会議の中で
「なんだそれは。人形遊びでも始めるのか?」
仕事がひと段落し、会議の時間になったので
執務室を出た。皆勢揃いしていて視線は俺の右肩に。
俺の肩を指さし言葉を発したファニーは仰け反った。
というか吹っ飛んだ。
えぇ……マジで?
俺鼻もげてないか?
色々怖くなって鼻の辺りを触るが、
一応付いている。問題無い。
「爬虫類の紛い物の癖に生意気ですね貴女。ギミックの分際でここまで遅延させておきながら何という態度の大きい。躾が必要のようですね」
「に、人形が動いてる!?」
リアンはゆっくりと恵理のところまで
腕を組みながら羽ばたきつつ移動した。
「……貴女はまだ居たのですね。忠告してあげましょう。さっさと帰りなさい。でなければ二度と帰れなくなりますよ?」
「気持ち悪っ! どういう原理なのこれ!」
「ふふ、久し振りに遭うのにお忘れとは随分と楽しい旅になったのですね。まぁそれもあと少し。存分に楽しめると良いですね。もっとも私が来たからにはその限りではありませんが」
恵理はリアンと会った事があるんだな……。
だが口振りからしてあまり良い出会いではないんだろう。
「リアン」
俺が窘めるように言うと、
溜息を吐いてこちらへ戻ってくる。
「何やら理解できない嫉妬などを向けているかもしれませんが、このおっさんは私にとって孫弟子のようなもの。貴女達は崇めこそすれ敵意を向けるなど勘違いも甚だしい」
「孫弟子?」
「そうです。私はこの世界の魔術を司る者。バランスが崩れたので態々やって来たのです。感謝なさいな」
俺も初めて聞く話に目を丸くする。
まぁ話からして魔術を司ってもおかしくは無いだろう。
一瞬バランスを立て直しに来たのかと驚いたが、
よくよく考えてみればバランスが崩れた事を認識して来た、
と言っているだけで直しに来たとは言っていない。
「失礼ミス・リアン。貴女は魔術を司るとおっしゃるが、私達に具体的にどのような協力をして頂けるのですか? ひょっとして魔術を行使してくださると?」
ジェルジオ侯の問いに俺も興味があった。
まだリアンの真の目的は分かっていない。
彼女の口振りからして恵理と関係があるようだが……。
「そんな手の内を明かすような真似は出来ません。当面は孫弟子の面倒を見ます。必要な時に必要な事をするという事だけしか言えません」
きっぱりと言い放つ。
それ以上聞くなと言う雰囲気を醸し出している。
「それでは困りますな。敵か味方かもわからず都合良く陛下の周りをうろつかれては」
「随分と強気ですのね。コウ王、貴方の意見は?」
意外にリアンは冷静だ。
まるでジェルジオ侯がそう言うのを予め想定していたかのように。
「孫弟子らしいし一応手伝ってくれるというのでお願いする事にした。信用できるかどうかは行動で示してもらおうと思う」
そう言うと皆渋々ながらも頷いてくれた。
リアンは当然だというように頷いて俺の肩へと戻り
座った。恐らく信用するに値する事をしてくれるのだろう。
会議は現在の新たな陣の設置の進捗状況と
カイヨウやアイロンフォレストの状況を確認するものだった。
「一つよろしいかしら」
一応の報告の読み上げが終ったところで、
リアンから声が上がる。俺はリアンをみて頷く。
「トウシン側が手薄になっているのが気になります。ここを開けておくとここを攻めてこられはしませんか?」
その言葉が終わった後、リアンは俺を見ていたが、
俺はカムイを見る。
「その事ならば問題ありません。トウシン側が手薄である事は承知しておりますが、現在火山活動が沈静化しているとはいえ、活火山である事は変わりありません。そしてスカジの兵士の数や状況からして穴熊を決め込み天然の要塞を盾に交戦すると見ていますので、我々はじわじわ絞りあげていく方針です」
「定石ですのね」
リアンは面白くないとばかりに
鼻で笑って溜息を吐いた。
まぁ盤石である事に越した事は無い。
「孫弟子はどう考えていて?」
どうやら答えに納得が行かないようだ。
「俺の考えとしては、攻める時先ずはスカジ本国に近い座へ登り足場を確保。そこで足場を固める部隊と進攻する部隊に分かれる。出来れば抑えた座から弓兵隊や投擲隊でけん制しつつ締めあげたい」
「あらまぁ……」
俺の答えもいまいちらしい。
ゆっくりと俺の肩から耳に近付いてくる。
「本当は穴熊を誘き出す策を考えているのでしょう? 皆はあれを蜂の巣か藪蛇のようにとらえているようですが」
俺はそれに対して視線を合わせるだけで
何も言わなかった。
まともに交戦したのでは向こうに地の利がある。
オベロンや雷神が居て、更にはフリッグさんもいる。
フレイヤの姿をしているという事は、
若返ったのか本来の姿になったのかどちらかだろう。
更にオベロンが彼女を指していったティターニアという名前。
パッシブスキルとアクティブスキルがどれだけあるのか分からない。
人数が少ないという事はコスト全開で
その少人数に割り振ったと見ていいだろう。
序盤から動かなかった理由がそれだとすれば納得がいく。
ずっとコストを高める行動をしていたから
出てこなかった。
「あら失礼。どうぞ続けてくださいな。何も問題ありませんでしたごめん遊ばせ」
ほほほほほ、と笑うリアン。
どう考えても問題あるようにしか思えない。
俺の眼を見て察したのか納得したようで引き下がった。
余計な事をと思いつつも会議は進む。
進捗に対しては遅すぎず早すぎず。
他国も同様だ。
密偵に地形把握などを任せる為、
その分も時間が掛る。
俺もそれまでに色々やっておきたい事もある。




