対魔剣!
俺とウーナは二人で九階を進んでいると
「くっついていただけますか?」
と言われた。
無職で引きこもりのおっさんは
「くっつかないでくれますか?」
と言われたことはあっても逆は無い。
悲しいけれどこれが現実。
しかし流石ファンタジー世界だと逆があるようだ。
「それは魔法の効率って事かな」
「法術ですわ正確に言うと。後効率というのは色気が無さ過ぎますわね」
とおっさんをからかうような事を言う。
なるほど、呪術に魔術に魔法に法術と
この世界には術にも色々あるんだなと感心していると
「兎に角役得と言うことで」
と訳のわからん事を言いつつ、
腕を組んできた。
シスターの服は見た事がある人なら
お分かりだろうが、薄い。
それは色々困る。
理性を保ちつつ、なるべくあたらないようにする。
満員電車のそれである。
と言っても無職で引きこもりのおっさんに
満員電車は無縁だったが。
「しかしこうも瘴気が濃いと、見通しが悪いな」
「確かに。ところでコウ様」
「様っていうの止めない?」
「まだそういう関係ではありません」
と意外にもビシッと否定されてしまった。
おお、シスターのようだ!
と思っていたところ
「今後キッチリと正妻の立場を確立した暁には、考えます」
とおっさんにはキツイ冗談で返してきた真面目に。
おっさんの正妻になりたい奴なんているのか。
というか正妻ってなんだ。
二号とか三号とかいるのか。
「それにしても敵が居ないのが逆に不気味だね」
「コウ様、先程の魔法ですが」
「ん?ああ、神の息吹」
「そうです。それはどうやって習得なさったのですか?」
そういわれて答えに困る。
どうって言われても頭に浮かんで言っただけだからなぁ。
しかも威力が変わっていた。
あの戦いを経て、俺のレベルも上がったのか。
「もしやコウ様、神様と逢われた事があるのですか?」
「またまたーウーナも冗談が好きだな!ハハハ!」
俺は頭をかきながらそう答える。
神を拝んでる人の前で、それらしき人達と
意識が飛んだ時に逢ったかもしれないなどと
いえるわけが無い。
ややこしい事になる。
「……それは追々解決していきますわ」
解決出来るものならして欲しいわ。
直接お礼をしっかり意識がある状態でしたいし。
ってそれも不敬か。
あんな美女で風格のある人が、
一般や皇族クラスでは納まる筈が無い。
だが直に確認はしていない。
それは言わなかったけどマナーかなと思ったからだ。
下手をするとバランスを崩しかねない行為だし。
「コウ様、そろそろ最下層が近いですわ」
俺が色々考えていると、ウーナが腕を引っ張る。
色々と危ないので声だけ掛けて欲しいなどと
思っていたが、そういう状況じゃないのを
ウーナの顔を見て解る。
どうやらヤバさ爆発の敵が奥にいるのは
間違いないようだ。
「了解だ。ウーナ、戦闘が開始したら離れて警戒してくれ」
「はい……」
ウーナはその瘴気の濃さなのか、怯えている。
俺は頭を優しく撫でた後、
自分の体を盾にして前へと進む。
――か弱き者よ――
――脆弱なる者よ――
――立ち去れ――
――我は持ち主の願いを成就させる――
――我を妨げる者は生かしておけない――
――立ち去れ――
四方八方から声が届く。
何かのゲームの洞窟みたいな感じだな。
引き返せー引き返せー言われて
引き返すわけにはいかない。
だがどうやら会話は出来るようだ。
これはラッキーだな。
「おーい声の主、ちょっと話がしたいんだけど良いかな」
「コウ様!?」
ウーナはぎょっとした顔で俺を見る。
何でもかんでも叩き壊せば良いという訳ではない。
何でもかんでも試してみて、駄目ならそうするまで。
――我は貴様と話すことなど無い――
――立ち去るのだ――
「お前さんが持ち主の願い事を叶える前に、少しだけ話をしよう」
――しないと言っている――
「そうなると叩き壊すがそれでも良いか?」
――やれるものならやってみるが良い!――
「ウーナ!離れて!」
俺はウーナに声を掛けてから離れたのを確認し、
黒隕剣を構える。
見えはしないが、殺気を感じた。
前方から凄まじい速度でそれは飛んできた。
「魔界の穴を開けるのに場を離れてもいいのか?」
俺は黒隕剣でそれを遮る。
――貴様!何故それを!?――
「何故も何も、お前も考えれば予想はつくだろう?大体その通りだ。俺みたいなのがわざわざこんな最下層まで来たのは、依頼があったからさ」
ちなみに当てずっぽうである。
魔界の穴を開けるというのはプレシレーネから
聞いた話だ。
恐らくこの魔剣は解釈を間違えている。
持ち主はブルームの母親に呪いを掛けた罪の意識から、
この世界が滅べば良いと思ったのだろう。
そしてそれが、イコールとして魔界の穴を開ける
というものになったに違いない。
律儀な剣はそれをそう受け取り守ろうとしてた。
それがまさか持ち主に裏切られていると思えば、
隙が生まれる。
依頼があったのも本当だしね。
国からではあるが。
――嘘を吐け!――
「いや嘘も何も、こんな不思議な剣を持った男がこの洞窟の最下層に来る意味が他にあるのか?俺の相棒である黒隕剣以外でお前さんを止められるとは思えないが」
――嘘だ――
――嘘だ嘘だ――
――嘘だ嘘だ嘘だ――
「信じたくなければ信じなければ良い。どちらでも良いが俺はその穴をふさぐぞ?」
――嘘だぁああ!!――
魔剣は蝶のように舞、ハチのように刺している
つもりだろうが、鳥のように飛んで蚊のように
刺してきている。
以外にこの魔剣人間臭さ爆発だな。
これは話し合いの余地ありと見た。
俺は魔剣を受けながら、どう説得しようか考えていた。




