スカジ本国へ
俺とアーサーたちはスカジ本国への
経路を再確認しつつ、レン達に隊の再編を
任せた。元よりそう多くは連れて行かない。
同行する者たちは気合を入れ直し、
守備に残る者たちは悔しさを押し殺していた。
正直難しいなぁと思う。
巨人族の事を考えて皆を連れて行く訳にはいかない。
俺たちが成功すれば残っていた方が
若干だが生存確率は高い。
だが失敗した場合、同じ滅びるなら最後まで
戦ったという誇りを胸にという思いは
理解できる。何もしないより最後まであがける。
「ちょっと……まさか成功させようか失敗させようかとでも考えてるんじゃありませんわよね?」
話を聞きつつも物思いにふけっていると、
リアンに米神を小突かれた。その時ふとオーディンの事を思い出す。
俺が思うような事はオーディンも思っていただろうし。
永遠の存在として人の歩みの良いも悪いも見て。
「いやいや……いつか人は死ぬものだからなぁとか考えてたんだよ。その足掻きをオーディンは見苦しいと、他の者たちに害を及ぼすのなら最初から居なくても良いと思ったのかなってさ」
「同じ人ですのにね。思い上がりも甚だしい」
「だから我らに来いと言っているのではないかな母上」
「……確かにそういう子でしたわね」
そうこうしているうちにレン達の再編が終わった
という報告が入る。俺とアーサーを残して他の者たちも
準備に移る。リアンはファニーが連れて行った。
「で、どうする?」
「どうするとは?」
「あの中までは連れて行く気は無いのだろう?」
「そっちもそのつもりだろう?」
俺たちは笑いあう。
そう、あそこから先は俺たちのみが入る。
ケリを付けるのは俺たちでしか出来ない。
その先に例の男も居るだろう。
この世界の秘密を知る事になる。
そこにこの世界で生まれたものは居る事は出来ない。
居ても巻き添えになるだけだ。
「騎士たちの能力はどうする?」
「問題無い。私がこの世界とのリンクが切れた瞬間に効力がなくなるし、その分は戻ってくる」
「そうか。何としてでも俺たちでケリを付けなきゃな」
「竜人族たちの種の残し方やそれ以外の者たちの能力設定も、言わば神殺しをさせないシステムになっている。君や私はシステム側の介入だしな」
「アーサーはもう元の世界に未練は無いと言っていたけど、そのーなんていうか」
「ああ私は私の先をちゃんと知っているよ。ただ私も知りたいのだ何故記憶を持ったままここに来たのか。そして君のところのお嬢さんの事もな」
「恵理の事か?」
「ああ。何か母上は言っていたな」
そう言えば帰れなくなるとか何とか。
「何か不思議な気がしてな。やはり色々とケースも違うらしい」
「この世界を作った目的とかここに来た人間の意味とか。やはり疑問に思ったら、そして聞く機会があるのなら聞いてみたい」
「そう疑問に思うのは我らのみだろうし、これを逃せば次は無い。オーディンが私を放置してそのままにしたのも、君を厚遇して居たのもこの世界を居心地良くしてそこに留まらせる為だったんだろうな。まぁ失敗だったのは君に好奇心があった事と、私に出逢わせてしまった事だ」
そう、恐らく俺が別の方向に進んでいたら、
アーサーに出逢わなければ、ここにはいないだろう。
「君にオーディンを何とかする自信は?」
「無いね。だがわくわくしている。王と言う座を離れただ一人、この世界で磨いてきた全てを掛けて誰かの為に戦う。昔憧れたヒーローをやれるんだ」
「確かにな。私も真の姿になって全力で戦えると思うと少し武者ぶるいがする」
アーサーの顔は悪そうな顔をして笑っていた。
それを見て俺も笑う。
「陛下ー!」
暫く空を眺めていると、
下の方から声がした。
「あれも連れて行くのか?」
「ああ。約束したんでね」
「酔狂な事だ」
その声はヘズだった。
ヴァーリと共に兄であるバルドルを馬に乗せて
ここまで連れて来てくれた。
「では行くか!」
「ああ……胸躍る我らのみの絢爛な宴へ出陣と行こう!」
俺とアーサーは互いの愛剣を掲げて
引き抜き打ち合わせる。
鞘に収めて気を引き締め下に降りる。
皆が敬礼して待っていた。
先陣はレンたち上位騎士と選抜された騎士たち。
中腹に俺とアーサー。後ろにファニーとバルドルたち
という布陣で山道をゆく。
「来たぞ!」
声に反応し相棒たちを引き抜く。
崖や下から蟻のようにスカジ兵が沸いて出てきた。
そして矢を放ってくる。
「気を付けろ! 火矢も混じっている!」
「火矢は必ず消すように! 火薬を投げられたらひとたまりも無いぞ!」
俺たちは声を上げつつ斬り払っていく。
「空からも来る!」
空を見上げると鳥の集団が待っていた。
「弓矢隊!」
レンの指示で警戒をし始める弓矢隊。
上に向けて打って外すと下に落ちて味方に被害が出るので、
迂闊に打つ訳にはいかない。
「相手もやるな」
「そうだな。こっちを完封しようとは思ってはいないが、出せるものを出させようとしているのは分かる」
相手としては出来ればこっちの技を一つでも多く
消耗させたい、と考えているのは間違いない。
手堅く崩しにくい手だ。




