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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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嵐の中で語り合う

「まず始めに”真上に移動”という状態を自分がしていると頭で思い描いてください」

「錯覚みたいなものか」

「本来であれば浮遊するという状態を経験してから、地面以外での移動する練習をしてというのが通常ですがそんな時間はありません。なので無理やりではありますが脳に訴えかけます」

「脳に直接ねぇ……」

「そうです。そういう言い方が今の貴方には理解しやすいでしょう。それ以上の説明を求められても今は出来ません」


 リアンは子供を諭す母親のように言う。


「厳しい事を言いますが、今はそこに悩み入り込むべきではないと思います。貴方の選択として思い悩む道に入っても良いですが、答えは出ません。私が今貴方に説明出来ないのと同じ。きっと答えに辿り着いたと思ったとしても、それは正解ではありません」

「……悪いな気を使わせて。かなりギリギリで言葉を選んでそれでも教えてくれる事には感謝する」

「いいえ。無理にでも貴方がこの道を進むようにとは我々は進めません。その為に貴方には死があるようになったのです。区切りが無ければ無限ループになってしまうから」

「情けみたいなものか」

「貴方であれば無敵で蹂躙し続ける先に在る者の答えを知っているから。……やはり特定の人物を見続けると言うのはあまり推奨されませんね。フリッグと呼んでいる者の気持ちは分かるつもりです。ですから可能であるならば、貴方は貴方として戦い彼女と彼と正面から向き合ってほしいのです」


 リアンは俺に背を向ける。オーディンと向き合い

その先にあるものは何だろう。

オーディンと言う神が居なくなったとしたら……。



「俺が神になるような流れになっているのは何故だろうな」

「……人がそうであるように、誰かが嫌でも上に立ち定め導かなければなりません。皆が皆、自分自身に責任を持たせ自分自身を処罰し相手と平等に交渉し、誰も犯さず寿命まで生きる事は不可能です。動物と言う種である以上逃れられません。完全な弱肉強食にしてしまえば最後に待っているのは共食いです」

「オーディンを蝕んだ毒か」

「永遠の命があると言う事はそれだけ思考を永遠に続ける事が可能になると言う事です。それはやがて最適化を求めて感情を消し去り、機械のようになる。そうなれば答えは実にシンプルです」

「動物は存在する必要が無い」

「正直なところ思考停止こそが寿命を全うするだけなら正解。ですがそれが本当に正しいのかどうか。試練を乗り越え笑いあう。人のその側面を護る為にはどうしたらいいのか。貴方が何もせず苦悩の中に行った場合、オーディンは二度目の世界のリセットを行うでしょう。ただそれはもう世界が耐えられない」


 なるほど……。ラグナロクが起こる前に

その要因となる巨人族を封じ込め生かさず殺さず

したものの、それ以外が原因で世界を一度リセットしたのか。

機械化に繋がる一切を排除して代わりに魔術粒子を。

人間の勢力拡大を食い止める為に制限を付けた上位存在を。

更には制限を個体ずつに設定した生を。


「今その原因を作ったのは俺だな。ある程度はオーディンたちの理想に近かったところなのに」

「そうですね。ですが全てを制御されたとしても、完璧はあり得ません。覚えていますよね? 貴方に具体的に最初に力を与えたのは誰なのか。この大陸での貴方の姿はこれまで消えていった命たちの希望なのかもしれません」


 俺は黙って相棒二振りを抜き放ち

星力を通して浮かび上がる。

雷が空を泳ぐ音が近くなる。


「”吊るされた男”の縄を切ったのは彼女か」

「一度はそうでしょうが、最初は我々でしょう。今はそこまでしかお話しできませんわ」


 太鼓を叩くように俺の頭上で雷が暴れまわる。

俺はその中に突っ込んでいく。


「もう傷は?」

「語る事はもうあるまい。互いの武を持って決着を」

「心得た」


 相棒二振りを構え、雷神も槌を構えたのを見て

一つ息を吐いた瞬間、一気に間合いを詰める。

槌と長い柄と相棒二振りが重なり合い押しあう。

今回は俺も最初から全力だ。相手もそうだろうが、

俺は今回は逃す気は無い。


「覚悟を決めた顔をしている」

「何をしようと相手の手に気付くのが遅すぎたんですよ。まぁなるべくしてなてしまったんだろうけど」

「ルールを逸脱した行為だからな。お前が気付けるはずもない。お前はルールに則ってやってきたのだから。生憎手を抜いてやれないぞ?」

「そうしてください。今はただの一武人として勝敗を決したく」

「無粋な真似をしたな」


 トールさんの力任せの押しに吹っ飛ばされるが、

途中で止まった。


「簡単に押し負けて差し上げて平気ですの?」

「そっちは平気か?」

「私の心配は無用ですよ孫弟子」


 リアンも調子を戻したらしい。

俺の肩へ乗って微笑む。


「いけっ雷よ!」


 トールは槌を天に掲げ叫ぶと、下の雲に雷が走る。


「来ますわよ!」

「分かってる! 甘き罪の暗礁(フィアラル・ガラール)!」


 俺は下の雲へ向けて投擲する。

雲を吹き飛ばし空間を作った。


「まさに彼の有利な場ですわね」


 リアンはやれやれと言うように吐き捨てた。

甘き罪の暗礁(フィアラル・ガラール)は対象が無い場合、

暫くしてから消える。対象がある場合はせん滅して終了。


「今天の時は我にあるぞ?」


 トールはにかっと微笑む。

甘き罪の暗礁(フィアラル・ガラール)で空いた空の穴は

すぐさま黒い雲に覆われて元通りになり、

雷が下から俺に向かって飛んでくる。


「台風の所為か」

「然り。お前は上空から攻撃すれば良いかもしれんが、俺の雷は何もお前だけを攻撃する訳ではないぞ?」

「あらまるで悪党のようですわね」

「ふん。神話などな、見る者から見れば善悪定かならず、さ。だからこそその内容は勧善懲悪にはなっていない。時代が過ぎれば過ぎるほどそうなっていくのは皮肉だな。それともそんな夢を見られるほど裕福になりすぎたせいかな?」

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