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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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願い

「よっしゃ最後の大一番と行きますか! 太陽剣と黒隕剣、雄牛を頼む」


 俺がそう言うと、二振りの相棒たちは雄牛を消し始める。


「くっ……ルーンで召喚した雄牛が」

「世界はお前によって崩壊を始めた。理を壊したのに理に縋るな」

「減らず口を!」


 先ほどまで綺麗な線を描いていた槍の動きも、

いびつでブレたものとなっていた。

俺はそれを冷静に捌き、スレイプニルに狙いを絞る。

 辺りは夕焼けより濃く染まり、

激しい震動の音や、崩れる音がしていた。

下も恐らく同じような光景が広がっているだろう。

結局ここまで来て何も出来なかった。

未来を信じて戦った皆の顔が脳裏を過る。

色々してあげたかった事や、したかった事もあったし、

知りたい事もあった。

詫びる事しか出来ない。

だが……。


「お前だけは!」


 俺はオーディンを仕留める為に今全てを掛ける。

こいつだけには目的を果たさせて満足に死なせる訳にはいかない。

良いように自分の恨みだけに目を向けて

他の者の事など考えず、最後まであがく事をしなかった。

それが出来る立場だったのに。

それを唯一出来る立場だったのに。


「なんでだ……私は神なのに。私にこそ有利になるべきなんだ。私の思う通りに世界はあるべきなんだ。何故私が追い詰められなければならない。私は勝利者だ。私の家柄からして皆私の下にあるべきなんだ……代々国に尽くしてきた家なんだ! 後継ぎとして幼少から最高級の教養を身につけてきた!」

「自分以外の人型種は自分の思うように生きないから滅ぼそうっていうんだな。だが滅ぼしても何も変わらないぞ? 結局同じ事を繰り返すだけだ。どれだけ弄ろうとも人に意志や思いがある限り、誰も思うようにもならない。願いを叶える為に変えられるのは自分だけだ」


 俺は諭すように言葉を発しながら斬りつけた。

オーディンに言うというより、自分に言っているような気がする。

以前の自分ここに来るまでの自分に。

今ここに辿り着いた事で、それを少しだけでも体現して見せたと思う。


「願いは叶いましたか?」


 リアンがオーディンを見ながら俺に問う。

その横顔は凛としていた。


「そうだなぁきっと叶ったんじゃないのかな。愛され無かっただろう記憶は、違うものへと変わり、手助けの御蔭で他の人を助けたり見守ったりするようにまでなれたよ。感謝している」

「良かった……」

「だがこいつだけは皆の為にも何とかしないと。この世界を看取るのはコイツじゃない。俺たちだ!」

「今です!」


 その声に反応し、俺はスレイプニルのがら空きの

眉間に黒刻剣(ダークルーンソード)の泡槍を突き差す。


「おのれぇ!」


 オーディンのグングニル穂先が俺の真上に来たが、

泡槍がバチッと音を出して俺の手を弾き、

グングニルと接触した。


「邪魔をするな巨人族の亡霊如きが! 砕け散れスットゥング!」


 オーディンの気が増幅し、俺とリウは吹き飛ばされる。

黒刻剣(ダークルーンソード)の泡槍は眉間から離れず、

オーディンのグングニルを叩きつけられていた。


「太陽剣! 黒隕剣!」


 俺は丁度雄牛を処理した相棒二振りを呼ぶ。


――ありがとう――


 どこからかそんな声が聞こえた。

次の瞬間、泡槍は光を放ち辺りを埋め尽くす。


「くっ……」

「ダメよ、まだ目を開けては。目が見えなくなってしまいますわ」

「だけど……」

「彼は出来なかった仕返しが出来て満足でしょう。彼は渡したい相手に今度こそ渡したいものを渡せたのだから」


 暫くして光が治まり目を開く。


「くそっ……」


 オーディンはグングニルを杖のようにし、

体を預けてかろうじて立っていた。


「リウ、ありがとう。最後まで見守っててくれよ」


 俺は相棒を一旦鞘に収め、

リウの首に顔を寄せた後、

一撫でしてから降りる。

例え滅ぶとしても、やらせはしない。


「何故降りる?」

「馬上はアンタが有利だった。だが俺はここからが本番だ。勇者の力って奴を存分に味わって地獄へ行け!」


 俺は太陽剣と黒隕剣を構えて

啖呵を切る。そしてオーディンの元まで掛けて行く。


「まだだ……まだ終わらんぞ……罠カードはまだ……!」


 オーディンが右手をかざすと、

雲海が盛り上がり行く手を阻む。


「今更だ。海も越え山も越え空も越えてきたんだぞ!?」

「そうですわ!」


 俺は速度を落とさず盛り上がった部分を

飛びながら進んでいく。勿論途中でバランスを崩しもしたが、

手を着いて態勢を立て直しながらオーディンの元を目指す。


「来ますわよ!」


 盛り上がりを降りた後、オーディンまであと一歩のところで

今度は氷の棘が雲海から生え、壁のようになって立ち塞がる。


「まだまだあ!」


 俺は太陽剣に気を込めて氷の棘に穴をあける。


「くそっ!」


 氷の棘が破裂し氷柱のようになって落ちてくる。


「相棒!」


 黒隕剣を放り投げる。相棒は氷柱を破壊し、

太陽の気を纏い小さな破片を消していく。


「いけえええええ!」

「耳が痛い!」


 リアンの叫びの応援に苦情を入れながら、

俺はオーディンの元へと突っ込んでいく。


「くそぉおおおおおおお!」


 オーディンの目が赤く染まり、黒い気を放ち始めた。

発生した風圧に押し戻される。


「くっ……あれは」

「一旦距離を取りましょう……」

「良いのか?」

「巻き込まれますわよ」

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