セカイ
「失礼します」
そこは八畳位の広さでブラウンを基調とした、
品の良さそうな家具たちに囲まれた部屋だった。
その一番奥の窓際の縁に右足と腰を乗せ、
風に髪を揺らした男が居た。
「今日は風が気持ち良い」
俺の顔を見ずにそう呟いた。
答えに困って扉の前から動かずにいると
「失礼。中へどうぞ」
縁から足と腰をおろしてこちらを向く。
すらりとした鼻に切れ長の目、
幼さが残る顔立ちとぼさぼさの金髪。
背はそれほど高くなく、青年というよりは
少年のように見える。
白いワイシャツにワインレッドのネクタイ、
茶色のベストに茶色のスラックス。
落ち着いた色合いが好みらしい。
「取り合えず良いソファーだから掛けて。お茶も用意しようか」
「いえ」
「まぁまぁ。長い話になるからね。どうぞ掛けて」
笑顔でそう言ってきたが、警戒しない筈は無い。
オーディンとは違うが、本能と言うかなんというかが
勝てるはずがないと知らせている。
そう……不気味。その一言に尽きる。
「本能で理解しても尚諦めない。前の君がそうであったなら、こんな事にはならなかった……というのは結果論だ。かもしれないし、順調にいったとしても君は引き籠ったのかもしれない」
「……俺の事は詳しいんだな」
「勿論さコウ王。僕は君を見守り続けていたよ?」
その声と調子に聞き憶えがあるぞ……。
俺はすぐさま身構える。
「いやいやいや。ここで遣りあう事は出来ない。何よりここは僕の場だからね。幾ら最強の君でも、それは私が構築したあの星と世界の中だけの事」
「人をからかって楽しいか?」
少年は戸棚を開け茶葉を取りだし、
小さなテーブルに置いた後茶器を
取り出し一切乱れなく動きお湯を淹れた。
そして暫くしてからティーカップに
それを注いだ後、引き出しを開けスプーンを
取り出し、更に戸棚から箱を取り出し
トレイに乗せてこちらに来た。
「まぁまぁまぁ。そんなんじゃ話も出来ない。君は僕と戦いに来たのかい?」
「そんな心算はないがな。馬鹿にされればこうもなる」
「馬鹿に、ねぇ。例えばどこが?」
「……ロキとして狂言回しをした事だ」
そうその雰囲気と口調から、
ロキに似ていると感じた。
何よりロキそのものに実態が無かった。
最初は俺の弟の顔、その次は星の管理者の顔。
ロキそのもの、というものが記憶にない。
「勘が良いね……。言い方が難しいが、ロキは僕の子機の様な存在で間違いない。基本は僕の存在を忘れさせて昔の捻くれてた部分を反映させ、ロキというキャラクターとして行動させ作戦を実行させた。最後の方は僕が殆どだけど。がそこまで頭が回る君なら、元々を話さないと納得できなくは無いか? それとも僕に今すぐ謝って欲しい?」
「……分かった」
俺は構えを解きソファーに座る。
想像以上にふんわりして驚いたが、
直ぐに姿勢を正す。
「良かった理解してくれて。個人的に手荒な真似をする気は無いから、普通に話が出来ると助かる」
「事情は説明してくれるんだろうな包み隠さず」
「勿論。それが君の希望でもあるからね」
そういうと男は紅茶に口を運んだ後、
箱を開け手を突っ込むとクッキーの入った
ボウルを取りだし、俺と向かい合って
座りその間にあるテーブルにそれを置いた。
更にその箱に再度手を突っ込んだ後
紙の束が出てきた。
「さてと、どこから話したものかな……。そうだ自己紹介がまだだったね。僕の名前はクロウ。クロウ・フォン・ラファエロ。魔術を扱う古い家系に生まれた。どれだけ古いかというと、人が群れを無し村を成した頃から続いているらしい名門……というか物凄く運が良い一族の者だ」
「よく分かるな」
「まぁ僕は知りたくもないし確認はしていないけど、確認出来る人がした感じだときっちり続いているのは間違いないらしい。というか調べたら皆変わりないレベルだと思うけど」
「一族としてそんなに長い時を繋がりをずっとあるのは凄いな」
「凄いけどね……それだけしがらみも多いのさ」
「例の呪いに関係する事か」
俺がそう言うと、クロウは俺を一瞬睨んだ。
全身鳥肌が立つレベルの凄まじい何かで
圧迫された。
「あ、ごめんごめん。君じゃなくてリャナンシーが言った言葉だったね。……そう確かに彼女からすればこんな力は呪いに過ぎない。何しろ理屈が無いから。昔から悩まされたものだよ」
「それはどんな力なんだ?」
「……そうだね、簡単に言うと形成能力だ」
「あの星とあの世界……」
「……まぁ最早探り合う事は必要ないな。そう、僕には、というか僕の一族にはこれのみが与えられていた。最もその全容を解明したのは僕の代になってであって、それまではそういった集まりでも爪弾きにされていたんだ。何しろ特定の場所にコミュニティを形成させて発展を促す位しかやって無かったんだからね」
「それはそれで凄くないか? ようは都心から田舎へ強制移住と発展を促せる訳だろ?」
「まぁ強制と言うほど強くないと言うか、多くの人に使っていたからその力の強さに気付きずらかったというか。まぁ僕の代になって奇特な先生が僕の能力を解明してくれて今があるんだけどね。正直最初はしょうもない能力の癖に長く続いているからって国に認定されるわ制限されるわ学校まで決められるわで憎しみしか無かったからね」




