神の門
「貸し一です!」
槍の先端が俺の腹に突き刺さろうとした
瞬間、先端が何かに当たった。
それを見逃さず直ぐに避けて距離を取る。
「ば、馬鹿な……」
「馬鹿なとは? 本来の神を歪めて捉え利用され利用した村人が、この行為をなじるのですか?」
その綺麗な声は冷たくどこか機械じみていた。
「わ、私は……ただ」
「そう、貴方はただ上に言われるまま生きただけですものね。そこに何の卑しさも企みも無かった。あの日夢で見た崩壊の結末を、如何に良い幕引きにすべきかそれだけの為に奔走した」
グレゴリウスは槍を引き抜かれた後、
お腹を押さえながら屈みこむ。
「啓示に苦しむまでは良かった……唯一失敗だったのは貴方の性格でした。純粋ではあるが後ろ向きで富に憧れを持っていた」
「……おいおいマジかよ」
俺は絶句する。どこかに居るような気はしたが。
「厚遇されて目が眩み、多くの者たちの諫言を捌く事も出来ず、ただ後ろ向きに捉えそれしかないと考え実行してしまった。残念です。ですがこうして最後には役に立てたから良いでしょう?」
背丈は百四十五センチ位。
可愛らしい顔立ちに大きな丸い目。
大きな槍を右手に、左には丸盾を。
青い鎧と腰にはスカート。
黒と白の翼をはためかせている。
俺が最初の頃に出逢った人物が
全く予想しなかった姿で現れ、
聞いた事も無い口調で喋っていた。
「うぅ……」
呻きながら地面に横たわるグレゴリウス。
俺は一応見ていたが気が気じゃない。
何しろマネキンのような表情から、
急ににこやかになって動きまで柔らかくなった。
「お待たせしましたー。こちらの処理は完了しましたのでお話しましょうかー?」
「ふっ」
言い終わらないうちにリアンが吹いた。
声を押し殺し身を震わせて突っ伏し笑ってる。
俺は一ミリも笑えないが。
「あらあらーそんなに面白い事をしたつもりも言ったつもりもありませんけど」
「面白いでしょうに。機械が人の真似事をするとこうも似合わないとは」
「そうでしょうかね? 懺悔を聞いて大分研究した筈ですが」
「一番必要なものが無かったのですわ」
「はーなるほど。確かに妖精如きに理解は出来ないでしょうね」
「だから笑っているのですよ。理解しようともしない癖に懺悔が趣味とかとても機械らしくて」
煽る煽る。そういや魔物討伐と懺悔を聞く事が趣味って
言ってたよな確か。
「お久しぶりです! 私の事は覚えていますか?」
「当然だ。オーディンを信奉していると言うのは間違いなかった訳だ。君が俺と彼との繋ぎかな?」
「そうです。私としてはアイゼンリウトは処理すべきだとお伝えしたのですが、貴方を鍛えこちらに引き入れる為に必要だと言われましてね。事ここに至ればアレが生きているのを見ても、私の忠言が至らなかったと反省しておりますわ」
「昔話なら他所でやりなさいな。自己紹介を私がしてあげても良くてよ?」
そうリアンが言うと、笑顔だった彼女は機械的な
表情に戻る。
「ならば改めて自己紹介を。抗ウイルスワクチン”ヴァルキュリヤ”ウーナ改めスルーズと申しますわ」
「今頃抗ウイルスワクチンのお出ましとは随分と呑気です事」
「やらねばならぬ事が多い身でしてね」
「そのやらねばならぬ事とやらが出来ていれば良いですけどね」
「……どういう意味です?」
相変わらず主人公そっちのけで
アツい火花を散らすリアン。
ウーナは途中まで一緒に戦っていた筈。
それが途中で姿が見えなくなった。
「どういう意味も何もありませんわ。貴方がたがしたと思った事がされていると良いですわねと言ったまでの事」
「おためごかしのミスリードはお止めなさい」
「あらあら御自分の事を言わないで欲しいですわね。コウの危険性をいち早く報告し、尚且つ同行してその運命の力に怯え早々に行動を開始したのにこの有様。随分と腹立たしいのではなくて?」
「ええ、ええ、そうですとも。彼の素質を見抜いていたにも拘らず、こうして生かしたままにしてしまった。これは失態以外の何ものでもない。だからこそ今ここで彼を討つ事こそが、私に与えられた役割を果たす唯一の機会なのです」
「流石ウーナを名乗っただけあって執念深い。執着しただけの成果は得られましたか?」
「ええこのように」
ウーナことスルーズは丸盾を持っていた手を
後ろ後にし回して再度前に出す。
現れたのは丸盾ではなく黄金色の剣。
「それは……」
「ふふふ……これこそ堕天剣ロリーナ。母子剣とでも言いましょうか」
「どういう事だ?」
「この大陸は隔離されているだけであって、外が何も無しにはなってはいないのです。粗方の神々はこちらに戦力を傾けていますが、全てではない」
……ラハム様たちと連絡が取れていない……。
「理解が早いようで何より。ここは平等ですが、あちらは我々のフィールド。生かすも殺すも我々次第」
「落ち着きなさい」
流石に冷静では居られない。
拳を握りかけたが、リアンが俺の頬に手をあてて、
優しく諭してくれた。深呼吸をする。
狙いは勿論俺の冷静さを欠かせ
絶望を抱かせて討つ事。
その思惑に乗っかれば、
今まで俺に協力してくれた人たちの
何もかもが無駄になってしまう。
怒りを押えこんででも立ち向かわなければ。
「俺もお前たちの仲間を屠ってきた。ここでも俺が戦う意思を示した事で、倒れて行った巨人族がいる。仲間たちが倒れたのは俺の失策でもある。何れ俺も死ぬだろうからその時謝罪しよう。だからこそ今更立ち止まる事も怒りに任せる事もしない」




