表裏
やれやれとでかいリアクションを取っているフレイ。
その周りに薄気味悪く笑う妖精であろうものたちが、
蜂の群れの様に集まっている。
よくあんな笑い声を聞いてて正気を保っていられるなぁ。
耳元でやられたらキレるわ。
「ふふ。恐ろしさの余り声も出ないようだな人間の王よ。だがそれで良いそれが正常なのだ。我が妖精郷の進軍を見て正気を保てる相手など、神でも数えるほどだ。お前のような人間が我が前に立ち続けられるなど有り得ない。降参して大人しく死を受け入れるが良い」
自信満々にそう言い放つフレイ。
まぁ確かに精神的に強そうだわな。
俺ならあんなの五分と持つ気がしないもの。
「……終わった?」
「コウ様、御気になさらず存分に叩きのめして下さいまし」
「フレイヤが吸われた分を取り戻す方法は?」
「おぞましいので要りません。それに必要最低限の物さえあればどの者より御役に立てましょうから」
「……もしかしてお前たち私を倒せるとでも思っているのか?」
「じゃあ試運転がてら叩き潰すとしよう」
「バックアップはお任せくださいまし」
俺が黒隕剣を構えて切っ先を向けた途端、
フレイは目を丸くした後デカイ声をあげて笑った。
「愚かな……実に愚かな人間と妹よ。太陽の元勝利の剣である太陽剣を携えた私に、妖精郷の進軍を展開しているこの私に勝つ気でいると? これが笑わずして居られようか」
俺はすぐさま星力を纏い一気に間合いを詰める。
フレイの斬り払いを斬り払いではじき返す。
態勢が崩れたので返す剣で斬りつけたが、
態勢が泳ぎながらも斬り返してきた。
「やるじゃないか」
「くっ。礼儀を知らぬ奴」
「殺しにきた相手に礼儀なんて必要あるかよ」
距離を取って態勢を立て直そうとするフレイを
俺は追い掛けていく。
「太陽の輝きよ!」
橙色の剣身がまばゆい光を発して纏う。
俺はすかさず目を閉じたが、
それでも瞼の裏に映るほどの輝きだった。
だがそれだけだ。別に視界を潰されたところで
フレイの気は消えない。それどころかかえって
見易くなったくらいだ。
「くぅっ! 貴様ら! 何をしているかっ! こいつを引き離せっ!」
フレイは慌てふためきながら俺の後ろへ向けて叫ぶ。
が、反応は無い。
「無駄ですのよお兄様」
「何だと!?」
「いつもの通りですわお兄様。元々が間違っていたのがここに来て決定的になってしまっているのですから勝てるはずもないのです」
「貴様の仕業かフレイヤ!」
「いいえ。私でしたらこんな回りくどい方法はとりません。気付かぬうちに殺して差し上げますわ」
「何だと……?!」
「何だとが多いな。よそ見している場合か?」
俺は気が逸れた瞬間、黒刻剣を
高速で引き抜き太陽剣に対して黒隕剣とクロスするような
剣筋で斬りつける。金属音と空を切る音が空へと向かう。
「拘るから死ぬ事になる」
「くそぉ! 来い妖精ども! 我を護れ!」
背を見せて逃げ出そうとすれば良いものを、
剣を取りに飛び上がろうとするフレイ。
「愚かな」
俺も同時に飛び上がりフレイの鎧を斬りつける。
「ぐあ」
そのままよろめきながらも太陽剣を手に取り
落下していく。
俺は一足早く重力によって落下していたので
星力の密度を濃くして待ち構える。
「舐めるなよ!」
と言いつつ避けて落下したフレイ。
俺は直ぐに間合いを詰める。
「舐めてないから止めを刺すよ」
「くそぉおおおああああ! こうなったら!」
「コウ様、距離を」
俺は直ぐに距離を取る。
フレイの体から強い光が放たれた。
フレイの後ろの場に何か禍々しいものが
現れたのを感じる。
「フレイヤ」
「妖精郷の城門ですわ。恐らくかなりの代償が必要でしょうが、あれを召喚する事によりさらなる増員と、大物が出てきますわ」
「妖精王でも出てくるのかね」
「あら御明察」
「余裕ぶりやがって糞がぁあああ!」
「……お兄様、あまり汚い言葉を使わないでくれます? 双子の私まで疑われてしまいます。ロリコンの上に言葉まで汚いとは魂が穢れ過ぎです」
「全くだよフレイ君。君は相変わらず品性というものを簡単に捨てすぎだ」
扉の奥から妖精の群れと思われる小さな気を従えて、
大きな気を纏った人物が出てきた。
人を小馬鹿にしたような感じでフレイを窘めている。
「自己紹介は必要かね? ミスター」
「こちらこそ自己紹介が必要ですか? キングオベロン」
「ふふ。無粋な真似をしたようだね。どうやら君は理解しているようだ」
「茶番はお終いと言う事くらいしぁ」
「そうだね。無礼のお詫びに全力でお相手しよう」
目を開けるとそこに居たのは、ファーが多くついた白いマントに
ベルトが所々に付いている白を基調とした皮ジャンに皮のズボン、
ヒールの高そうなブーツを履いて立っていた。
妖精王として戯曲にも登場するオベロン。
彼はフレイよりも妖精王として広く知られていた。
妖精王としてはフレイが古いものの、
浸透しているのはフレイよりも上になる。
「神性を捨ててより攻撃に特化したバージョンに変化したってことか」
「より妖精王として人に身近な形態と言った方が良いでしょう。故にこの世界で力を振るうのに枷が少ないのです」
「申し訳ないが、私の兵隊を返してもらうよ? 夏の夜の雫」
オベロンが掌をこちらに向けると、小さな黒い雫が辺りに浮遊し
こちらに向かってくる。フレイヤに腕を引かれて後退したが、
フレイヤのところに居たフレイの出した妖精に当たると、
皆彼の元へと戻って行った。
「これでブリーシンガメンはもう私の兵隊には効かない。真の妖精郷の進軍をお見せしよう」




