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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
第二章・無職で引きこもりだったおっさんは冒険者として生きていけるか!?

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月下に踊る死

 食事が終わった後、俺たちはミレーユさんに促され、

冒険者ギルドの近くにある、湯場へと向かった。

この世界で言うところの銭湯みたいなものがあるらしい。

冒険者ギルドより大きな建物で、入ると其々銅貨1枚ずつ

払い、木で出来た桶と布で出来た手拭いのようなものを渡される。

最初はサービスらしい。

男女勿論別である。

 中では色々な種族が裸でうろうろしている。

大きなライオンの口から湯が流れており、皆順番待ちで

そこからお湯を桶に居れて体にかけていた。

そして五つくらいある小さなライオンの口からお湯が出ている

場所の前に座り、備え付けの消毒液体をタオルにつけて

体を洗っていた。

頭もそれで洗うようだ。

俺もそれを見て順番に真似てから、奥にあった大きな湯溜まりへ

行き体を沈めた。

 まさしく温泉だ。

水のインフラが思っていたより進んでいるようだ。

古代ローマ位にはなっているのかな。

ココに来て新しい発見にわくわくした。

何れ時間があったらその辺りもじっくり見てみたい。


「お待たせ」


 俺が風呂から出ると、女性組三人はすでに受付で待っていた。

ぐったりしていた。

良いお湯だったから疲れが取れたのだろう。

それからほかほか気分のまま冒険者ギルドに戻る。


「今日からコウと他の娘達は別部屋ね」


 ミレーユさんにそう言われて俺は安心した。

二人部屋に四人はきつい。


「なら僕とコウで」

「いや我とコウで」

「私とコウで」


 三人娘は何が悲しくてこんなおっさんと一緒の部屋になりたいのか。


「駄目よ。コウのはたまたま一人部屋が空いてたから」

「我らは?」

「三人部屋に移動。二人部屋に他の冒険者が入る予定があるから」


 もう抗議するも、笑顔でバッサリするミレーユさん流石。

最後は諦めて三人娘は案内された部屋に行く。

俺は少しカウンターでのんびりすることにした。


「コウ、剣の調子はどうかしら」

「どうなんだろう。アイゼンリウトの戦いで少しなれたとはいえ、今後安心かと言われれば不安はあるかな」

「そうよね。黒隕剣は覚醒したみたいだけど、コウ自身の剣術が上がらなければ、宝の持ち腐れになってしまうし」

「確かに。誰かに習うのがいいのかな」

「習うと言っても剣術を教えている普通の人では身につかないと思うわ」

「そんなレベル上がってるんだ」

「多少はね。でも根本的に武器の性質が違うというのもあるわね」

「魔力の消費の問題?」

「そう。それでコウ、今からそれを教えてくれる人を紹介するわ」

 そう言ってミレーユさんは紙に何か書き始めた。

 見てみると、地図だった。

「今からこの場所に行って見て」

「何か嫌な予感がするんだけど」

「どうかしらね。あちらは第一段階だから手加減すると言ってるわ」

「……まさかあの眼鏡?」

「兎に角行って見て」


 ミレーユさんの笑顔に負けて、地図を手に冒険者ギルドを出る。

夜間の出入りは出来ないかと思いきや、門番用の出入り口から

門番が出してくれた。

ミレーユさんから依頼があったようだ。

のんびりと草原を歩いていき、農家の方面より右側へ歩いていく。


「待ちわびたぞ」


 其処に居たのは絶世の美女と共に会った、

丸眼鏡を掛けファーの付いたコートを着た

銀髪の黒ずくめの男だった。


「お待たせしたみたいですみません」

「なら早速始めようか」

「何をですか?」

「お前への礼だ」


 そう言うと、腰にさした剣を引き抜いた。

普通の剣にしか見えないが大丈夫なのかな。

俺は戸惑いつつも、黒隕剣を握り魔力で光の剣身を作る。


「先ずお前の場合その剣身が問題だ。魔力が切れれば剣を維持できない」

「そうですね」

「要するに力の入れ方の問題だ。常時剣身を形成していれば、魔力も際限なく漏れていく。一旦剣身を解け」


 そう言われて黒隕剣の剣身を消そうとするが、解けない。


「……よくもそれであの戦いを戦い抜けたな。念じればいい。魔法を使った要領と同じだ」


 俺はその言葉通りに、剣身を仕舞いたいと念じる。

すると黒隕剣の剣身は消える。


「そこから出しては消しを繰り返せ」


 言葉に従って出したり消したりを繰り返す。

ただ出し続けているより疲れがある。


「筋力を鍛えるのと同じだ。慣れてくればその疲れも消える」


 そう言って眼鏡の男は黙って俺が出したり

消したりするのを見守っている。

繰り返していくうちに、最初力を入れていたものが、

段々と力を入れないで出し消しが出来てくる。


「よし、次は剣と剣とがぶつかり合う瞬間に剣身を出せ」


 いきなり眼鏡の男は俺の間合いに飛び込んできて、

剣を振るう。

俺は意識して防ごうとすると、剣身が出る。


「そうだ。死にたくなければ出しては消しを繰り返しつつ、受けてみろ」


 そう言い終わると次々と斬撃を繰り出してくる。

いきなり巧く行くわけは無く、出せずに飛びのくと、

息つく暇も無く間合いを詰めて来くる。

まさに死にたくなければ巧く使うしかない。

 俺は文字通り必死で出しては消しを繰り返す。

最初いきなりだった為、力が入っていたが、

段々と力みを消し、出しては消しが巧く行くようになって来た。


「つあっ!」


 俺は隙を突いて一撃入れてみる。

あっさりと防がれたが


「良いぞ、そうでなくてはな!」


 と悪い顔をしながら微笑む。

怖いわこの人。

先程までは小手調べだと言わんばかりに、

斬撃は激しくなる。

切り傷が増えていく。

それでも致命傷は避けられた。

 あの戦いから少し離れただけで、

気が緩んでいたのかもしれない。

小さく細かく最小限の動きを取りつつ、

出しては消して防ぎ、機を伺う。


「そうだ、お前は数日前までその目をしていたのだぞ!」


 更にスピードを増してくる斬撃。

どこまで上がるんだこのスピードは。

底なしに思えて恐怖する。

 やらなければやられる!

俺は自然と体を前に進める。

深めの切り傷も気にせず、一撃入れるために更に一歩。


「追い詰められれば牙をむく。それで良い。それでこそ生きているというのではないのか人間は!」


 嬉々として俺を斬ろうと眼鏡の男は攻めてくる。

剣撃の雨と言ってもいいくらいの隙の無い攻撃。

だがどこかに隙が生まれるはず。

それは2振りではなく1振りであると言うこと。

切り返すときにこの眼鏡の男でも、一瞬の隙が生まれる。

俺は眼鏡の男の剣撃を少しのクセも見逃さないように、

見つめる。


「はあっ!」


 切り返す動作を見極め、引くと同時に剣身を出し突く。

だが其処には影も形も無かった。

俺は目を丸くして止まってしまう。


「やるじゃないか。今日はこれくらいにしておこうか」


 背後から声が掛かる。

ゾクッとした。

手を抜かれなければ死んでいた。

確実に。


「また会おう」


 そう言って気配は消えた。

暫くして安全だと感じられて、俺は地面に手を着く。

まだ震えている。

前の世界では死ぬことは怖くないと思っていた。

寧ろ早く死にたいとさえ思っていた。

だけど改めて死ぬという瞬間に遭うと、

怖くて恐ろしくて、涙が自然と出てきた。

俺はなんて愚かだったのだろう。

死にたくない。

ただ、ただそう思った。


 月明かりが照らす草原の中で

嗚咽を漏らしながら泣き叫ぶ。

 

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