スカジ戦その3
オベロンは俺の一撃を四撃打ちこんで弾き返した。
どうやら完全に回復してはいないようだ。
「思ったより動きが悪いようだが」
「ああ。生憎と神の体ではない故な。それとお前がエルフたちを隔離している御蔭もある」
「呼び出したエルフたちが倒されることで元の世界に戻り、この世界で行使した力も元に戻る、と」
「確かに妖精の国は与えられたが、全て私が思う通りにはならない。大きな力にはリスクが伴うものだ」
「神らしくないセリフだな」
「今は人に毛が生えたレベルさ」
オベロンは距離をゆっくりと取る。
動きからも芳しくない事が分かった。
「悪いが回復を待ってやるほど時間が無い。早速で悪いがやらせてもらう」
「そう来るだろうな。だが良い事をしてくれた。お前が母上を脅してくれたおかげで、解放の許可が出た」
「……後ろの山か」
「そうだ。正直なところあの坊主は良くやったし、カイヨウとトウシンも上手くお前の邪魔をしてくれたよ。御蔭で必要なパーツを先に確保する事が出来た」
「……貴方たちってホントゲスい事を平気でしますのね。えげつないっていうレベルじゃありませんわ」
「そうか? 人間だって自らが生きる為に生き物を肥え太らせ食している。それと大差あるまい」
「全隊周りのヴァルキリーとエルフ、そしてスカジ兵をくまなく倒してくれ。俺はここを処理する」
俺の指示を聞いて皆は散開する。
「冷静だな」
「無論。指揮官としてその程度の事で冷静さを欠いたりはしないさ」
「この後ろの山に居るのが誰か、それが分かっても冷静で居られるかな?」
「誰かな?」
何となく予想は付いていた。
前々から探していて未だに見つからない。
フレイヤとフレイの双子並みに結びつきが強い。
向こうの大陸で習得した技の御蔭もあって
永久機関を構築するのにも持ってこいなんだろう。
ただし神々よりは期間は短いだろうが。
それにこの土地は彼らの土地だ。
土地との結び付きもフレイヤとフレイよりも強くなるはず。
「随分と余裕じゃないか」
「余裕でもない。何しろラス・グレゴリウスが出て来ていない」
「あの坊主がそんなに気になるか」
「勿論。ここにはもう彼の嫌いな貴族はいない。神そのものが降りて来ているのだから迷いも何もないだろう。例え世界が滅びるとしても、彼はお前たちに尽くす事を止めない。万全の準備をして俺たちを迎え撃つ手筈をしているだろう。まだ序盤程度だろうから」
そう彼は軍事の天才でもなければ、政略の天才でもない。
ただ純粋で熱心な信者でありその身体能力がずば抜けていて、
人心を魅了する気と奇跡を呼び込む幸運を得ている。
故に恐ろしい。彼が打った一手は定石であったとしても、
そこに幸運の補正を受けて王手に近い一手に化ける可能性がある。
また相手に絶対作戦遂行させる事も可能だろう。
下手をするとオベロンですら気付かないうちに
”させられている”のかもしれない。
「まぁ良い。お喋りは終わりにしよう。この山は我々に有利なフィールドとなる。解放せよ! 取り戻せ! 維持せよ!」
オベロンは剣を掲げ叫ぶと、
後方の山のバリアが割れ元の景色の
一部に戻った。その山の頂上は
緑の輝きを放ち、辺りを照らす。
「リアン大丈夫か?」
「問題ありませんわ。ただしこれで相手の能力が少し上がりました」
「少し程度で済んだら良いがな」
「ここまで力を放出したら、そう長くは持たないだろう?」
「それで十分お前たちを後退させられる」
なるほどそう言う事か。
俺たちを全滅させられなくとも、
後退させればそれだけ時間を稼げる。
その間に何をするかは不明だが、
こっちが有利になる事は無いだろう。
「どうしたもんかな」
「やる事を一つしかありませんわ」
そう、生憎と迷う暇は無いだろう。
元々山に居を構える相手を攻めている。
その上に場も有利にされ一般兵の
能力も上がった。
「吹き飛ばさせてもらう」
「俺を倒さねば出来ぬ相談だがな!」
オベロンの剣を相棒たちで受け止める。
剣を合わせた感じからしても、さっきとは
全く違う。
「コウ!」
「ファニーと恵理とリムンは皆の援護をして後続を寄せ付けないでくれ。俺はその間にここをどうにかする」
「了解!」
皆直ぐに援護に回ってくれた。
正直ここに居ては下手をすると代わりの依り代にされる
可能性もあるので、援護していてくれた方が
安全だと判断しての指示だった。
「相変わらず慎重」
「当然だ。後手後手なんでね。これ以上良いようにやられてたまるか」
「ならば増員して数の暴力をふるわせてもらうとしよう。妖精郷の進軍」
ゲートを開かずに直接召喚されたエルフたち。
俺はエルフたちが状況を把握する前に突撃し次々に倒していく。
「皆の者、突撃せよ!」
オベロンは手をかざして指示したが、
俺は速度を落とさず素早く倒していく。
準備万端で囲んで叩くなら良かっただろうが、
状況を把握できず素早く動き次々仲間が倒されれば
彼らも混乱するだろう。
「全軍今は前へ進め! そして人を倒せ!」
その声に反応し前に進むエルフたち。
俺はそれを追わずにオベロンを急襲する。
「何!?」
「何とはなんだ」
「エルフたちを倒さんのか!?」
「勿論だ。頭のお前を倒せばいい」
「甘く見るな!」
「甘く見ちゃいないさ!」
俺は黒刻剣を地面に突き刺し、
黒隕剣のみでオベロンに斬りかかる。




