真夏の世の夢
オベロンが宣言して直ぐ後、妖精たちは黒い霧のように
群れをなしてこちらへ向かってくる。
「どう対処したら良いかな……」
「それはもうひと思いに」
フレイヤは微笑みながら言う。
まぁ確かにそれしかないよな。
俺は相棒二振りの切っ先を斬りへ向ける。
そして瞬時に星力を通した。
「吹き飛ばせるかね?」
その言葉に俺は微笑みで返す。
正直互いに対応する時間が出来ている状況で
星力を放出しても避けられる可能性が高い。
となると
「鞘に収めるのか。抜刀術かね」
「チート能力を得て早数年。能力にもピントが合ってきたし、鍛えもした。流石に小さいものは初めてだがやらないとこっちがやられるんでね」
「良心の呵責があるとはお優しい」
「アンタほどじゃないさ妖精王」
俺は腰を少し下げて左柄に右手を、右柄に左手を添える。
「どういう事かね?」
「フレイの影に隠れていたのに、ピンチになったら都合良く駆けつけてくれるヒーロー。それがアンタだろう。妖精王というか執事に近い」
「我はこの役割を気に入っているよ。やる事がシンプルで良い」
妖精たちは警戒しつつ鶴翼の陣のように広がって向かってくる。
「考えなくてすむからな。フレイを憐れむ事で自己憐憫に浸れる。それに妖精を捨て駒にしてただやった気になれるんだから尚の事楽で良い。妖精王というより怠惰王とでも名乗るのをお勧めする」
「そんな安い挑発では私には意味が無い」
「皆を下に見て蔑んでいるが、一方で良心の呵責を抱えて何も出来ずにいる。何もしていないのに頼られ、何もしていないのに崇められ、何もしていないのに神の後ろに控える。本当に蔑んでいるのは自分自身ではないのか?」
「戯言は終わったかね」
「ああ。見てくれれば分かる」
俺は柄頭を鞘へ向け軽く押すと、
カチッという音がして剣の収まる。
「……次元刀とでもいうのかね」
「チート能力と日々相棒たちを振るい続けた賜物だ。何十何百と振り続ければそこに無駄は無くなる。能力の御蔭もあってかそう簡単には見えない」
雨が降ったように地面へ霧は吸い込まれていく。
「なるほどこれは強敵。チート能力のみを頼りにしたとあっては並みいる神と大差は無い。地に足を付け、研鑽を積んだ者とこそ我は戦いたかったのだ」
「望み通りに」
俺はそのまま体を前屈みにして
オベロンとの距離を詰める。
「太陽剣の真の力を見せてやろう」
レイピアより太いものの、通常の剣より
細い橙色の剣は白い揺らめきを残像に
俺に襲いかかってくる。
「なるほどこれはやっかい」
恐らくこの白い揺らめきは炎なのだろう。
俺は星力を纏っているので、本物の太陽の炎でもない限り
それが俺を焼く事は無い。
勿論炎に包まれれば息苦しいが。
「ならどうする」
「君がしているような事をするさ」
白い炎は剣から体に移って覆った。
「器用な真似を」
「出来る事は知らなかったさ。長い間生きていてこんな事をする必要にあった事が無いからな」
オベロンは嬉しそうにほほ笑む。
が、俺は全く嬉しくは無い。
一振りの剣速はあちらが上で二振りの
こっちと匹敵している。
「期待させて申し訳ないが、私の剣速はこれ以上上がらん」
「何かのサービスか?」
「いや褒めているのだよ。この太陽の元フレイから召喚し私にスイッチしたのだ。神性を捨てたとはいえ、能力を無くした訳ではない。基本値は私の方が上。その状態の私達にこうも適うなど……。畑の違う相手に挑んだのがティターニアの言うように元々負け戦なのだな」
「降参してくれるのか?」
「まさか」
しゃべりつつ剣撃を俺たちは交わしあっている。
互いに前髪や来ているものが
少し斬れたりしているものの、
致命傷は何一つ無い。
崩しを狙っているが、崩したと思っても
即座に立て直しこちらが崩される。
互いに態勢を立て直して相手より先に
剣撃をと距離を少しだけ離したが、
目と目があって笑う。
「妖精王に偽りなしと言ったところか。残像を残すような華麗で素早い剣捌き。付いて行くのがやっとだ」
「身軽が故にそこは負けられないのさ。太陽剣と昼間で無ければ我が非力は補いようもない」
「……流石だな」
「君には二度無粋な真似をしたな。だが私とて名ばかり名倒れの王と呼ばれては臣下に立つ瀬は無い。君の狙いは私も読んでいるし、それを君も理解して私が答えざるを得ない会話を投げかけた」
「それは買被り過ぎだ」
「いや私はそうは思わない。君に勝った時そう思うとしよう。ではそろそろお暇させてもらおう」
「随分と気前が良い」
「日が傾けば傾くほど不利になる。私の力は強くなるが太陽剣は輝きを失うのさ。生憎情けを掛けられたくは無い」
「……もっと戦力を出せば宜しいのに」
「断る。無限ではないのだよティターニア。我らが真夏の夜の夢よ。やがて夢は醒めて気付くのだ。病んだ者を癒すには付き従うだけではダメなのだと」
「オベロン」
「茶番は止すが良い。彼はそれほど愚かではない。私を看破してみせたのは知識があるが故。お前が何者であるのか彼は知っているよ?」
「……余計な真似を」
フレイヤの声がさっきまでの声から低くなった。




