地下五階に響く祝福の歌
「ファニーは戦端を開いてくれ、ロリーナとプレシレーネはその開いた口を広げて通路を確保、ブルームはフォローを頼む!」
「了解!」
ファニーはブーメランの扱いに慣れたようで、
丁度良い具合で投げつけて粉砕し口火を切った。
ブーメランが前列を砕くと、ロリーナとプレシレーネが
左右を広くする為に骸骨剣士を不意打ちの形になり
巧く広げてくれた。
俺は更に奥へと進んで黒隕剣で盾ごと粉砕し、
それをロリーナプレシレーネが更に広げて、
ファニーが俺の隣に来るとブーメランを投げる。
俺とファニーの力業があればこその作戦だ。
俺たち二人は盾で防がれようとお構いなしでいける。
面食らったり身動きが取り辛くわちゃわちゃしている
骸骨剣士たちを斬るのはロリーナとプレシレーネなら
問題ない。
「しかしなんとまぁ」
俺は動きつつも呆れる。
何せ減らせども減らせども、骸骨剣士の行列が
まるでバーゲンセールのような状態になっている。
この世界にもバーゲンセールとかあるのだろうか、
などと悠長に構えていると
「汝の御霊を安らかに鎮めん。 祝福の歌」
俺たちの後方から歌が聞こえてくる。
綺麗な歌声に俺は癒されて力が抜けそうになった。
目の前の骸骨剣士たちも糸の切れたパペットのように、
力なく倒れ砂になっていく。
なるほどシスターは伊達じゃないって事か。
ウーナはオペラ歌手のように移動しながら、
身振り手振りを加えて歌を歌い続ける。
それに俺たちも着いていく。
プレシレーネの顔色が悪いが、
今は我慢してもらうしかない。
この調子だと最下層までどんな者が
居るか解らないからだ。
「お粗末さまでした」
ウーナは俺たちに向き直り、
手を組みながら頭を下げる。
俺たちは拍手して称えた。
ていうか自然と拍手したくなってきてるのが
コワい。
「プレシレーネ、この感じだと前に来た時と変わってるな?」
「はい……まさかこのような事になっているとは」
口に手を当てながら俺に寄りかかりつつ、
プレシレーネは苦しげに言った。
魔族には効果覿面だという事が解る。
その影響か、五階にはすんなりと下りる事が出来た。
「難しいな」
俺はつい口に出してしまう。
駆け抜けるには後五階は遠い。
用心して進むには時間はあるが、
向こうが押しかけてこないとも限らない。
ただ安全なのは横道や背後から奇襲を受けないように、
一つ一つ潰していく方法だ。
「よし、皆少し手間が掛かるが、先ず慎重、次に素早く確認しながら進もう。奇襲を受けたら逃げ場が無い」
俺は顎に手を当てて斜め前を向いて考えていた。
そしてそう決めて顔を上げると、皆が俺を囲んでいた。
「お待たせ。そして有難う、警護してくれて」
「方針が決まったのなら早い方が良い」
「そうだな。早速行こうか」
ファニーに言われて俺は歩き出す。
直ぐ傍にあった穴に、骸骨剣士が残していった
剣を投げる。
取り合えず扉が閉まる仕組みと、投げて落ちた所には
罠は無いようだ。
纏まっていれば危険性は少ないが、時間が掛かる。
「こんな感じで確かめつつ一つ一つ行こう。宝箱があれば、ブルームを呼ぶ。ブルームは通路でウーナと一緒に待機しててくれ」
「了解!」
それから俺、ファニー、ロリーナ、プレシレーネは
各自穴を調べていく。
ブルームは俺の言いつけを守ってくれて、
慎重に、且つ急げるところは急いで仕事をしてくれた。
そしてウーナはリュックに仕舞うのを手伝ってくれる。
皆が各自出来る事を最小限の動きで手早くしてくれて
本当に助かる。
「ブルーム、こっちじゃ」
「ブルーム、僕のところに次に来て」
「私はその後で」
長い五階の通路を調べていくと、不規則に宝箱は見つかる。
中にはトラップだけで中身が無い物もあるが、
キッチリ入っているものもある。
以前根城にしていたか、今もしているのか、
銀貨や銅貨、それにアイテム類が出てくる。
ただ生活感は無い。
ひょっとすると古銭の可能性もある。
それか更に下に違う者が住んでいるか。
地下に集落みたいなものがあっても可笑しくない。
ただそうなると、瘴気に当てられて
今はもう見る影もなくなっている可能性もあるが。
「プレシレーネ、最下層に知的生物は?」
「はい、私でも警戒しつつ最下層まで行ったので出くわしませんでしたが、居ないとは言い切れません」
「そうか」
ブルームとウーナが居る場所に
穴を調べ終えたプレシレーネとあったので
尋ねてみた。
可能性は無くは無いってことか。
取り合えず俺はいつでもどの場所でも動けるように、
穴を調べつつ耳に意識を集中させる。
「そろそろ六階か」
中央に全員が集合し、そう口に出す。
皆が頷く。
後四階下れば最下層に辿り着く。
そして近付けば近付くほど危険度は高くなる。
「ファニー今どれくらいだ?」
「そうだの。昼手前と言ったところだ」
一階クリアするのに、大分時間が掛かっている。
一気にクリアを目指すのはリスクがあるな。
「よし、昨日と同じ夕方から戻る準備に入ろう。そうでないとミイラ取りがミイラになる」
「了解」
俺は先頭に立ち六階へと下っていく。
ドンドンと斜め下へ下り、
長い真っ直ぐ伸びた通路を経て
また下るという構造でこの洞窟は
今のところ間違いないようだ。
プレシレーネの言う通り
大きさとしては小さいほうなら
構造もそう入り組んではいないはずだ。
兎に角用心しつつ、六階へと突入する。




