終る世界で
リアンはそれでも飛んで行こうとしたが、
「待たせたな」
笑顔でこちらを向いてそう言ったオーディンを見て
リアンは諦めて浮遊した。
「本当に元俳優っていうだけなのか?」
「育ちが良いのさ。相手を出し抜く為なら何でもやったが、最後には自分を上回る人間にしてやられた間抜けだがね。今回こそ上回って見せる」
「何をしたんですの?」
「ちなみにコウ王はどう思う?」
正直俺にはオーディンの動ける範囲とか、
李と呼ばれている星の管理者が
何処に居るのかは分からない。
だが、さっきの”李の欲を満たして与させた”
という発言からしてオーディンはそこへ
いけるのだろう。
そしてリアンの指揮下に完全に置かれ、
制御できないんだとしたら……。
「星の管理者さえも無き者に出来るとは驚いたよ」
「流石だな。で、そうなるとどうなると思う?」
オーディンは両手を広げながら俺に問う。
オーディンの頭上は赤く染まり、魔法陣が浮かび上がる。
「リセットもリスタートも出来なくなったんじゃないか?」
「……自殺するつもりですの?」
リアンの言葉にオーディンはニカァッと目を見開き
口を大きく広げて笑った。
「所詮創造主の片割れとはいえその程度よ。甘いにもほどがある。それとも私が上手く隠せたのかな?」
「……まったくどこまでくだらないのでしょうね。哀れと思って目溢ししたのに恩を仇で返すなど」
それを聞いて何かが切れたように笑うオーディン。
ひとしきり笑い終えても尚目を見開き笑顔のままだ。
「良いぞ……実に良い。目溢しした相手に命を奪われるなどという惨めな目に遭わせられたのなら幸いだ。さぞや創造主も喜んでいよう」
「それで貴方の無念が張らされたのなら良かった。迷わず死ねるでしょう」
「ああそうとも。俺には何の未練もない。だが下に居る連中はどうかな」
オーディンの視線が俺に向いたが、
俺は別段どうとも思わない。
俺が死んだとしても特別何とも思わない。
ここにおいては俺が何かをする事も出来なかった。
ただそれだけだ。
「……随分と白けた顔をしているな。もっと勇者らしく嘆き悲しみ悪に怒れよ!」
半笑いで言われたが、俺は首を傾げる。
正直ここまでやれる事は全部やってきた。
オーディンのした事に終った後問われて
想像はついても、事前に予想は当然出来なかった。
言うなれば製作者側とプレイヤーみたいなもの。
そう考えると、俺にチート能力を与えていたのに
最後でその違いを明確にするような展開に笑えて来た。
一体何が目的でここまで力を与えてここまで越させたのか。
「何が可笑しい。悔しがれ下の愛おしい者たちの為に涙を流せ」
「馬鹿か」
「馬鹿は貴様だ。ネジが取れているのか?」
「知らんわそんなもの。やれるだけやったまでだ。俺は俺の知りたい事の為にもここに来ている。それが知れないで終わりそうな事は残念ではあるが、こんなズルをされたんでは致し方ない。それ以上に何があるんだ?」
「お前もそのズルの一因ではないのか?」
「知らんて。俺は確かにここに来た事で身体能力は格段に上がり最強の武器は得た。だがお前のようにその力を持って他人を蹂躙した事も無ければ、この力のみを頼りにじっとしていた訳でもない。お前も知っての通りここまで一歩一歩、年月にしていえば三年くらい歩んできた。後悔は当然ある。だがそれは皆同じだ。こうして終わるのは俺たちの上を言った文字通り”神様の裏ワザ”によってだしその所為だが、それを恨んだりしない。こっちからすれば、だからどうした、だ」
「……日本人の癖に偉そうに……」
「別に何人だか知らんがそういう以前の問題だわ。納得がいかないから暴れるのは結構。だが気に入らないから他人を巻き添えにして世界を滅ぼすなんてのは、ただのガキのやる事だ。失敗したからリセットボタンを押すなら一人でやりな糞野郎」
鞘から黒隕剣が飛び出してきて宙を舞う。
太陽剣も俺の手を離れ宙を舞った。
「確かにこれで世界は終わりなんだろうが、それでも俺はアンタをぶっ倒さなきゃならない。糞野郎と共に消えて行きたくないんでね。先に死んでもらおう」
「良かろうチビの日本人め。全てに劣るものが私に勝てるかな?」
「見下すことでしか戦えないと言うのなら、そうするが良い。こちらはアンタの考えに倣う事は無いのでね」
「言ったな日本人!」
オーディンの顔は鬼の形相へと変わり、スレイプニルを駆ってくる。
「随分と思い切り殴りましたわね」
「感想を述べただけだ。それに最後の一戦くらい派手にやりあいたい」
「良い啖呵でしたわ。相手は不良ぶりたかった御坊ちゃま。最後の最後まで自らの立場を有利にしなくては戦えないとは」
「まぁ追い詰められているのがこっちは分かって有難いけど」
「当の本人がそれを見ないように気を張っているのは意地らしく見えますが」
「教養があれば神様も上手くやれると思ったんだけどなぁ」
「確かに教養も大事ですが、人としての部分が大事でその部分をケアするのが”ナース”の役割でした。ですがそれすらも飲み込む力があっても、後悔や無念怨念はそれを上回っていたのでしょうね」
「人型の絶滅だけでなく、創造主への疑似的な復讐を果たそうとする。そんなところまでは見えなかったんだな」
「もう少し人は利口だと思ったんですけどね」
「死んでみなきゃ分からない事もあるってことかな」
俺は振り下ろされたグングニルに対し、
黒刻剣の泡槍の
穂先を当てた。その力は凄まじいものがあり、
ぐるりと回転させられそうになる。
が、その際に右太ももに少し力を入れた。
反動を利用してリウと俺はオーディンから距離を取る。




