それぞれの主張と個性
「おはようございますー」
「お、わぁああっ!?」
昨夜は夢も見なかったようだ。
だが目を開けると一瞬夢かと疑う。
いきなり女性の顔が目の前にあるからだ。
しかも羽交い絞めにされている。
どんな悪夢だこれは。
取り合えず女性陣には一旦出てもらって、
身支度を整えてカウンターへ降りる。
にこにこしているウーナ、
腕を組んで眉を顰めているファニー。
噛み付かんばかりのロリーナに、
おろおろするブルーム。
プレシレーネは黙ってミルクを啜っていた。
「おはよう皆。今日もご機嫌だね」
と俺が言うと、俺に向かって色々言って来た。
「解った落ち着こう。俺は流石にいっぺんに話を聞けない」
そう宥めすかした。
まぁ騒ぎの元はにこにこしているウーナだ。
本気で昨日言っていた事を実行した。
それをプレシレーネが気付いて止めようとしたが、
すり抜けて俺の部屋へ入り、
ファニーたちに羽交い絞めされたと言うことだ。
「こいつは油断ならん!」
「全くだよ!シスターの癖に不純だよ!」
「あの、えっとえっと」
「やはりここは私がコウ殿の護衛を」
「駄目!」
参ったなぁ。
おっさんの部屋に侵入したのが、
教会の人間として警戒する為とか言ったら、
余計問題がでかくなりそうだ。
何にしても今はウーナの呪い解除能力に
期待するしかない。
「私は全知全能の神である、オーディン様を崇め奉る者。貴女がたの様に不純な者ではありません」
「ならなんでコウの部屋に入るのさ!」
「それは当然でしょう。英雄たるもの、いついかなる敵が首を取りに来るかわかりませんから」
「お前がそうでないという証拠は?」
「無益な殺生は、主神オーディンの硬く戒めるところ」
「英雄殺しは無益ではないのでは?貴女がた教会の人間にとって、神とは近くにあって近くに無き存在でしょう。それに近い者はあってはならないのでは?」
「それは見解の相違ですわ。英雄は神ではない。英雄はこの世界に古くから幾人も誕生しています。その方たちを逐一抹殺していては、私たちは成り立ちませんもの」
「それが魔族と手を組んでいたとしても?」
プレシレーネの言葉にファニーもロリーナも、
ウーナに刺すような視線を向ける。
一触即発って感じだな。
「手を組んでいたとしても、それを切らせれば宜しいだけですわ。その為に私がコウ様にお使えする。理路整然としていますわ」
「だからって寝室に押し入るのはどうかと思うけど」
「万が一にも色仕掛けで魔族に取り込まれていたとしたら、それを解消するのも仕事のうちですわ」
ウーナは微笑みながら落ち着いて言っているが、
耳が真っ赤になってきてるぞ。
それを見たファニーもロリーナもいやらしく微笑み。
「どう考えてもそなたの様な者では出来んだろう」
「言うは易しだね」
「あら、なら早速今からでも」
「あーもうはいはい、そういう下ネタは禁止」
「下ネタとは何です?」
「卑猥な話」
「卑猥な話などしておりません!人として当然の営みです!」
「解ったから。兎に角色仕掛けなんてされてないから無用だ。それより話を元に戻す」
俺はこのまま行くと収集が津か無そうなので、
話題を強引に洞窟の話しに戻すことにする。
「で、ウーナには洞窟の最下層にある呪いの剣をどうにかして欲しい訳だ」
「なるほどですわ。私めの解除魔法を持ってすれば容易い事」
胸を張るウーナ。
どうにも信用できない。
「ミレーユさん、何か呪いを解く道具とかないかな」
「無いわね……。呪いを掛けた人を亡き者にしたところで、発動させてしまったらどうしようもないもの」
「ウーナに掛けるしかないか」
「万が一の時はコウ殿の剣で」
「そうも行かないんだよなぁ」
俺はブルームを見る。
話したものかどうか。
話せばプレシレーネは責任を感じそうだし。
兎に角辿り着いて様子を見るしかないな。
「プレシレーネ。洞窟はどれくらい下まであるんだ?」
「大きさとしては小さいほうです。地下10階になります」
「後七階下か。よし、取り合えず腹ごなしをした後、出発の準備をしよう。ウーナの御陰でまだ陽が昇って間もない。この調子で行けば一気に下までいける可能性もある」
「了解!」
「皆おまたせ。今日は朝食セットにしておいたから」
「有難うミレーユさん。一応これ御代」
「あら良いの?」
「うん、イマイチまだ金銭感覚が伴わないけど、暫くお世話になるし、少なかったら言ってね。俺はミレーユさんの価格からある程度の相場を考えることも出来るし」
「そう。なら頂いた金貨一枚は五人で朝と夜のみなら、半年は大丈夫よ」
「金貨一枚って銀貨で言うと何枚と等価になる?」
「千枚よ」
「それは凄い。昨日洞窟で見つけた分とあわせると、金貨十枚に銀貨百五十枚、銅貨百枚って所だな」
「だの。銀貨が思ったより多かったからの」
「コウ、ある程度身支度を済ませたら、バンクへ行くと良いわ」
「バンク?銀行?」
「ギンコウというのは知らないけど、バンクっていうお金を預かる所があるの。持ち歩く分は別として、そこへ預けておくと良いわ」
「ありがとう。後、知っていたら買取とか鑑定の出来る商売している人を紹介して欲しいんだけど」
「なら丁度良いわ。冒険者ギルドを出て斜め右に行ったところに、冒険者御用達のお店があるから行くといいわ」
「買取と鑑定専門の店があるんだ。よし、食べたら出発しよう!」
「おー!」
そう言うと俺たちは朝食セットの
目玉焼きに肉をスライスして焼いたもの、
米のような穀物をバターで炒めたもの、
サラダにミルクという食事をそれぞれの
ペースで食べた。
見ていると面白いのが、各々食べ方もペースも違う。
ファニーはバター炒めをがっついた後、
サラダと目玉焼きを手早く食べていた。
ロリーナは市井で育った割には丁寧に
ナイフとフォークを使って綺麗に順番に食べていた。
そして意外だったのがブルームだ。
ロリーナより丁寧にそして手早く綺麗に食べている。
美しい食べ方をしているなぁ。
プレシレーネは順番に一口ずつ口に入れて食べていた。
ウーナは手を合わせてから上品に食べている。
特に肉を食べてはいけないという戒律は無いようだ。
オーディンという神様は割合豪快らしい。
俺たちは朝食を済ませると、準備をする為
冒険者ギルドを旅立つのだった。




