最後の審判
視界が暗くなった後、
俺の体は宙に浮いて行く。
丁度力尽きたところだったので
楽で良い。エレベーターに
寝そべっているような感じで
上にあがっていく。
その途中で俺がこの世界に来てからの
ダイジェストの様な映像が流れて行く。
どれもとても懐かしい。
本当に思えば遠くへ来たもんだ。
最後には天界ぽいところまで来たし、
元の世界で言うなれば、月面着陸した
レベルの事を成し遂げたんじゃないだろうか。
流れゆく映像を見ていると、
やがて最後の場面が映し出される。
誰もが最後まで抵抗しようと、
諦めず絶望を抱かず戦い抜いてくれていた。
俺の様な人間が王になれたのだから、
良い人たちが多かったのだろう。
そして再び光に包まれた。
「お、いらっしゃい!」
明るい場違いなトーンの声に
驚き目を開ける。
そこは何処かの図書館のような場所だった。
すぐさま体を起こし警戒する。
窓からは木漏れ日が漏れて、
穏やかで温かい風がカーテンを揺らしている。
幻想的な風景だ。
「こっちこっち!」
その声の方に視線を向けると、
前に城であったツーブロックのツンツンヘア男だ。
アロハシャツに短パンを履いて、
木の机でパソコン作業をしながら
顔だけこっちに向けていた。
「ああ警戒しないで良いよ。警戒したところで意味がない。僕は一応君を害する気は無いし、一応君もないだろ?」
「答えによる」
「確かに。まぁ改めて自己紹介するのもなんだけど、僕が本物の李だ。李俊鵬。一応中国人だ」
「一応?」
「簡単に言うとハーフってやつ。母が日本人なんだよ。一応古い家でね。その縁で先生の手伝いをしてるんだ」
「で、死んだ李が何故生きている」
「死んだ……うーんまぁ僕の式神が死んだだけで僕は一応生きてる」
「一応は口癖なのか?」
「いやまぁ口癖かもね。難しいんだよなぁ正直。君に説明するにもさ、一応初めてのケースだからどうしたものか分からなくてね。先生の仕掛けでここに呼んではみたものの……。まぁ悪いけどそこの椅子に掛けて待っててよ。先生はもうじき来るはずだから」
「あの世界はどうなった?」
「一応止まってる。僕にあの世界をどうこうする気は無い。僕はあくまで先生のお手伝い。まぁ先生にこの事業の手伝いを進めたのは僕だけど、先生にしか成し得ない」
「先生って言うのは誰だ?」
「まぁまぁそう急がないでくれ。君の知りたい事に全部答えてあげるのはやぶさかじゃないけど、すると怒られるし良いとこどりって言われそうだしさ。弟子としては難しいところでね。先生は立てるもの。よく中国人らしくないって言われるんだけど、僕はどっちでもあってどっちでもないから、こういうのが僕らしいっていうのかな。一応そうだねそう言う事だ」
「……よく喋るから中国人らしくもあるし、人を押しのけないのは日本人らしいとも思うが」
俺がそう言うと、李は目を丸くして口を開く。
オーバーリアクションだ。馬鹿にしてんのか?
「ああ失敬。でも正しく評価してくれてありがとう。僕は僕であるけど、一応両親から両方貰っているからね。それを否定したりしない。僕と言う人間を理解してもらうならそこから入るのが分かりやすい」
「何と言うかとぼけた人だな」
「生きてきた環境的なもんだよ。真っ直ぐ生きてたら他に喰われる。のらりくらりやるのが戦術的に一応正しい。今回の研究はそこが根っこになるんだけど」
――俊鵬、お喋りが過ぎる――
図書館内に声が響く。
「あ、失礼。じゃあコウさん、振り返ってもらって真っ直ぐ行くと、扉があるからそこから出て左へ真っ直ぐ行ってくれ。一応そこが先生の部屋になる」
「分かった」
「まぁ一応取って食われる訳じゃないから気楽に会って来て。貴方の望みが叶う事を祈っている」
「俺の望み?」
「そう望み。我々が目指したのはそれも一つある。っとまた怒られる。さぁ行って行って」
苦笑いしながら李は両手をひらひらとさせて
俺を追い払う。一方的に話しまくられただけの様な気がする。
若干疲れた。
ここに残っても何も進展しないし、
世界を状況を理解する為にはその先生とやらに
会わなければならない。
俺は素直に従い扉を開けて出る。
そこは何処かの屋敷の様で、庭園は手入れされた
花などが満開になっている。
あそこのベンチで横になったらさぞや気持ちが良いだろうなぁ。
噴水には鳥たちが羽を休めている。
芝生に寝そべっていた大きなゴールデンレトリバーが、
俺に気付いて視線を向け体を起こした。
――こちらへ――
左側から声がする。
その方向には赤い絨毯のしかれた長い廊下がある。
その先に扉も見えた。
正直胃の辺りがざわざわし、
冷たくなるのが分かる。
この世界に来て久し振りか初めてか。
あまり喜ばしくない感覚である。
――怖気づいたのかな?――
煽るような言葉に一つ息を吐き
覚悟を決めて進む。若干足取りは重い。
――怖がらなくても良い――
気楽に言ってくれる。
十中八九碌でもない事しかないだろう。
――人による――
確かに。
俺は小さく笑った。そして扉の前まで辿り着く。
軽くノックを二回。
「律儀だね、どうぞ」




