主神戦その二
正直オーディンとスレイプニルの
人馬一体振りには舌を巻くしかない。
オーディン自身の関係性だけではなく、
彼が馬に馴染みがあったどころか
乗りこなし従えられるという点。
更にポロのスティック捌きが
思った以上に凄く、想像していた槍の軌道
そして見てきた槍の軌道と別物だというのも
対応しきれていない点だろう。
ハンマーとは逆の軌道で、掬いあげる攻撃が
加わるだけでも大分違う。
不意打ちやフェイント、けん制ではない強い一撃。
「見合っていたところで勝負は付かなんな。再開と行こう」
オーディンは余裕のある口振りで再開を告げた。
「マジか……」
再開は良いが雄牛の数が戻ってないか?
「言った筈だ。ここは私の庭であり領域。手札を幾つ伏せているか教えてはやれないが、無いなどとは思わない事だ」
罠カードを仕込んでいる事を
教えてくれるなんて随分親切だな。
ただ何の条件で発動するのか。
「ちなみにこれは”再生”のカードを発動させている。条件は教えられんが」
「条件は一定数の減少で最大まで回復、ですわよ」
「リアン!」
空から小さな光が降りてきて、
俺の肩に止まった。
次第に光は人型となり現れたのはリアンだった。
「……どういう事だ?」
「どういう事も何も私を何だと思ってますの? 気まぐれで多少の御目溢しはしても、反旗を明確に翻した揚句私に明確に敵意を持った者を許すほど優しくはないですわよ。私は私の役割を果たして帰ってきただけの事」
「そうか。李を処分したのか」
「いいえ。人間性はどうあれ私が見染めた優秀な人材ですもの。処分なんて勿体ない……ではなくおこがましいですわ」
リアンは口に手をあててわざとらしく
オホホと笑っている。何をされたんだ星の管理者。
「だがこの短時間で完全な修正は出来ない筈」
「無論ですわ。だけど穴なら開けられる。体を消してしまわなかったのは失敗でしたわね」
「そうかな? 私はまだ負けた訳でも諦めたわけでもない。時間はまだ残っている」
オーディンはさっきまでとは違い、
鬼気迫る顔で突っ込んできた。
「来ますわよ」
「分かってるよ! てか煽ってないか!?」
「煽って良かったでしょ? あのままやられていたら時間を稼がれるだけの事」
「そりゃそうだけ、ど!」
下から掬いあげる一撃を何とか避け、
スレイプニルに向けて突きを放つが、
直ぐに引っ込める。
オーディンが返すグングニルをこっちに
叩きつけて来たで、なんとか寸でで避けた。
そこから更にもう一度掬いあげが来るのを見て、
こっちからみて左側面へ移動しようとしたが、
それを読まれて薙いできた。
「しっかりしなさい! 頭を持って行かれますわよ! 死にたいんですの!?」
「煩いな!」
槍は柄が長い為、攻撃範囲は広くなったが、
その分気を付けないと柄を強打されたら
落とすだけでなくバランスを崩してしまう。
だからと言って攻めない訳にはいかない。
隙を見せてきたらそれはカウンターへの呼び水。
作るより他ない。
「馬上じゃ流石に敵わないな」
「当たり前でしょう? 向こうは小さい頃から乗ってる御坊ちゃま。貴方とは育ちが違うんですのよ?」
「神様やるくらいだもんなぁ」
「まぁそれだけ隙もあるって事ですわ。よく見なさい。曲芸をしてきたりもするでしょうが、全て軸がブレていない」
「やっぱ結局アクシデントや不意を突けってことになるかぁ」
「それを誘発させなさい。相手の間合いで遣りあっていては博打を打っているのと変わらなくてよ?」
「だな。リウ、頼む!」
「ぐあ」
話しつつも避けたり返したりしていたが、
一旦間合いを広げる。
「そんなに距離を開けても良いのかな? ゆけ雄牛たちよ」
一息吐く為なのか、雄牛をけしかけ
自分は独りその場に残るオーディン。
狩りをされているようで非常に嫌な気分だ。
「こら、焦るんじゃありませんわよ。この子が一生懸命走っているうちに何か手を考えなさい」
「そうだな。深呼吸深呼吸」
俺とリアンは深呼吸を二、三度繰り返した後、
後ろを見た。雄牛たちは追い掛けてきたが、
オーディンはそのままの位置。
これは何かあるな。
雄牛たちを削っても一定数を切ると
再生が行われてしまう。
だがそれまでは減らしてかまわない筈だ。
「少し削るか」
「私が数を数えています。止まれと言うまで良いですわよ」
「ラジャ!」
リウはその声を聞いて反転してくれ、
雄牛たちの群れに突っ込んでくれた。
「でやっ!」
黒刻剣とスットゥングの泡槍の
合わさった槍を素早く雄牛の眉間に付き差していく。
雄牛たちは次々と光になっていく。
「止まって!」
俺は即座に手を止めリウは距離を取る為走り出す。
「サンキュー」
「どういたしまして。ですがオーディンが気になりますわね」
そう、こうしている間もオーディンは突っ立っている。
「なぁ……なんかもぬけの殻って感じがしないか」
「……しまった!」
リアンは俺の言葉に顔面蒼白となり、
急いでオーディンのところへ行こうとした。
が、俺は直ぐに小さな足を摘まんだ。
「な、何をしますの!?」
「何か分からないけどもう遅い。行ったら行ったで何かされる」
「で、ですが」




