ラストバトル
「分かってる。しっかしあのデカブツどうしたら良いのかね……っとぉ!?」
黒い液状人型から雄牛や氷柱、蔓が向かってくる。
それを円を描くように避けて行く。
これ以上距離を取ると近付けなくなる。
「そう言えばもう一つの剣は!? あれならルーンを消せるはず!」
「分からん。だけど考えがあるんだろう。今は俺たちで何とかするしかない。氷柱と蔓は太陽剣頼む。俺と黒隕剣は雄牛を潰しながら突貫する!」
俺は太陽剣を前へ放り投げ、
反転し雄牛の大軍へと突っ込んでいく。
雄叫びを上げながら自分に気合を入れて
突っ切っていく。死体が残る訳ではないのが
救いと言えば救い。光の粒子となって雄牛は消えて行く。
残った雄牛はUターンして俺を追ってくる。
蔓に捕まらないよう、雄牛を突っ切った後は
雲海を蹴って八艘飛びのような感じで移動する。
氷柱を処理した太陽剣は、雲海に潜り
蔓を斬ってくれている。雲海の中を赤い光が
素早い動きで駆け抜けていった。
「ここまで来たら全部出し切るぞ」
「出し惜しみなんて無駄ですのよ!」
黒い液状人型の手が届くか届かないかの
距離まで近付き
「いけぇ! 黒隕剣!」
上段に構えた黒隕剣に気を全て通し、
思い切り振り下ろす。剣気は衝撃波のように
振り下ろした斬撃の半月を描いて飛んでいく。
「ウアアアアオオオ!」
それを止めようとした黒い液状人型の
左手から左肩が真っ二つになり弾け飛んだ。
痛い顔をして叫び声を上げながら体を伸ばす。
「今ですわよ!」
「もう一丁!」
今度は足を止め、黒隕剣の切っ先を天へと向け、
腰を少し落として構え目を閉じる。
全ての気よ集え、全ての物語に終わりを。
その結末の為に力を。そう念じ力を込める。
「いけえええええ!」
「吹き飛べぇええええええ!」
リアンの掛け声に目を見開き、
黒隕剣を振り下ろす。
蒼白い剣気は更に大きな半月を描いた
衝撃波となり、黒い液状人型へと飛んでいく。
「アアアアアア!」
それを防ごうと右手を出したが甲斐もなく、
体が真っ二つに斬れた。
「あそこです!」
黒い液状人型の喉仏の位置に黒い珠が見えた。
確かオーディンはルーンの秘訣を習得する為、
自分に自分を生贄に差し出した。その際首を括ったんだ。
寸でのところで助かり見事ルーンの秘訣を手に入れた。
「なるほど、そこしかないか」
黒い液状人型は人の形を保てないようで、
液体となり下へと垂れて行き始めた。
「気をつけなさい!」
俺は走り寄りながら警戒する。
恐らくこれが最後の攻防になるだろう。
「珠に傷が入っています。復元は無理でしょう。ですが」
まだあの黒い液状は使えると言う事か。
「後ろ!」
その声に反応し、俺は直ぐに横へ飛び退き
その後斜め前へと走る。
後ろを少し見たが、黒い液体が固まる前の
飴のように伸びていた。
そしてそれが行く手を阻まんと前にも立ち塞がった。
「あれはどうやって消し飛ばしたらいいんだ!」
「珠を砕く事に集中なさい!」
遅い来る黒液状の触手のようなものを
何とか避けて根本を斬り進む。
が、数が多い。金太郎飴を思い出してげんなりした。
「まだまだ数はありますわよ! もっと多く斬ってからげんなりなさい!」
「あいあいさー」
それもそうだが何よりあの珠を斬る。
その為にここを潜り抜ける。
俺は再度気合を入れ直し突き進む。
「くっ!」
斬り残しがあったのか、
一本に横から薙がれてしまい
体が泳ぐ。下から登ってきたのか黒い液状の触手が
無数に俺を捕えんと現れた。
――コウ――
飲み込まれそうになった瞬間、
声が頭の中に響く。
そのすぐ後、雲海の下から火柱が立ち
――おっさん!――
鎌の斬撃が粉微塵に斬り刻んだ。
――おっちゃん!――
雲海が激しい震動を起こし、
黒い液状の触手は散り散りになる。
――コウ王陛下!――
幾つもの剣や斧、矢が雲海の下から、
触手や珠を狙わんと飛んでくる。
「うおおおおおおおおおおお!」
これが最後のチャンス。
そう考え一心不乱に珠目掛けてかけ出す。
後もう少しと言うところで珠が黒い光を放つ。
「間に合えええええええええ!」
俺は全力で飛び上がり、
黒隕剣を上段に構えた。
振り下ろす瞬間、その珠をフリッグさんと
バルドルが手を取り合い包み込んでいるように見えた。
「砕け散れぇえええええええええ!」
黒隕剣の刃が黒い珠に触れた後、
俺は全ての力を込めて叩き斬ろうと押し籠めた。
暫くしてガラスの破壊音と共に、珠は砕け散る。
そして俺はそのまま雲海の上へ転げ落ちた。
黒い液状人型だったものは、全て光の粒子となり、
宙へと登っていく。
俺は寝そべりながらそれを見つめていた。
そういえば昔こんな風に夕焼けを一度見た事があった。
「ご苦労様でした、勇者よ」
その声に首だけ上げる。
そこにはフリッグさんとバルドルが居た。
「いえいえ。最後の助太刀ありがとうございました」
「本来であれば家族の事、こちらで」
「そういう話ではないでしょう? 恐らくあの時点で彼は誰にも止められなかった。それ以前にもガス抜きの様な事はしていたはずですから、元々止められなかったのかもしれませんね」
「しっかし結局アイツの思い通りに世界は滅んでいくのか……」
少し残念ではあったが、やれるだけやった。
元々死んでいるようなものだったし、
痛いのは嫌だが仕方がない。
いつか死ぬのは皆同じだ。
「いよいよ黄昏時」
「世界の終焉は止められませんでしたが」
「勇者は最後まで到達出来ました」
「そのクリアランクをSSSとし」
「真の存在への道を開きます」
フリッグさんとバルドル、
リアンに下から現れたユグさん、
そして懐かしいティアマトさんが現れ
俺を囲みそう口にした途端、俺の視界は暗くなる。




