太陽を模したもの
「良い気迫です。それでこそ倒し甲斐があると言うもの。全力で向かってくると良いでしょう」
槍の切っ先を揺らしつつ、余裕で構えるスルーズ。
「随分と余裕があるようだな」
「当然でしょうこの世界の生物の管理者であるオーディン様の使徒であるこの私が、人間如きに負けるはずが無い」
俺は全身の強張りを解こうと
深呼吸しつつ言葉を噛みしめる。
抗ウイルスワクチンってのはどういう意味なんだ?
生物の管理者であるオーディン。
その使徒で抗ウイルスワクチン。
てことは生物に対して絶対的有利にあるってことか。
その有利って何だ?
「さぁ後ろの連中と共にここで朽ち果てるが良い……!」
どうするか……上の残りのヴァルキュリアへ向けて
相棒たちは放った。ここは拳で行くしかないか。
相棒たちを戻せばヴァルキリーだけじゃなく
ヴァルキュリアたちも加わって、いくらなんでも
後ろが持たなくなる。
「仕方ありませんわね。まぁでも貴方が倒して解放したんですから良いでしょう」
リアンが肩でそう言うので視線を向けると、
リアンは両手を前へ付きだすと炎の塊が現れた。
「何の真似です?」
「何の真似とはこちらのセリフ。戦力が足りないのは分かりますが、アレを無理やり縛り現界させてはいけませんわよ」
「……あれはあそこに置いて来た筈では?」
「この子は良い子ですので。消えた地点に剣を突き差し霊を慰めました。育ちが良かったのが幸いしました。私は一切命じていませんし誘導もしてません。だからこれは強引な干渉ではありません」
「間に合いますか?」
「コウ、手に取りなさい」
その炎の塊が光を放つ。
これは……。
「太陽剣?」
「そうです。これこそが太陽剣の真の姿。彼らの中で唯一天体を司る者は、本来は我々に与する者。恐らくそれを承知で誘導し降ろして従わざるを得なくなったのでしょう」
光が止んで現れたそれは、
真っ赤な剣身の中央に銀の筋が一本縦に入っていて、
その両脇に装飾が施されている。
鍔はシンプル、柄頭に赤い丸い球が付いていた。
「だからどうしました」
スルーズは羽根を羽ばたかせ宙に浮き
槍の間合いまで詰めてきた。
俺は直ぐに太陽剣を手に取り槍の穂先を
斬り払う。
「くぅ……これはっ」
俺は斬り払った後そのまま突っ込む。
というか突っ込まされている。
「腹の下に力を入れなさい! 振り回されますわよ!」
「はあっ!」
スルーズは槍の柄頭で飛び込んできた
俺の米神を打とうとしたが、
太陽剣はそれ目掛けて自分から斬りつけに行く。
そして叩きつけられたスルーズの槍は
その勢いで穂先がこちらに向けて飛んできた。
潜って避け一旦距離を取る。
「おわ!?」
も、突っ込んで行こうとするので
柄を握り引っ張る。
「なんだこれは」
「なんだも何も太陽剣ですが」
「いやいやそうじゃなくて。牛なのこの子」
「まぁ真っ赤ですし基本人の話は聞かないでしょう」
「いやいやいや」
「太陽の方が星より上ですしね。改めて順位付けするならこの銀河においては私達の次に太陽、その次に星、その次に神々」
「あらまぁ」
「その名を冠し模り加護もある剣です。本来神にすら使われる事はありません」
「そうなるとフレイは傀儡だった?」
「いえいえ太陽を模した者ではあります。なのでああも傲慢な物言いに、そして生命力溢れる感じになっていました」
「戯言を!」
「あ」
スルーズが突っ込んでくると、
意気揚々と剣身を躍らせて突っ込んでいく太陽剣さん。
絵なら周りに音符マークが飛んでるように見えて仕方ない。
そんな動きをした後で、あっさりとスルーズの
槍を斬り払う。
「のんびりしてますと腕を持って行かれますわよ!」
「分かってる!」
俺は星力を纏い制御しようと試みたが、
心なしか更に勢いを増した気がするんだが!
「おのれぇ!」
「コントロールなさいコントロール!」
「分かってるって!」
よくカートゥーンでロケットにしがみついてる感じ、あれである。
戦場を駆けまわりながら、俺がスルーズを
追いかけまわしているような形になっている。
これホントに大人しくなるのか!?
「コウ!」
「おっさん!」
「おっちゃん!」
「コウ王」
ファニーに恵理、リムンにエメさんが
俺の手に合わせて柄を握ってくれた。
何とかイキる太陽剣を抑え込んだ。
が、綱引き状態だ。
「今のうちに掌握なさい!」
「どうやって!」
「太陽剣に気と星力を合わせて流し、力を貸してくれるよう念じなさい!」
言われた通りに即やってみる。
だがそれを押し返すように炎を纏う。
頼む静まれ力を貸してくれ、終わったら俺が出来る貢物をするから!
そう念じながら引っ張る。
―らー……―
またらー? らー人気だな。
太陽神くれって事はフレイの本体を倒して来いってことか?
―らーめん……――
……えぇ……そんなので良いの?
「それで良いなら幾らでもくれてやるから頼む!」
引っ張りながら叫ぶと、真っ赤だった剣身は
オレンジ色になり勢いも納まって俺たちは後ろへ
吹っ飛んだ。
「いってぇ……ファニー、恵理、リムン、エメさん大丈夫か!?」
「我は元々固いのでな」
「いったたた……私は尻もちついた」
「私もだのよ」
「問題無いです」
「と、取り合えず目立った怪我は」
「纏めて死ね!」
会話すら出来ない。いや戦場だから当たり前か。
俺は太陽剣を握り突っ込んでくるスルーズを迎え撃つ。




