だんじょんえれめんたりぃ
俺たちはミレーユさんに教えられた店に行く。
「いらっしゃいまーせー!」
ずんぐりむっくりした娘が出て来た。
年齢が読み辛いなぁ。
「あのご店主は?」
「私ですが」
うむ、やはり解り辛い。
「洞窟で手に入れたものの鑑定をお願いしたいんだけど」
「はい、是非」
俺は昨日手に入れたペンダントと盾、
篭手と短剣を渡す。
店主の少女はペンダントに付いた
宝石部分をルーペを使って念入りに見る。
それが終わると横にあった箱に入れ、
次に盾を見るが、これはあっさり終わった。
篭手は中まで見て念入りにチェックしている。
短剣は鞘から抜いて刃こぼれが無いかどうかチェックし
終了した。
「そうですねー。ペンダントは宝石が割りと高く引き取れます」
「他は?」
「他の物に関しては、呪いが掛かっていないという事以外は不明です。ただマジックアイテムの類かもしれません。そちらのシスターさんでも気付かない物だとすると、余程価値がある物かと。貴方が使用なさった方が宜しいと思います。特にこの篭手は」
そう店主の少女は俺に渡す。
確かに篭手はこの世界には珍しい、
元の世界の武士が付けていた物に似ている。
俺はリードルシュさんお手製の篭手を外し、
洞窟で見つけた篭手をはめてみる。
するといきなり俺の腕を締め上げた。
だが恐れは無い。
篭手の成すままにしていると、確かめるように
俺の腕に合わせ、最後にはジャストフィットした。
「……冒険者さん、何故言われるままに付けたんですか?もしかしたら私が貴方を騙しているかもしれないのに」
「コウで良い。君が騙すように俺が思えなかった。だから付けてみた。どうやらコイツも俺と同じはぐれ雲らしい」
「……コウさん、私もエミルで良いです。貴方のような気持ちの良い方に全幅の信頼を寄せていただいたお礼に、この品物はお返しします」
「商売っ気がないな、エミルは」
「商人の心を掴むなんて隅に置けない人ですね」
俺たちは微笑みあう。
「もし資金にお困りでしたら、御用が済んだ際にまた寄ってください。その時改めて値段交渉させて頂ければ」
「エミルの良い値で良いさ」
「……一つご忠告しておきます」
「なんだい?」
「あまりそういう事を見境無くされていると、後ろの方たちに刺されますよ?」
俺はそう言われて振り返り、そしてまたエミルに向き合う。
文字通りになっていた。
道理で静かな訳だ。
音も立てずに武器を構えられるなら、
是非洞窟でも生かして欲しい。
ていうか早く仕舞って。
「ではまたのお越しをお待ちしています」
そうエミルに一礼されると、俺は品物を持ち
「さ、行こうか!」
と笑顔で振り返る。
次の瞬間、俺の体の色んなところに
幾つかの拳や蹴りが飛んできた。
エミルの店が荒れると不味いので耐えたが、
思いのほか皆マジだった。
意識が途切れる。
「痛い……」
ずりずり引き摺られながら、俺は目を覚ます。
「起きたか。もうバンクに金は預けた。証明書も頂いた」
ファニーが俺を引き摺りながらそう答える。
「あれ、早い。俺が一応説明を聞いときたかったんだけど」
「これ以上余計な事はしなくて良いんだよ」
ロリーナに横腹を蹴られながら言われる。
凄い扱いだな。
この世界に来て鎧に捕まった時みたいだ。
「ああ、主神オーディンよ。いざとなれば、その根を絶つ事をお許しください」
襟を捕まれながら引き摺られる俺の正面で、
ウーナは物騒な事を言いながら主に許しを請う。
根って。
そんなんされたら死んでしまうわ。
ブルームとプレシレーネも両脇に居る。
誰も俺が引き摺られているのを止めない。
ホントなんて日だ。
「さぁ皆洞窟へ張り切っていこう!」
街を出るまで引き摺られたが、出た瞬間ポイ捨てされ、
俺は慌てて皆の最後尾に付いた。
しかしあっという間に周りを囲まれる。
護送されているのか俺は。
洞窟へ付くと、俺はそう言って先に出ようとするが
妨害された。
「いや君はでーんと真ん中で構えててよ」
「そうじゃの。これ以上余計な事をしてくれるな」
「そうですわ。どうもコウ様は改めるべき事が多い気がします」
「私もそう思うよ」
「主としては困ったお方です」
言いたいこと言いまくりっすね。
何が困ったんだ。
改める事は多いと思うよ、引きこもりで無職だったしね。
余計な事って何さ。
エミルと懇意になれたのは、今後の為になったじゃないか。
そして主って何?
プレシレーネ鍛冶師だよね?
主って。
どーにも女子率が高いんだよなぁ。
ファニーの御陰で慣れてきたけど、
元々得意じゃないんだよ。
……そうか、なるほど!
もっと巧く喋れって事か!
「いや違うから」
俺は大変な発見をしたと思い、
拳を握って天井を仰いだが、
即座に全員から否定される。
……どういう事なの?エスパーなの?
「取り合えずもうコウは黙っといてくれる?」
「……ハイ、スンマセンシタ」
寧ろ洞窟に入る前に一言しか喋ってないんだけど。
メインが喋ってないのは良いのか!?
俺はしょぼくれながら、来た道を歩く。
地下三階まではすんなりと辿り着く。
心なしか瘴気も薄い。
だがこれは良くないな。
俺の勘が正しければ。
「皆、悪いが急ぐぞ」
俺は前に出て、早足になる。
罠があるかもしれないから走ることは出来ない。
だがいやな予感がする。
瘴気が薄まったのは、恐らく最下層の魔剣が
魔界への穴を開ける準備を始めたと思う。
今まで撒き散らしていた物を吸収したのだ。
プレシレーネは魔族だが、瘴気を放つ程ではない。
存在感はあったが。
「地下四階はどう?プレシレーネ」
「はい。ここからは割りと入り組んでいます。私が先導を」
「頼む。探索をのんびりしたいのは山々だが、今は一刻も早く最下層に行って様子を見ないと」
「心得ました」
プレシレーネの先導で四階はするりと抜けた。
プレシレーネが居なければ、一つ一つの道を確かめながら
移動していただろう。
途中に穴が幾つもあったが、それはまたの機会だ。
ゲームのロールプレイングとかだと、
穴にあった宝箱は取れずに終わるのが定説だが、
流石に現実は違うだろう。
「コウ殿、ここから先はすんなりと通してもらえそうもありません」
そうプレシレーネに言われて俺も前に出る。
そこには骸骨が剣と盾を携え群がっていた。
「魔界への穴が開いたのか!?」
「いいえ、もし開いたならこの程度の魔物で済む筈がありません」
「なら良い。皆、一気に崩して進むぞ!」
「了解!」
横に四人、人が並べるくらいの道幅で俺たちは戦闘を開始する。




