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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
第二章・無職で引きこもりだったおっさんは冒険者として生きていけるか!?

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おっさん弱さを見つめる

 死に直面し、逃れた安堵と

ぶり返す恐怖心を乗り越え、

涙が枯れた後に街へと戻る。

戸を叩くと、門番があけてくれた。

恐らく目が腫れぼったかったはずなのに、

何も言わず黙って通してくれた。

そんな事にすら涙が出そうになる。

枯れたはずだと思っていたのに。

今は少しの優しさも身にしみる。


「おかえりなさい」


 ミレーユさんは夜遅くなっても

待っていてくれた。

おっさんの癖に誰かに泣きつきたい気持ちを

ぐっと抑えて、


「ただいま」


 何事も無かったかのように、そう言う。


「三人ともぐっすり寝てるから、コウも早く休みなさい」

「ありがとう」


 少し笑うのが精一杯だった。

一人部屋の所には”コウの部屋”という

木で出来たプレートが掛かっていた。

その中に入ると、ベッドと机があるのみだった。

スッキリしていて良い。

そして部屋に差し込む月の明り。

その青白さを見て、背筋に刃物の冷たさが

よみがえる。

実際に当てられた訳ではないが、あの感覚を

俺は忘れられない。

ベッドに入り、頭まで布団で隠す。

怖い。

何故アイゼンリウトの時には感じなかった、

死の恐怖が今になって湧いてくるのか。


 俺は怯えて朝を迎える。

まだ明けてまもない朝。

朝露も濡れているうちに、俺は一人で

洞窟へ向かう。

この恐怖の正体は一体何なのか。

死の恐怖はわかる。

だが逼迫さで言えば、アイゼンリウトの時の方が

あったはずだ。

何故俺は今になって怯えているのか。

 

 洞窟の前に立つ。

昨夜と同じ状況になれば何か見えてくるかもしれない。

俺は意を決して中へと進む。

一階部分は昨日探索済みだ。


「プギィイイイ!」


 今日はイノシシが襲い掛かってきた。

勿論目は紫色だ。そして大群。

俺は黒隕剣を構える。

インパクトの瞬間だけ剣身を出せるようにと

心がける。

俺に向かって三角の頂点のように突っ込んできた。

第一陣を薙いで、更に切り返して薙ぐ。

それでも剣の間合いで処理できる数は、

ブーメランに劣る。

漏れたイノシシは其々方向転換して、

俺に向かってくる。

それを思い切って飛び上がる。

ガツンと洞窟の壁に頭をぶつけた。

今まで飛び上がった事が無かったが、

跳躍力も高かったのか。

頭の痛さは感じたが、それ所ではない。

恐怖が足りない。

足元にはイノシシが互いに頭をぶつけてノビていた。

それを足で踏み、向かってくるイノシシを切り伏せる。

一人ならこれが限界なのか。

いやまだだ。

まだ全力じゃない。

もっといける。


「はあっ!」


 ある程度イノシシたちを倒すと、見境無く突っ込んで

来なくなった。

だがまだ数は多い。

こちらの隙を窺っているようだ。

恐怖が湧いてこない。

出し消しはしているが、眼鏡の男が言っていたように、

昨日の今日で消耗も少なく慣れて巧くなっている。

流石チート性能といったところか。


「プギィ!」


 真正面の一体が向かってくる。

同じように切り伏せようとしたが、

倒したイノシシに足を取られ、

体当たりをそのまま受けてしまう。

咽ながら洞窟の入り口付近まで吹き飛ばされた。

最初は唾かと思ったが、咳に血が混じっている。

こういうところはチート性能は無いんだな。

だが、それでもあの男に与えられた恐怖には及ばない。

まだだ。

もっと来い!

俺は膝に手を当てつつ、何とか立ち上がる。

イノシシは今だとばかりに攻め込んできた。

黒隕剣を不恰好ではあるが構え、待ち構える。

そして一頭目を貫くと、直ぐに剣身を仕舞い、

後ろから突っ込んできたイノシシの2陣目を薙ぐ。

だが次の三陣目が突っ込んできた。

俺は驚くもいつもより一歩多く前に出て、

僅かな隙間に体を入れて横に黒隕剣の剣身を出し、

そのまま薙いだ。

だが切れ目無く突っ込んでくる。

ここでも不恰好ながら、隙間を見つけては体を入れて

剣身を出し薙いでいく。


 暫くそれを繰り返してやっとイノシシたちを撃退した。

俺は安堵のあまり膝から崩れ落ちる。

出し消しが巧くなったとはいえ、ダメージや消耗もあり

流石に体力は限界に近かった。


「死ネ人間!」


 俺の目の前に槍が突き出された。

ゴブリンまで居たのか。

このまま何もしなければ、眉間に刺さり死ぬ。

これだ。

俺はこれまでで一番早く剣身を出し斬り払う。

そして間髪居れずにゴブリンを一刀両断した。

悶絶したゴブリン。

やっと習得できた気がする。

だがこれでも尚、あの恐怖心は消えない。


「ああ、一人になったのは久し振りだった」


 洞窟の入り口での戦闘で、俺は外に出ていた。

見上げれば青空が広がる。

最初この世界に来た時に感じなかったもの。

俺は今一人ではなかった。

偉そうな事を言いつつ、俺は皆を守っている気になっていた。

違う。

皆も俺を守ってくれていたんだ。

一人になることへの恐怖に気付かなかった。

元の世界では一人で部屋に閉じこもっていたが、

一人ではなかったのだ。

こんな事をしなければ気付かないとは情けない。

愚か過ぎて何もいえない。

自然と誰かを頼り、背中を任せる事が当然だと思っていた。

そうじゃない。

誰かを頼りつつ、俺も誰かに頼られなければならない。

その為に剣術が、明確な力が要る。

武器に頼るのではなく、俺自身の。

この世界に来て気付く事が多い。


「ヨクモ俺ノ家来ヲヤッテクレタナ」


 目の前には紫色の肌をし、こうもりの羽を生やした

鬼のように角を生やした魔族が居た。

一人とはこんなにも背中が寒くなるものなのか。

俺は自分を嘲笑しつつ、構える。

情けない。

アイゼンリウト城入り口でのリムンの背中は、

ファニーやロリーナ、そして新しく仲間になった

ブルームの背中に情けなさは無い。

凄いなアイツらは。

おっさんの癖に情けない。


「ホント笑いものだな」

「死ネェ!」


 魔族は飛行しながら剣を振り下ろしてくる。

それを弾いて防ぐがまた突っ込んできた。

空を飛んだ状態はやっかいだ。

しかもここは洞窟の外。

天井が無い。


「全くだらしの無いことだ」


 俺は自分にそう言って、突っ込んできた魔族の

剣を弾くと、足に力を入れて全力で跳躍する。


「ナニ!?」


 魔族は呆気に取られたが、次の瞬間世界はずれる。

跳躍し上から唐竹割りにしたからだ。

俺は地面に降りるとそのまま大の字になって倒れた。

 

 一人になりたいと、

一人で生きていたいと言いながら、

死を実感して、人に頼りたいのに

頼る事をしなかった。

遠慮していたことに気付かなかった。

遠慮されてアイツらが喜ぶはずも無い。

怒られるだろう。

だが、情けない自分を認められずに

一人で戦ってみた。

結果ご覧の有様だ。

自暴自棄であることは間違いない。

八つ当たりとは子供だ。

だけど今なら認められる。

俺はガキで独りよがりの大馬鹿者だ。

生きたくても生きられずに居た人たちを

アイゼンリウトでも、元の世界のテレビでも

見ていたはずなのに。

それに気付かないで居た。

だからこの世界に飛ばされたのかもしれない。


「俺はアイツらよりガキだ」


 言葉にして認める。

おっさんだから人が多いと年長者っぽくなっていたが、

基本はガキそのものなのだ。

英雄になりたくないのも、心が弱いから耐えられない

理由を巧くこじつけただけという点もあったと

今は思う。

勿論それだけではないが、そういう側面もあったと

認めなければ、前へ進めない。

強くなれない。

頼りになる背中に成れない。


 俺は敵が来るかも知れない状況の中で、

自分の弱さを見つめ認めると、安堵して

眠くなった。

最強になった気でいた、偉そうだった自分は

今この時なりを潜めた。

また出てきたときは自分で叩かないと。

そう思いつつ、満足して瞼を閉じて意識を失った。

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