アーサーの辿り着いた場所
「いよいよだな」
「よく来てくれた。気が増したように見えるが」
知らせから二日ほどでコウヨウにアーサーたちが
到着した。冗談でもお世辞でもなく、
アーサーはどこか吹っ切れたように顔と
それに合わせるように気も充実して見えた。
「まぁな。お楽しみは最後まで取っておくとしようじゃないか。目に物見せてくれる」
「俺が驚きそうか?」
「無論だ」
自信満々である。
その後俺の後ろに居るファニーに対して手を差し出した。
ファニーは一瞬嫌そうな顔をしたが、
溜息を吐いて手を握った。
「最後まで王によく付き従うのだぞ」
「……お声掛け大変有難く」
「お前の鎖も私たちが解き放つ」
「お心遣い感謝致します」
「宜しくと言っていた。後は頼むとも。向こうに皆居る」
ファニーは目を閉じて手を離すと
ドレスの両端の裾を持ち上げて腰を屈め
一礼して下がる。
「大丈夫なのか?」
「無論だ。私が人間状態でいるのが何よりの証拠」
アーサーは人間に化けていたが、
確か魔族で転生したような気がする。
二つに分かれていた片方を、向こうで倒した。
で、ここで会った時に一つになったと聞いた。
だが改めて思う。
魔族と魔族が合わさって人間になるのか……?
今相対しているアーサーの気に魔族の物は無い……。
「そういえばあの剣は……」
堕天剣ロリーナと聖剣キャロルがアーサーの剣のはず。
「まぁそう細かい事を気にするな。私の能力に疑いがあると言うのなら示してやらない事も無いがな」
アーサーは豪快に声をあげて笑う。
流石にそれでは誤魔化される訳にはいかない。
「なら見せてもらおうか。アーサー王の蘇りし力を」
俺がそう言うとアーサーは優しく微笑む。
「コウ、それは必要なのですか?」
リアンは俺に耳打ちする。
「母上、あまり余計な事を言わないで欲しい。我々の問題は我々のみで解決する」
「……貴方……」
「何の為に私を拾ったのかは最早何の意味も無い問い。あまりにも初期故上手くいかなかったのだろう。オーディンの干渉もあったと思う。だが最早全て何の意味も無いのだ。彼女が最終的にコウの隣に居る事。正しい事はそれだけで良い。他は大したことではないのだ世界にとっては」
「貴方は覗いたのですね」
「その問いにも意味は無い」
アーサーはそう言って剣を腰から引き抜いた。
良く見ればそれは聖剣キャロルでも堕天剣ロリーナでもない。
「我が故郷の伝説にして最古の聖剣。この世界の干渉を受けない管理者より渡された一振り」
その綺麗に装飾された銀のロングソードは、
白い気を纏っている。
「おいおいマジか」
「マジもマジ、大マジだ。私はもう元の世界に少しの未練も無い。この世界の者として役割を果たすのみ。腹は括った。その証でもある」
アーサーは気軽にブンブン振り回しているが、
皆距離を取り始める。
ずっと語り継がれてきた物語の聖剣。
「何と言っていいのかな」
「言わなくて良い。言葉にするのも危なかろう。なぁ母上よ」
意地悪そうにアーサーはリアンを見る。
リアンは怖い気を纏う。
「リアン」
「……孫弟子の癖に生意気ですよ。まぁ良いでしょう。知っていて尚話さないというのであればそれで良い」
「無論だ。私にも責任の一端……の半分位の微妙な感じのものがあろう。それをあ奴に返さねばな。……私も長かったこの域に辿り着くまで。コウはこんな短期間で良いのか?」
「リアン」
何かやりそうな気配がしたので肩に居たリアンを
左手で掴む。
「放しなさい」
「ダメダメ。アーサーが居なかったら勝てないんだから」
「口惜しい……この段でまさか孫弟子の掌とは」
「手の中であろう?」
アーサーの言葉に俺の手の中で暴れるリアン。
「おいおい挑発するなよ」
「すまんすまん。まぁそう言う事だ。ここで会った時に言ったが、君を倒すのは私であるという言葉は何の含みも無い私の決意だ。それは誰かの筋書きではない。最高のシーンでそれを実現する」
「良いだろう受けて立つぞ」
「そう言う事だから悪いがここではやはり剣戟を交えるのは止めておこう。交えてしまうと途中退場させられそうだしなぁ」
はっはっはと笑うアーサー。
リアンが飛び出そうとめっちゃ暴れて痛いんだが。
「おい……」
「すまんすまん。では私は仮屋敷に荷物を置かせてもらおう。いつものところで良いか?」
「ああ自由にやってくれ。必要なものがあれば遠慮なく」
「忝い。では皆の者、素早く片付けて王城へ参るぞ」
アーサーの掛け声に付いてきた騎士たちも付いて行く。
以前と違いこちらを見下すようなものも無い。
寧ろ一人一人騎士然と一礼して通過していく。
エムリスもどこか吹っ切れたように一礼して通り過ぎていく。
「忌々しい……」
「怒ってるように見えるけど嫌な感じじゃないようだね」
「……彼は彼なりの到達点を見つけられた事は、私達にとっては嬉しい知らせです。人類全てを救う事は出来ません。ですが旅立つ前に安寧を得る手助けが出来れば……そうして砕いた心が少しでも実を結んだのならそれは格別です」
「いやぁ最後に行くのが怖いなぁ」
「そうですか?」
「俺の答えに自信があるのか?」
「さぁ……ですが気落ちする様なものではないことは皆の顔を見れば分かります。何よりそこに辿り着かねば何もなさないのです。しっかりしなさい」
「はーい」
おどけて返事をしたのが不味かった。
そして忘れていた。
リアンは俺の手をすっと抜けて俺の鼻を思いっきり蹴りあげた。




