スカジ攻略へ向けて
その後は俺の帰還と健在をアピールするのも兼ねて、
リムンとエメさんガンレッドに服を買うなど
不在の間の労を労うべく街に繰り出した。
公務に関しては戦場においても常時堪らないよう
処理はし続けている。少しの間うろつくのは
問題無い。全てを見きれている訳ではないが、
それでもランダムに見つつ、全く見ていないような
事が無いようにはしていた。
翌日使者からの報告が来て、三日以内に
コウヨウに来るという事になった。
こちらではルーテルさんが残ってスカジの
地図作成に全力を注いでくれていた。
ルーテルさんは秘書官なので、
戦場には出ない。が、その間に兵士の入れ替えや
食事の支度、本拠地の防御をになっている。
そして更にその間に諜報部を動かし、
スカジの地形や町なども調べ上げていたやり手だ。
有難い事に俺の出会う女性は皆やり手で、
ここに来る前の俺の見方を見透かしているようだった。
母親がそうだったからかもしれないが、
感情の起伏が激しく自らの知識知恵に強い拘りを
持っていて、譲らないイメージしかなかった。
「まぁ性別も人種も関係なくその人の人柄だけがすべてだよな」
俺はスカジの地図を見ながら呟く。
コウヨウも元々のコウヨウ民以外にも他から多く
集まっている。
現金な事にコウヨウが一人勝ちモードになると
皆迎合していった。組合もいつしかなくなり、
コウヨウ国民として皆何か起これば自らを律している。
ヴァーリが来た事によって差別なく細かく
生き届いた法になった。
「人が先で国が出来、舵取りが舵を切って国が育ちます。その舵取りの性質が反映されたのかと」
「俺の性質ねぇ……」
「陛下もお気付きでありましょうが、元々コウヨウの民はこんなにも忙しく懸命に働く民ではなく、また移民たちにも厳しい目が向けれておりました。これはトウシンのやり方やカイヨウの生き方などもあっての事ですが。ですが陛下の自国民以外に自制を求め出来なければ処罰するという明確な態度を示された事と、各将各兵士の律した生き様によりコウヨウという新しい国の民として、皆が生まれ変わったと私は思っています」
「そうか。イシズエがそう言うならそうなんだろう。客観的に見れる今のイシズエなら、俺の次の王様にもなれるんじゃないか?」
「御冗談を。今度こそは私めも参戦させて頂きたく思っております」
「別に死にに行く訳じゃない。それと王とは関係ないだろう」
「その言い方ですとまた私はここに置いて行かれるのかと」
「ここを死守するのも立派な仕事だよ」
「それはそうではありますが。私がこの戦いの先生き残ったとして、戦に碌に参加せぬのでは孫やひ孫に何と言って良いやら」
「生き残った、ではなく、生き抜いた、って事実が大事なのは分かるが。問題は後継でもある。育成は順調か?」
「はい。ナルヴィ殿とも話、育成を進めております。誰か一人ではなく幅広く」
「何れは議決機関の機関員を国民投票で選んでその決定に従い事を進めていくことになるだろう。更にその上の代表者も。それにはなにより下が育たなくては」
「心得ております」
使者の報告を聞いた後、
会議の前にイシズエと話しながら
決裁処理をしていた。
知識は勿論のこと知恵を育み、
知的水準を小さい子たちから順に押し上げている。
高齢の人も中間世代も今は体を動かす事のみならず、
知恵を磨く事もしている。
その為物事が段々スリムにスマートになって来ていた。
最もそれは荒廃していたところから、なので
他の大陸と比べるとまだまだだと思う。
「陛下、そろそろお時間です」
「ああ、何とか今日の分はそれなりに消化できた。各部署に回しておいてくれ」
「はっ」
イシズエと一緒に書類の山を一旦別の
テーブルに置いた後、イシズエは
王の間の扉を開ける。
ナルヴィを始め重臣たちが続々と入ってきた。
そして一番最後にルーテルさんが入ってくる。
アーサーたちの到着までの間に、
ルーテルさんが作成してくれた地図を見て
対策を練ろうとしている。
ここでは兵糧や馬の数に武器の数、
補給路や陣を敷くところ、
占領後の派遣や相図についてなどを
重臣たちと詰めていく。
ジグムたちは占領後の管理人材に関して
意見を述べ、またライナなどは占領した街の
人権の部分を、ヴァーリは兵士の法と罰則を等など。
ある程度の指針が固まれば、次は戦術局に回す。
そこで幾つかのパターンを作成させ、
各将は頭に入れてもらい、各長に落とし込み徹底してもらう。
「しかし何度見ても厄介だな……」
地図を見ればスカジの四分の二が山。
天然の要塞が大地と海の間に存在していた。
この山の上に首都がある。
スカジ兵の肉体の強靭さはここから来ているんだろう。
俺たちから見れば奇襲でも、
彼らにとっては日常訓練で行われている事も
当然あるだろうという感じだ。
ただ一点有利かもしれないと思うのは、
そのスカジ兵は減っているという事だ。
今はメインがヴァルキリー。
ただし彼女たちは空を飛べる。
下から攻め上がる俺たちには不利な場になっていた。
「迂闊に勢いのみで行かなかったのは正解だな」
「はい。私はもしそうであれば陛下を御止するつもりで残っておりました」
「それはすまない。簡単に考えすぎていたようだな……」
「いえ、スカジはこの大地においても特に特殊なところです。何しろ閉鎖的な国でもありましたので、外に情報が漏れる事はあまりありませんでしたし、持久戦に長けている部分もありました」
「なるほど。だから戦を仕掛けても余裕があったのか」
「はい。陛下の力による復興以前は四人の王が争っておりました。スカジは基本防衛を優先して行い自給自足。隙を突いて領土や食料、人を奪いに下へ降りるという、要するに漁夫の利を狙った戦法が多かったのです」




