主神戦
「何かやっていたのか?」
「何かとは? ……というのは意地が悪いな。ポロを少々な。日本人でも分かるか? ポロ」
「馬の上から地面のボールを操る競技か」
オーディンは微笑む。
なるほどこれは厄介。
地面にある小さなボールをスティックで馬上から打ち、
ゴールへと運ぶ競技であるポロ。
スティックの先端が左右に伸びてT字になっている。
そこを使いボールを叩く。言葉で書くと簡単だが、
先ず馬に乗りなれている事が絶対条件だし、
更に馬を操りつつ自らの体を上手く操って
他の馬を叩かないようにボールだけを叩くのは非常に難しい。
オーディンのグングニルの持ち方が何か変な気がしたが、
それが影響しているのかもしれない。
刺すと言うよりは叩く事を目的としているような
振り方だ。更に穂先が思った以上に細かく動く。
俺はリウに反対を向いて乗り応戦していた。
リウはウマよりも足が長いだけでなく首も長い。
オーディンと真正面から打ち合えば首を狙われる。
「相変わらず器用な真似をする」
「そっちこそ。大振りで誘いつつ、こちらが誘いに乗れば返しでこちらの身を切ろうと穂先を動かしてくる。器用すぎる」
「技術戦で後れを取る事は無い」
リウに行く方向は任せ、
オーディンの槍を打ち払いつつ、
雄牛を処理していく。
「全くここに来て隠し玉とはな」
「そう言いつつ余裕だ」
「そうでもない。その黒刻剣とやらは対ルーン装備らしいのでね、どうしたものか考えている」
「そうなのか……」
「お前がそれを初めて手に入れた後私と打ち合った事があったが、あの時は純粋な力比べだった。その時真剣に打ち合ってみるべきだったな。ルーンの一つも使わなかった事は後悔する」
オーディンは攻め続けながらも、
目を瞑り小さく鼻で笑った。
恐らくオーディンのルーンは下の世界の魔術などとは
全く別物で、黒刻剣が無ければ
大分苦戦したと思う。有難い事だ。
プレシレーネに依頼を受けてあの洞窟で相棒と出会わなければ、
この善戦は無かっただろうと思うと、感謝しかない。
「だがな、こういう手はどうかな? 氷結棘」
パキパキと音を立てて足場の雲が凍り始め、
そこから氷柱が飛び出してくる。
リウはとっさに避けて速度を上げて先へと進む。
「逃げられはしない。ここは私の庭なのだから。イング!」
オーディンの言葉の後に冷気が辺り一面を支配し、
オーディンの足元から氷が発生。水面に水滴が落ちた時の
波紋のように周りに広がり凍らせていき、辺り一面
氷の世界になってしまった。
「ぐあ」
リウは声を上げる。動きもまるで鈍ってはいない。
恐竜は寒さに弱いのかと思ったが、リウはそうではない
種類の恐竜らしい。だがその代わり足場が悪く、
スピードは落ちる。
「さてどうする?」
オーディンのスレイプニルや雄牛はそれを踏み均して
突き進んできた。
「こうするだけだ!」
俺はリウの鞍の上に経った後、
太陽剣を左手に握り飛び降りる。
そして太陽剣の気を纏い
オーディンたちに向かっていく。
「吹き飛べ!」
太陽剣に力を込めて氷目掛けて振り下ろすと、
接触した瞬間炎が溢れだし氷を溶かしていく。
「出鱈目な」
「宇宙が近いから地上より陽の光が強いのかもな!」
バキィーンとガラスの破壊音のような音と共に、
氷が消えて行く。
「だがあれから降りたのは間違いだな」
オーディンが突出して来て槍を交える。
がポロの嗜みのあるオーディンにこの位置は
かなり有利になった。
先ほどまでの正面で向かい合っていた時とは
まるで違う、猛烈な攻めを受けている。
曲乗りのような態勢になったり、
馬を駆使して速度を落とさず小さく円を描くように
動かしながら責め立ててくる。
場所は移動しているが円の距離が離れる事は無い。
並みの馬なら体力が持たないだろうが、
スレイプニルならではの無茶な動きだ。
足を止めたら残りの雄牛とオーディンによって
逃げ場が無くなってしまう。
グングニルを受けた反動を利用して距離を取るが、
勿論逃がしてはくれない。
「どうした? 攻めの手が緩んでいるようだが」
「そっちこそ詰めにこないのか?」
オーディンはそれを聞いて微笑んでいた。
余裕だなぁ。
「何が起きるか分らないのもあるが、私自身持てる力を出せているのが楽しくてね」
人馬一体という言葉そのもののオーディンとスレイプニル。
何とかスレイプニルを落とそうと仕掛けてはいるが、
上手く避けられてしまう。
「馬への攻撃はルール違反だな」
「ポロじゃないんでね!」
太陽剣に気を流し、横へ薙いで炎を発生させる。
それを掻い潜った隙を突いて攻撃して見たが、
これもあっさり避けられた。
「一度剣の炎を見れば、そう言う風に狙っているのも分かるというもの」
「そうだろうな」
俺は避けてからの一撃を避ける為に
後ろへ飛び退く。
「また元通りか」
「いやぁ参った。隙がありそうで無いなぁ」
「無論だ。早々隙など見せられん」
俺はリウの背中に着地し、
足を止めていたオーディンと向き合う。




