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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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始まりの為の終わり

「……君に取り繕ったところでどうしようもない事は頭では理解しているんだけどね。例え子機を通してとはいえ、割と長い事一緒に居た気がするからかどうも、ね」

「最早今更だ。俺も自分が綺麗ではない事はもう知っているし理解しているし受け止めている」


 押し黙り天を仰いだ後で

再度俺に向き直る。


「そう、人を生みだすと言うのは簡単ではない。僕は実証実験を出来る能力は持っていても、それを完全に成す事は出来なかった。ここまでくるのにも想像を絶する年月が掛っている」

「人である事を止めたのか?」

「止めたと言うかなんというか……少しズルをした。その結果知識は付いたが、どうしても人間を生み出す事は出来なかった」

「人をそのまま持ってくる……?」


 俺の言葉に苦い顔をするクロウ。

アダムとイブといえば分かりやすいかもしれない。

無から有は無理でもそれなら出来る。


「最初はその手で、そして時が進み人間そのものの器を作る事が出来た」

「魂の移植」

「……何故そう思う?」

「俺は元のパジャマ姿で来たが、それにしては能力が上がり過ぎていて、説明が付かない。元々の体は脳がブレーキを掛けてて全力は出せない。だが肉体の限界値が高ければ」


 クロウは溜息をまた吐いた。

癖なのだろうか。


「そうだよその通りだ。だが魂の移植は先生の力だから詳しい内容は分からない。そしてスポンサー側からの要求でもあったんだ。作られた器に魂を移し活動させた場合のレポートを」

「オーディンが世界を破壊したら台無しじゃないのか?」

「いや活動させた結果、彼は何も変わらず恨みを残して破滅を導いた。これを止めなければ同じ結果が連鎖的に起こる事が証明された」

「そのレポートは良い事には使われなさそうだな」

「人によるよ。良い事に使う事もあれば逆もそう。人間の戦争が良い例だね。兵器が発達すればするほどその抑止力は高くなる。それと同時にその技術を使う事で多方面のレベルが向上する」

「倫理的な問題になるなぁ」

「だね。で、アーサーやオーディンの事である程度理解しているとは思うし、自分でも言っていたと思う。僕らもこういう事を生きている人間をそのままと言う事は頻繁には出来ない」

「そっかぁ……死んでるか俺」


 またクロウは溜息一つ。


「そんなにあっさり言われてもなぁ。命の重さを君はもう理解していると思うが」

「いや死んでるのにどうしろっていうんだ。事実は事実として受け止めないと」

「死因を聞きたいかい?」

「聞いて為になるなら」

「親による刺殺」

「そっか」


 その返しにクロウは眉をひそめた。

死ぬとしたら正直それしかあり得ないだろう。

不摂生が祟って死ぬような体の変調も無かったし。

それに死んだはずなのにこんな事になってるから、

何と言っていいものか分からないのもある。

人の死を見てきたり、生を奪った今の俺にとって、

死を受け入れる準備は出来ていたし覚悟もある。

毎回死ぬかもしれないと思いながら戦ってきた。

相手にも自分にもある事だと覚悟を決めなければ戦えない。

覚悟を決めず戦えば自分は当然ながら、

付いて来てくれた人たちも死ぬ事になる。


「爽やかだね、前の君が見たら吐き気がするんじゃないのかい?」

「だろうな。お前はここに来るまでの俺の事は知ってるんだよな?」

「無論。君にも原因はあっただろうが、親にも原因はある」

「だが俺はおっさんだ」

「だけど幼少期の事柄は生涯付いて回るんだ。それを覆すのは並大抵の事じゃない」

「しかし出来ない訳じゃない。それに過去の時代を見れば俺より酷い事は山ほどあっただろう? 運良く生き残れただけだし、良く生かしてくれていたと今は感謝している。それを乗り越えられなかったのも俺の責任でもあるし」

「物分かりが良いじゃないか」

「親の所為にしても進まないんだよなぁ何も。進まなかったし。死んで進んだのはあれだ、バンジージャンプをするって決めて飛んだ直後位の状態だよ」

「良く分からないな」

「兎に角。自分で何でもいいからするべきだったと反省している。それで俺はこの世界で進めたんだ」


 クロウの表情は次第に柔らかくなり、

最後には微笑んでいた。

そう、俺は俺が何故ここに来たのかそれを知りたくて、

それを知るまでは死ねないと生きる為に戦い続けた。

何が残ったかと言われれば、それはやる遂げる事。

完全ではないにしても、やり遂げられた最後まで。

現実ではそれが出来なかった。全て中途半端。

死んだ後ここに来てこういう事にならなければ

成し遂げる事は出来なかっただろうというのが

残念ではあるが。


「なるほど。だからこそ君はここまで来れたんだね。世界の崩壊を止めて尚、皆が君をここへと送る選択をした。それは君が揺るがないと信じたから」

「皆には本当に感謝している。誰一人出逢わなければここまで来れなかったのは間違いない。俺と言う人間を作り上げたのは彼らの助けがあってこそ」

「誰しもそういう良い出会いが出来れば良いんだけどね。そうもいかないから」

「ああ。クロウにも感謝しているよ」


 俺たちは目一杯しゃべったので、

紅茶を飲み干し、更に二杯ほど飲み干した。


「全ての人たちに可能性はあった。だが掴み取ったのは偶々君だった」

「この世界では運が良かったらしい」

「そうだね。で、どうする?」

「どうするとは?」

「君の願いさ」

「願い?」

「君は忘れているかもしれないが、君は前の世界で一度ならず何度も生まれ変わったら別の人生だったらと願ったね?」

「ああ、それは結構多くの人たちが一度は願った事があるだろう」

「で、実際叶った訳だ」

「……何が言いたい?」

「僕たちは倫理的にははっきり言って道を外していると思う。良い訳をするならこの事があってレポートを提出すれば、君の様な無職のおっさんたちを立ち直らせるプログラムなりが組める」

「その為に俺の様な人間をチョイスしたんだな」

「弟さんには拒絶されたんだけどね……。でも説得したんだ。そう言う事件があれば、周りから白い目で見られる。それを避ける為の資金と場所と職を与えるからどうか、と」

「そっか……」


 まさか出来損ないの兄の事で拒絶するなんてな。

あいつは良い奴なんだろうな本当は。

俺よりも皆に愛されてるだろうし。


「単刀直入に言おう。協力してくれ」

「脅しか?」

「脅しじゃないよ。拒否してくれても構わない。だけど君は君のまま何処かへ移すんだけどね」

「こっちで死ぬまで、か」

「そうだ。君を消すというのは死以外無い。それを望むなら」

「望まない」

「だよね……なら協力してくれ」

「何をするんだ?」

「”ナース”は知ってるね?」

「おいおいむさいおっさん同士で宛がうんじゃないだろうな?」

「そんな地獄を体験させたくは無いし、見たくもない」

「なら女性を?」

「恵理のようなケースもあるし、最近僕たちの構築した世界に不正に人を送っている者がいるようなんだ」

「まぁスポンサーが居れば抜け道が出来るわな」

「僕としては実証実験にのみ興味がある。正直他の星も見ているから、ここが潰れても困る事は無い。だがかき混ぜられるとデータも可笑しくなるし」

「上前を撥ねられる?」

「世知辛いけどね。そりゃ自前で出来れば安く済むから」

 

 俺はげんなりしてソファーに深く沈む。

クロウは紅茶を入れてお菓子を食べた後流し込んだ。


「ゆっくり考えてくれて良い。もう君を縛るものは何一つない。永遠に生きたければそうしてもいい。ただ魂の消滅だけは予想が付かない。肉体は生きていても死ぬ事もある」

「そうだな……少し考えてみるわ……ってそういえばあの星は!?」


 そういうとクロウはニヤリと笑った。


「君が協力してくれると言うのなら、あの星を直しても良い」

「……脅しじゃないか」

「どっちでも良いんだ僕は。さっき言ったように他にも似たものはある。そっちに君を降ろす予定だったんでね」


 ニヤニヤしてやがる……ロキそのものだな。


「答えは?」

「……聞く必要があるか?」

「無いね。じゃあ商談成立だ」

「やられたなぁ……」

「まぁまぁ。協力してくれるとなれば崩壊は止める。だけど君は暫くあっちには行けない」

「それはどうして?」

「仕事をしにくいだろう?」

「まぁ。あ、アーサーとオーディンは?」

「彼らには相応しい罰を与える。特にオーディンは。彼の親から援助を受けているが、それじゃ足りない」

「そっか。まだ生きていけるようなら何より」

「じゃ、早速仕事と行こうか」

「え!? 今から!?」

「無論だ。僕たちは忙しいんだ。それを身を持って知ってもらう必要がある。必要な事は先に飛ばしたリャナンシーとかから聞いてくれ」

「からってなに!? しかもリアン先に行ってるのか!?」

「そう言う事だ。無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか、というレポートには”驚くべき事に無職のおっさんでも機会とチャンスがあればRPG世界でも生きていけた。そして今も生きている”と書いておくよ」

「なんて題名だ……」

「事実驚いたよ。見事クリアおめでとう! そして強くてニューゲーム行ってらっしゃい!」

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