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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
第二章・無職で引きこもりだったおっさんは冒険者として生きていけるか!?

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異世界のバレンタインデー

 バレンタインデーというものにさっぱり縁が無い。

 まぁ引きこもりで無職のおっさんが

 縁があったらそれは凄いコミュ力を

 持っているだろう。

 というかそれは引きこもりで

 無職のおっさんではない。


 元の世界からこのファンタジーあふれる世界、

 神々、そしてお話の中に存在した種族が

 生きる世界に来たのだから、

 バレンタインデーというものは無いだろう。

 そう思っていた洞窟へ向けて出発する前のこと。

 道具屋でボコられた後、俺は目を覚ましていた。

 このまま起きて後を追ってもいいが、

 どうも面倒な事になりそうな気がしたので、

 黙って道で仰向けになり空を眺めていた。

 悪くない。

 空は元の世界でもこの世界でも同じだと思う。

 違うか。

 空気は澄んでいるし、排気ガスも大気汚染も

 無縁の世界。

 その空の蒼さも、やはり違うと思う。

 目に映る空の蒼さが尊く思える。

 空を汚し海を汚し、心も汚れた世界。

 この世界ではどうなのだろう。

 空を飛んだりするのだろうか。

 海の底を探索し、掘り出したりするのだろうか。

 そう言えば、まだこの世界の海を見ていない。

 いつか見に行きたい。

 ファニーとこの世界を見て回る約束があるしな。


「アンタこんな所で何やってんの?」

 物思いに耽りつつ空を眺めていると、

 俺の視界に久し振りの顔が映る。

「よぉ。そっちこそ何してんだ?」

 俺が見ていたときと少し違い、

 角や羽、尻尾が無い。

 見た目は村娘と言ったところか。

 ワンピースの上にカーディガンを羽織っていた。

「ホント暢気な英雄さんだこと」

 アリスはスカートの裾を膝に手を当てながら

 屈む。

「どうだ、アイゼンリウトは」

「復興は順調みたいよ。イリア姫はカリスマ性が高いからね。各方面に散らばっていた兵隊たちも駆けつけて、防備を硬くし国民全員で復興してるから、早いんじゃないかしら」

「そうか」

 元々心配してはいなかったが、改めてそう聞くと

 やっぱり安心する。

 俺は目を瞑り微笑む。

「口、空けて」

「何で」

「良いから」

 俺は目を瞑りながら口をあける。

 するとこれまでの人生で映画やアニメでしか

 見たこと無い行為を自分がされている事に驚く。


「良いプレゼントになったかしら?」

「え!?おい!おっさんに何してんだ!」

 俺は口を拭いながら上半身だけ起こして後ずさる。

 それを見てアリスはニコニコしていた。

「何でも今日は女神フリッグの日らしいわ」

「な、ななな」

「女性から男性に贈り物をあげる日って聞いたから」

「いや、それは、えっと、その」

「ウブなのね」

 そう言われ俺は言葉も無い。

 あわあわしているだけだった。

「良いリアクションをしてくれて嬉しいわ。それでこそプレゼントした甲斐があったっていうもの」

「こ、ここここ、こういう事は大事な人とだな」

「大事な人と言えばそうじゃない?人間で初めて私を負かし、私に背中を預けてくれた人」

「まぁそれはそうだけどもだな」

「ふふふ、これだけで驚いて貰っては困るわ」

「ま、まだ何かするのか!?」

 そう言うと、アリスは高速で俺でも解らない言葉を

 一気に喋った。

「はい、まいどあり」

「だ、だから何をしたんだ!?」

「アンタ……アタシのことなんだと思ってるの?」

「アリスだろう!?」

「……まったく」

 そうアリスは言って溜息をつくと、立ち上がり

 腰に手を当てて言う。

「私は魔族よ。そして貴方は無限とも言える魔力を保有する人間。私も流石に魔力量が少ない相手とは契約出来ないから」

「契約って何の!?」

「生ける時も死ぬ時も同じ時とする契約よ」

「桃園の誓いかよ」

「実質的な契約よ。死後まで魂を束縛したりはしないけど、アタシとアンタはこれで繋がった。これで現界に支障は無くなったわけよ。お互いに魔力を融通しつつ、必要な時に呼び合える」

「それはありがたいが、代償とか違反した場合は?」

「代償は魔力。違反……させるわけ無いじゃない?どんな手を使ってでも契約を遵守させるわ」

「悪徳商法かよ」

「魔族の成せる業よ」

 そう言いつつも、どこか柔らかく笑うアリス。

 こんな顔もするんだな。

 その顔に見とれていると、さっきの事を思い出して

 顔が熱くなる。


「今は私も所用があって手助けに来れないけど、精々今のうちにあの子達と仲良くしてて頂戴」

「その所用ってのは一人でも大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。魔界に一旦戻って手続きの完了を伝えるだけだもの。何故かアンタの事を話したら、私の上司は即了承してくれたし」

 何かいやな予感がするわ。

 あの眼鏡。

「兎も角行き来に時間が掛かるってだけの話よ。少しの間離れるけど、その後は長い時を共に過ごすのだから、謳歌していて頂戴ね」

 そう言ってアリスは幻のように消えて行った。

 俺は後ずさった先の、バンクの壁をずりずりと

 落ちてまた仰向けになり空を見上げる。

 どうにも穏やかな生活とは程遠いなぁ。

 冒険者としてダンジョンを満喫、という訳には

 まだ行かないようだ。

 今後大事に巻き込まれない事を祈るばかりだ。

 だがアリスの事を考えると、やはりこの先は長そうだ。

 その為に契約を使ったのだろう。

 恐らく俺が強く念じればアリスは来る。

 そういう事態になる事を予見しての行動だろう。

 海を見るのはいつになるやら。


 俺はふぅと一息また吐いてゆっくりと目を閉じる。

 女性陣の賑やかな声が聞こえてきたからだ。

 兎に角今は気の済むようにするさ。

 この祭もあの祭も終わりが来る。

 それが明日なのか今日なのか一年後なのか。


 ただ今ある空気を大切にしよう。

 誰にとっても幸せな記憶の一部となるように。


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