女神の告白
金色の門を潜り抜け、暫く歩くと
三十六段位の階段が現れる。
警戒しつつ階段を上り、
小さな城へと辿り着いた。
宝石などが散りばめられている室内は
煌びやかではあるが、
驚嘆する事は無く義務的に配置されて
居るように感じた。
特に何の仕掛けも無く奥まで進む。
警戒はしていたが、気配もなく
空気が流れる音が聞こえるようで
さながら美術館にいるような気分だ。
「いらっしゃい」
まるで喫茶店にでも入ったような
軽い調子の歓迎の言葉に、
俺は拍子抜けした。
アーサーは怪訝な顔をしていたし、
バルドルはなんか切なそうな顔してるし。
「お邪魔してもよろしいですか?」
「ええ。本当によくここまで辿り着いたわね。貴方が恐らく最初で最後でしょう。ようこそ我が城フェンサリルへ」
その人は白い肌が映える
深紅のドレスに身を包み、
床に着くほど長くそして煌めく黒い髪を
靡かせて近付いてくる。
整った顔立ちに宝石のような瞳。
一つの憂いも無くそこに居る。
「改めて自己紹介を。私はフリッグ。正式には補助をするクラス”ナース”の中の一つフリッグ」
「補助をするクラス……」
「そうです。この世界の生物を受け持つ神々が崩壊へ向かわないよう、その動きを促しサポートするのが私の役目。そうですわねお母様」
フリッグさんは俺の方に居るリアンに
視線を向けた。リアンはただ黙って見つめただけだった。
「もしかすると大枠としてはそうではないのかもしれませんが、私はそれについて疑う事を許されてはいない」
確かに。彼女の言う通りなら、今の状況には
ならないだろう。何しろ崩壊に向かいつつある。
俺が止めなければそのボタンは押されていたと思う。
と言う事はそうではないのか。
「母上……」
「バルドル……」
母子二人の間に何とも言えない空気が流れ、
お互いに哀しそうな顔をしていた。
俺とアーサーは黙って二人が話を始めるのを待った。
「俺は……俺は何故死ななくてはならないのか。いや人だって死ぬんだから死ぬのはまだいい。だけど何故俺は母上や父上に殺されなければならないんだ!? 教えてくれ母上。俺は死ななければ救われないほどダメなやつなのか!?」
バルドルは腹から声を出し母に問う。
その体は震えていた。母に面と向かって
問い質すのは初めてなのかもしれない。
暫くフリッグさんはバルドルを見つめていた。
そして口を開いたその時
「私もそれは聞きたいですね。何故殺されなかった彼をそのままにしたのか」
とリアンが割って入った。
それを聞いて一度口を閉じ、
目を閉じて小さく息を吸った後、
再度目を開いた。
「私もお母様たちがここに干渉しようとしてたい事は分かっていました……。お母様たちは世界が止まり繰り返しが永遠に行われるのを防ぐ為、新たな判定を作らなければならない。その為の時間稼ぎをしたかった。ただそれだけです」
冷静にそう答えた。
バルドルが死んだ、という結果から
新たなルートが開く予定だったのか?
だがそんなに時間を掛けず
俺はこの大陸にバルドル達と来たが。
「確かに。一つ新たな判定を作ればその先を直していくのに時間がかかる。だけれど元より黒隕剣がアンカーとなっている以上、我々の介入は少しずつでも既にあったのであまり意味を成さないかと」
「それでも時間を稼げた。秒でも良いから」
「貴女に愛情を持つよう仕掛けた覚えは無いのですが……あの子は凝り性なので仕方ありませんね」
「私にも理解出来ません、何故その様なものが生まれたのか。気付いた時にはあの人の願いを叶えたいと思ったし、気付いた時には愛し合い息子が宿り生まれた」
「貴女は生物に対する母性を持つようにはしてありましたから、ゼロでは無かったんでしょうね。生憎私には理解出来ませんが」
「そうでしょうか。私にはお母様にこそ無意識の愛情があってそこから私達に流れて行ったのではないかと推察しています」
「さてね。死ねば理解出来るのかもしれませんが。で、彼も見たところ例外的存在のようですが」
「はい。そうである、と言う事を認めるだけで事実どうなのかは創造主に聞くしかないかと」
「で、フリッグさんとオーディンは彼を愛しているのかい?」
バルドルと言う存在がリアン達に対しての
妨害になる、その一点で生かしておいたのか。
殺さずにいる事で特異点のような状態になり、
全てにズレが生じると。
「……事ここに来て嘘をついてもどうしようもありません。我が子というのは彼一人だけです。そこから私達の計画は可笑しくなってしまった……。貴方が仲間にならない時点でゴルド大陸でラグナロクを起こして終わらせようとしました。私達には迷いを振り切ってギャラルホルンを起動させようとしたのですが、まさか貴方が我が子を助けるとは……。その様子を見て彼は起動を躊躇ってしまった。私は貴方たちを見て気付いたのです。彼にとってアーサーと望んでいた関係がこれなのか、と。本来必要であったのは私ではなくコウとバルドルのような関係だったんだ、と」
フリッグさんはそう話しながら涙を流す。
それにしても俺とバルドルは別に
大親友でもないんだが、えらい評価されているな。




