気候の変化
会議はそれで終了となった。
現在我が国は人が増え続けており、
動植物の育成にも人が割けている。
女性たちに多くそう言った部分を
担ってもらっていた。
当初二交代作業は男のみに限定していたが、
状況が状況で死んだら何もならないと言われ
体に触らない程度に夜も仕事をしてもらっている。
「随分と温い事をしますのね」
「そうかい? 正直家庭や国や街の空気だったり、子供を守る部分を優先して欲しいだけだけどなぁ」
「最悪に備えた自発的予備行動ですか。本能に促されている感じですわね」
「そうだね。言われてやるよりそっちの方が責任をもってやれるしね。何せ人が自分の命の保証をしてくれるわけじゃないんだから」
「終末論者に関してはどうです?」
「一応対策として、前に居た世界でとある中立国が出してた本を参考にして国民には渡してある」
「……貴方は図書館が御好きでして?」
「……? いいや? 引き籠りだから外に出るのは嫌だったからね。どうして急にそんな事を?」
「いえ、特には」
リアンはそう言って俺が見ている資料に目を落とした。
俺も敢えてそれ以上は聞かず、報告書に目を通す。
食料の備蓄は十分だ。武器防具は足りていない。
これは今中継点の設営に材料などを取られてしまっている。
俺はもう一度在庫と必要数を算出し、
設営部隊と相談の上同じくらいの資材の使用割合に
するよう指示を書き加えた。
リアンはより武具の作成に傾けるべきだと
意見を述べてくれたが、中継点の設営が遅れると
それだけ伸びてしまうし、最低限の武具はある点から
そうしたという。
こんな感じでリアンは感情的ではない意見を述べてくれて
実に有難い。
ガンレッドもファニーも恵理もリムンもエメさんも、
皆其々に部署を任せているので忙しい。
反乱があった事もあり、上の方で人が
足りていないのが現状だ。
そういう観点からも女性陣には街や子供を守る部分を
優先して欲しいんだ、とリアンに言うと頷いていた。
「リアン遅れるなよ?」
「そちらこそ」
俺は基本見えないところでは素早く移動していた。
前に走り回っていた時に、ナルヴィから意見され
なるべく皆に見えるところでは優雅にゆったりと。
見えないところでは働き蜂のように動いている。
特に今はこなした分だけ短縮になる。
また二日に一回は演習に俺も参加している。
というのも向こうも黙って見ている事は無い。
威嚇射撃のようなものをしてくるので、
そのけん制や迎撃に加わっている。
日々を積み上げていく事二週間。
リアンが子供たちに人気が出た事は良い事だ。
本国とホクリョウを行き来しているせいか、
触れ合う機会も多い。
妖精という存在に皆奇異の目を向けていたが、
流石師匠と自分で言うだけあって
孫弟子に迷惑をかけまいと懸命に触れ合ってくれた。
その結果とても人気が出たようで何よりだ。
偶に少しだけ個別行動を取るようになる。
そして夜にはその事あった話を聞きつつ、
書類整理をしていた。
ある程度リアンも溶け込んでいったある日の事。
一緒にコウヨウを歩いていた俺たちは、
ふと風の匂いに足を止める。
そして目を合わせる。
同じだ。お互いに何か察知した。
具体的に何かは分からない。
が、良いものじゃない。
俺たちは急いで本城の一番高い場所まで駆け上がり、
バルコニーから海沿いを見る。
「この匂いこの肌の感じ」
「そういうデータはありましたか?」
「いいや全く。日中と夜の気温差が激しいくらいで特に大きな事は神々以外には……。あ!」
「……火山ですか?」
「……そうだ……昼でも夜でも活火山状態で気温の高いトウシン方面の関係で」
「気候が変わったと見ていいでしょう。本来ここは日本のように四季が目まぐるしく変わるところではありません」
「流石に兵士に生態系をチェックしろとは言えなかった……」
「今更言っても始まらない事です。急いで警報を」
「時間的にはどんなもんだろう」
「女心と秋の空と言いますからね。信じないのが妥当でしょう」
俺は頷いて急ぎ恵理のところへいく。
そしてイシズエやフェメニヤさん、
ユズヲノさんやお爺先生に状況を説明。
各領土にも十分備えるよう警告をだした。
国で物が飛びそうなものはしっかりと固定して回る。
緊急避難所として本城を指定してある。
倉庫の備蓄もチェックし、最悪地下から取れるよう、
幾つものルートを作成してある。
「リアンどう思う?」
「どう思うとは?」
「向こうには雷神が居る。この機を逃す手は無いと思うんだけど」
「そうですね……ですがそこは敢えて否と申し上げておきましょうか。彼が雷そのものであれば確かにその通りです。ですが幾ら権限が多く与えられてもそれは神ではないのです。雷を操れたとしても、自然発生した雷をも操れるとは思えません」
「そうは思うんだけどね。どうもに怖くて」
「雷が苦手なのですか?」
「いいや全然。そういう荒れた天気はテンションが上がるタイプなんだこう見えて」
「特に違和感はありませんわね。でしたら私として奨励は致しませんが、ノコノコ出てくるよう誘き出して叩くのも悪くありませんわね。無くなるなら一つでも多い方が良い」
その目は真剣だった。
俺に魔力を向けているというよりは、
自ら湧き出る好戦的なものを抑えているという感じだ。
「どうやら随分と回復できたようだ。すり抜けの分はもう良いのかい?」
「ええ全く問題なしどころか補充も完璧です」
「人が常時漏らしている生命エネルギーを吸収したとか?」
そういうとリアンは目を丸くした後、
俺の頭の上に乗る。
「なるほどこの頭の中には色々詰まっているようですわね」
「そりゃどうも。まだ背が伸びるのを諦めた訳じゃないんでね、降りてくれると助かるよ」
俺が行った後素早くリアンは目の前に来てニヤニヤした。
俺は目を細めた後、でこぴんをするようにリアンを弾く。
「な、何を無礼な!」
「思うのは人の自由だけどね。あからさまに煽られたら反応してあげるのが情けだと思ってさ」
ここから暫く俺とリアンは
鉛筆で剣撃を交わしあった。
知らせの兵が来るまでは。




