帰還。そして
「あっお宝はっけーん!」
探索は速度が落ちた。
万事この調子で宝箱を見つけては食いつくという、
ブルームの御陰で。
だがブルームのトラップ解除能力が思ったより高く、
宝箱まで辿り着ければ、大抵のトラップは解除してしまった。
ただ、ドジっ子補正という奴なのか、
宝箱まで辿り着くまで牢が降りてきて閉じ込められたり、
剣山の床が現れて串刺しになりそうになったり、
踏んだ場所がスイッチになっていたりと、
基本心臓に悪い。
おっさんにこのドジっ子補正は喜ばしくない。
寿命が縮む。
だけど寿命というなら前回の騒乱で使い切ってそうなものだ。
なので許容範囲というか耐性を付ける為に慣れようと、
ブルームのドジっ子補正に付き合うことにした。
「ありがとうコウ」
何度目かの落とし穴に嵌るブルームを助ける。
しかしこれだけめげないガッツは凄いなと感心した。
俺は微笑みながら、加減しつつ助け起こす。
「コウは」
「ん?」
「コウは私を見捨てようとしないんだね。探索の邪魔にしかなっていないのに」
「ああ、まぁ何というか、慣れてるからな。ブルームみたいなのは」
俺はそう言って後ろで腕を組んでいるファニーとロリーナを見る。
二人とも、あ?と言いたそうな顔をしていたが、
ブルームを助け出すと、宝箱の前に行く。
「どうだ?何かありそうか?」
「うーんトラップが掛かってる感じはしないね」
「この洞窟を先に探索していた人のマッピングしたものとかだと有り難いんだけどな」
「じゃあ開けてみますか」
「よろしく」
俺はそういうと、周囲を警戒する。
ていうか今警戒するのは仲間二人のような気がしてならない。
瘴気に当てられているのか、どんどん眉間に皺が寄っている。
どういうことなの。
「凄いねコウ」
後ろから声が掛かる。
「当たりか?」
「うん。この近くだけだけど。見て」
ブルームが肩越しに俺に見せてくる。
「ホントだ。この近くだけだな。ココから先に行くと」
といいかけたところで、ズボズボと2つ、穴に嵌る仲間。
「……何してんの?」
「早く助けてくれる?」
「そうだ。早く助けよ」
俺は二人の形相を見る限り
このまま嵌らせといたほうが安全な気がした。
そんな訳にも行かず、助ける。
ブルームも手伝おうとするが、二人は全力で拒否する。
何で俺だけ重労働。
そしてファニーには頭をはたかれ、
ロリーナからは鳩尾に一発頭突きを食らう。
何なんだ一体。
俺は腹を抱えながらも先に進む。
「ここから2階か。ファニー、外は暗いかな」
「……」
「もしもーし」
「さぁな。暗いかも知れん」
「そうか。なら一旦街に戻ろう。魔族の系統なら、夜は強いはずだ」
「いーんじゃない」
「うん、私も戻るのに賛成。このまま進んでも危ないし、私も改めて準備したいし」
「貴様明日もついてくるのか!?」
「アンタ明日も来るの!?」
ファニーとロリーナは同時に抗議した。
いやまぁ最初はドジっ子ぶりに危うさを感じたが、
前提として俺が宝箱までの道を確認しておけば、
解錠する技術は流石エルフの器用さだ。
「じゃあ聞くけど、俺たちの中でブルームより器用な人手を挙げて」
「はい!」
「うむ!」
「いや嘘だろ」
俺はファニーとロリーナに即突っ込む。
明らかな嘘だ。
どう考えてもイリア姫より脳筋度が強い二人が
器用なわけが無い。
しかも器用というだけではなく、
宝箱を開ける技術など皆無と言ってもいい。
一体何の競い合いなんだこれは。
「兎に角一旦引き上げよう。これ以上罠に嵌られても助ける自信が無い」
「僕達の所為じゃないじゃんねー?」
「そうだ。主にコウの後ろに居る奴の所為ではないか」
「二人とも一瞬前の出来事は無かったことになってるのか」
「あれ一回きりだもんね」
「そうだそうだ!」
こんな時だけ息ピッタリですねお二人さん。
そう言いたかったが、抑える。
悶着している暇があったら撤退したほうがよさそうだ。
「はい皆行くよー」
「待ってよ!まだ話は」
「そうだ待てコウ」
「ほら二人とも早く早く」
ゴネる二人を置いて、ブルームは俺の後に続く。
ファニーとロリーナは走ってきて俺の両脇を固める。
ていうか宇宙人の連行みたいになってるんだが。
何で重病人やおじいさんみたいに介護されてるみたいに
なってるんだ。
「おい勘弁してくれ。俺は重病人じゃないぞ」
「違う意味で重症だよ君は」
「そうだな間違いない」
何か断定されてるし。
というかこの世界に医者っているのかな。
などと思いながらも俺たちは洞窟を一旦出る。
「あら、どうしたの?コウ」
そりゃそう言うわな。
俺はミレーユさんの言葉に苦笑いで返す。
洞窟から冒険者ギルドまで介護された状態で戻ってきた。
「ミレーユさん、俺重症らしいんだけど、医者っている?」
「イシャ?イシャって何かしら」
「あー、えー、体とか治してくれる人」
「特に頭と心の問題を専門にしている人をたのむよ」
「そうだの。それが一番の問題だ」
いや確かにいい年して無職で引きこもりはそこに問題がある
だろうけど、酷くね?
「うーん教会に行けばある程度の回復はしてくれるけど、その問題は教会に所属するしかないんじゃない?」
「神に祈るの?」
「そうよ。信心深くしていれば、浮かぶ瀬もあれって感じかしらね」
「え!?俺そんなに頑張らないと駄目な感じ!?」
「当然だね」
「うむ」
……ココに来て扱いが酷い。
「ちなみに聞くけど、ここの教会の神父さんは」
「シスターよ」
「却下!」
「無かったことにしておこう」
シスターに何か恨みでもあるのかファニーとロリーナは。
それに早いな答えが。
「でも機会があったら覗いてみるのも良いかもしれないわね」
「……ミレーユさん」
「あらブルーム。貴方コウと一緒だったの?」
今まで大人しくしていたブルームが、後ろから顔を出す。
ミレーユさんも知っているのか。
「何でもブルームの母親にマンドラゴラの根を買う為に、洞窟に居たらしい」
「?」
ミレーユさんは首をかしげる。
まぁそうだろうな。
胡散臭さ満点だったからな。
「……ブルームの母親の病を治すのに、マンドラゴラの根は聞くかもしれないけど、確率はそう高くは無いわよ?というかそれは私が言ったと思うけど」
「でも0じゃないんですよね!」
ブルームは声を荒げる。
母親が病気なのは間違いないらしい。
罪悪感を感じるな。
「0ではないけど、0.5位の確率よ」
「低いな……とんでもない病気なのか?」
「いいえ、難しい問題なのよ。コウもリードルシュさんの件でエルフについて知識が少しあると思うけど」
「ああ、超保守的な種族だよね」
「そう。ブルームの母親は勿論エルフ。そしてエルフの病について知識のあるものがここには居ないのよね。エルフの里で解決できない病を解決する方法があるとすれば」
「未知の素材か……」
「そうね。あの洞窟の奥に何があるかわからないけど、これも現実的な話じゃないって事を承知して聞いて頂戴」
「話半分で」
「有難う。この世界には、どんな病でも治せる薬が幾つか存在するの」
「都合が良いものがあるんだね」
「ただそんなアイテムがタダだったり簡単に手に入るはずがない」
「だろうね」
「一つは世界樹といわれるこの世界の中心に聳え立つ大きな木の葉を煎じて飲ませる方法。もう一つはその朝露。そしてもう一つが、瘴気のある洞窟に清らかな泉が稀にあって其処で汲んだ聖水」
なるほど。
ブルームは聖水を求めて洞窟に来てたのか。
俺は納得した。
しかしそうなると、連れて行かないという選択肢は無いわけだ。
「ファニー、ロリーナ」
俺は二人に言うと、仕方なさそうに頷く。
「母親の為って言われちゃうと流石の僕も何もいえない」
「……致し方ない」
根が二人とも優しいから心配してなかった。
ブルームも心なしか嬉しそうだ。
俺たちは取り合えずミレーユさんに報告をした後、
夕食をとる。
「難しい顔してるわね」
わいわい食べているロリーナやファニー、
そして二人とじゃれるブルームを他所に、
俺は一人難しい顔をしていた。
というか前回の例もある。
冒険者として始めようとすると、必ず何か付いて来る。
少しはじっくり冒険したいんだけどな。
「エルフってそんな難病になるものなの?」
「そうね……貴方の悪い予想が当たっているわ」
「やっぱりね……。それを突き止める方法も無いか」
「人もエルフも変わらないわ。争いの種は常にあるものよ」
「マジか……」
「何にしても先ずはあの洞窟をクリアするのが先になるわね。ブルームの母親は今すぐどうこうっていう話でもないようだし」
「有り難い。その間に剣の腕を磨いておこうかな」
「それが良いわね」
ミレーユさんは食後の俺に、お茶のようなものを
出してくれた。
少し苦味があるものの、喉越しは悪くない。
ほぅ、と一息吐いて天井を見る。
まぁまだ先の話だからゆっくり考えるか。
俺は漠然とした不安を振り払うように
お茶のようなものをすすった。




