
―多くの剣が使い手により、血の染める中で―
―お前は自分で道を、持つものを選ぶ事が出来るのだ―
―実にうらやましいではないか―
そう黒隕剣が言うと、呪いの剣は速度を落とし、
地面に突き刺さった。
改めてみると、柄も剣身も魔族が好きそうな
ダークな感じのデザインになっている。
柄の両端には小さな盾のようなものが付いており、
剣身は黒を基調として、二本のラインが紫色で真っ直ぐ
入っている。
そして真ん中辺りで両端に棘が2つ出ていた。
「おい、お前本当に名前はないのか?」
俺がそう問いかけると
――我に名など無い……呪いを用いて魂を封じる為だけにあった――
「そうか、ならダークルーンソードってのはどうだ」
――ダークルーンソード……――
「ルーンていうのは俺が生まれた時よりずっと前に
使われていた古代文字だ。呪術にも使われていたようだけど、
普通の文字としても使われていたんだ。
それが俺の時代には占いなどに使うようになっている。
要は神秘的な文字ってことだな」
――そうか……我にも名が出来たのか――
「ああ、共に行こう。果てない旅になるかもしれないがな」
――お前は何処へ行く?――
「いや単純にこの世界を見て回りたいんだよ。
色々な術に種族、まだ見ぬ不思議がこの世界には
あふれている。ただその為に路銀が必要なんで
冒険者をやっているんだ」
――そうか、それは良いな――
俺はその言葉を聞いて、瘴気が薄れていくのを感じた。
そしてダークルーンソードの柄を握り、引き抜く。
すると瘴気が完全に取り払われ、黒曜石の様な
輝きを見せた。
忌わしい剣ではなく、輝く美しい剣になったのだ。
――これが我――
―美しいな―
――ああ――
「取り合えず二人とも感慨深いところ悪いけど、
先に目の前の空間の歪みを解決したいんだ」
―了解した。ダークルーンソード、行けるか?―
――正式な主を得た我に余計な気遣いは無用――
そう言うと、黒隕剣とダークルーンソードは輝きを放つ。
黒隕剣は光、ダークルーンソードは闇、其々を象徴する輝きだ。
「さぁ一丁行くか二人とも!」
―承知。全開で行く―
――心得た。全力だ――
「行くぞ!はぁっ!!」
俺は黒隕剣で右から袈裟斬りに、
ダークルーンソードで左から袈裟斬りにして放つ。
光と闇のカマイタチ状になった刃はクロスして
洞窟奥の黒い渦へ向けて飛んでいった。
そして刃はその渦を切り刻み、爆発音と共に四散した。
爆風に吹き飛ばされそうになるも、
二振りの剣が俺の前に壁を作ってくれていた。
後ろを振り返ると、ウーナは何とか自分でバリアを
張って防いでいる。
「これで洞窟は一件落着かな」
俺は爆風が止んだ後を見てそう言い一息つく。
前にはただ洞窟の壁があるのみになっていた。
瘴気も全く感じない。
「コウ様……お疲れ様です」
ウーナは深々と頭を下げてきた。
一体何があったのか。
「いや、別に大した事をしてないよ。
それよりウーナすまなかったな。
呪いを解くのをお願いしていたのに出番を奪っちゃって」
「いえ、件が解決したのが大事ですわ」
「まぁと言っても洞窟の件だけなんだけどね」
「と言われると?」
「このダークルーンソードを使って呪いを掛けた奴をぶっちめる」
「相手は解っていますの?」
「俺の新しい相棒とウーナ、そしてプレシレーネと
ブルームが居れば問題ない。直ぐに相手は見つかるだろう」
そう、相手は顔を見れば解る。
だが問題は俺がエルフの里へ行く事になりそうだ
ということだ。
前にリードルシュさんが言っていたやっかいな一族。
そこへどうやって乗り込むか。
呪いをかけられたら堪らないからな。
「あ、コウ様。皆様の下へ早く戻りませんと」
「そうだった。ゴブリンたちが正気に戻って
友好的である可能性は高くないだろうからな」
そう言って俺はウーナと共に走り出す。
黒隕剣とダークルーンソードを左右の腰に差しながら。
街へ戻ったらダークルーンソード用の背負える鞘を買おう。
そう思いながら元来た道を戻るのだった。




