スカジ戦その2
視線は当然頭である俺の挙動に集まっている。
大将がうろうろしているだけでも気になって
仕方がないだろう。なんだったら隙あらば討ちたい訳だし。
仕掛けは恐らく関所に俺たちを釘付けにしつつ、
両脇の高台にエルフを配置しヴァルキリーが
前と後ろから襲う算段だと思う。
予め偵察して地形は調べてあるし、
相手はそういう動きをしてくるだろうと思っていた。
なので移動式矢倉を運んできた。
関所の門をぶち破る為に使うのみならず、
そこから更に両脇の崖から上に登り
そこを陣取る為にも使える。
下がりつつロンゴニスノウセスアゼルス隊と
共にリムンを肩車しながら矢倉を駆けあがる。
「いけぇ!」
「いくだのよ!」
案の定崖上の高台にはエルフたちが列をなしており、
俺たちの動きに驚き戸惑っていた。
リムンを下ろして星力を纏うと、
俺は皆を掻きわけ一気に敵陣に斬り込んでいく。
左の高台に俺とロンゴニス隊、
右にはファニーとノウセスアゼルス隊。
下には恵理とエメさんルーテルさんとアゼルス隊。
高台からドンドンエルフを押し戻しつつ、
恵理たちも関所まで到達し完全に掌握すると、
関所の上から高台の俺たちを援護してくれる。
アゼルス隊とロンゴニス隊がスイッチし、
弓兵隊が上空をうろうろしているヴァルキリー隊を
けん制しつつ、両高台を援護した。
「陛下!」
人の波を掻きわけてシンラが俺のところに来る。
「何だ?」
「何か妙です」
「妙なのはずっとだ。この感じだと向こうが危ないのか?」
「可能性は捨てきれません」
「そうなると早々に奥まで辿り着き、何事も無ければ兵を配置してアーサーのところへ行かなくてはな」
「相手もそれを見越しているかと」
「じゃあどうする軍師殿」
「元々我々がここでの目的を果たすのが一番かと」
「同感だ。一気にこの山の上まで行くぞ」
「心得ました。全軍突撃せよ! 異界のエルフ共を送り帰せ!」
シンラの指示で掛け声を上げる各隊長たち。
戸惑うエルフたちを更に押しこんでいく。
「リアン、まだフレイは出てこないのか?」
「……出てこないでしょうね」
「と言うと?」
「オベロンに変わったとはいえ、二重人格のようなもの。冷静に見えたところで気位の高さや貴方に対する怒りや優劣の拒絶など、色々な思いが交錯しているのと回復が上手くいっていない可能性もありますわ」
「前回は接触のみで大した事にはなっていないはずだけど」
「貴方にとっては、ね。神々の中に星力に触れた事のある者はそう居ないでしょう」
「ボディーブローみたいなものだと?」
「それか毒か。その場では大した事は無くても、時間が経つにつれその力の意味がジワリと蝕んでいく」
「蝕むねぇ」
「当たり前でしょう? 巨人族や竜人族、そして貴方たちとは違い、彼らは現界している神。言わば大地から足が離れた者たちなのですから、加護を与える側ではあっても与えられる側ではなかったと言うだけの事」
なるほどねぇ。てことは俺は結構有利だった可能性があるな。
「よそ見してはいけませんわ。相手が見誤っているうちにケリを付けませんと」
「了解した」
俺はドンドンエルフたちを斬り伏せて奥まで進む。
勿論後ろからリムンもアゼルス隊も付いてこれる速度で。
「コウ! 見えたぞ!」
両脇が交わったところの高台から更に上に、
空間の歪みがある。
「辿り着いたっ」
「さてさてでは手筈通りに致しましょう」
俺は頷くと、相棒二振りの切っ先を
スカジ本国へ向ける。
「吹き飛べ!」
星力と気とを合わせた光の渦が
切っ先からスカジ本国へ向け高速で
突き進む。そしてスカジ本国に掛る
雲を消し飛ばしその姿を露わにした。
「マチュピチュのような竹田城のような」
「両方合わせた感じですわね」
俺の相棒たちから放たれた光は、
その脇をかすめて空へと突き刺さり消えた。
「照準もこれで合わせられるな」
「ええ。彼女にこれを防ぐ手は無い。何しろ毛色の違う力ですからね。空間を切り取ったとはいえ、元々はそこにあったもの。無かった事には出来ないのです。一時移動させるくらいが限界。仮にこのまま元に戻さなければ、次元のはざまに閉じ込められ永遠に元には戻れなくなる」
リアンが講義してくれている間に、
アーサー側からも同じような光が放たれる。
「やっぱりアーサーも隠し玉を持っていたか」
「隠し玉と言うか何と言うか……。彼の場合は貴方とは少し違います。引き換えに手に入れた力と言っても過言ではない」
「でも不幸ではないんだろう?」
「彼の気持ち次第ですが、先ほど言っていたような心持なら問題ないでしょう」
「さて今度は直撃と行きますか」
「吹き飛ばしておやりなさい。これで確実に冷や汗の一つは掻かせる事が出来てよ?」
「よぉっしゃ!」
俺は再度星力と気力を相棒たちに通し纏わせる。
照準を合わせ精神を集中させる。
「後ろ!」
直ぐに構えを解き振り返る動作と共に
黒隕剣で斜め上を目掛けて薙いだ。
「ちぃっ!」
俺は声だけでオベロンだと分かり、
更に黒刻剣で追撃を入れる。




