翌朝の一コマ
一夜明けて翌日。
久しぶりにベッドでぎゅうぎゅうずめで寝たが、
正直熟睡した気にはなれなかった。
個人的にな迷いもある。
勝った時は間を置かず勢いそのままに一気に攻めたい。
そう考えていたが、相手の手札を見た訳ではない。
何しろ魔法を使うというアドバンテージをもっている以上、
それを切られて総崩れとなれば、
逆に意気消沈してしまう。
心は熱く頭はクール。
理想ではあるが現実はこんな感じである。
逸る気持ちを上手くコントロールできない。
「俺も勝って調子に乗ってるんだろうなぁ……」
一人ベッドを抜け出し畜産局に顔を出して
視察した後、中庭で鍛錬に励んだ後で呟く。
心なしか打ち込みも荒い。地面に窪みが何時もより
広く出来ている。震脚に要らない力が入りすぎていた。
この戦いはフリッグさんの負けをもって終了だ。
所謂ライフゼロに持っていく為には、
向こうの勝ち筋とフィニッシャーを
潰す必要がある。
アーサーの御蔭で生贄から召喚した
効果の高い札は大分殺いでいる。
正直俺の勝手な予想だが、
墓地送りにした事で累積効果が発生するか、
フリッグさんたちが全滅した事で
オーディンの出現の条件となり、
その効果で全復活なんてのも考えられる。
或いは両方かも。
「反則だよなぁ……」
現環境最弱デッキである我々は
如何に戦うべきか。
「陛下早いな」
「陛下、おはようございます」
「うぎぎぎぎ」
なんか人語以外が混じっているが、
背後から声を掛けられたので振り向くと
ヘズヴァーリバルドルの三兄弟が居た。
「どうしたこんな朝早くから」
「陛下のお言いつけ通り、朝から兄を絞ろうかと」
「陛下とお話ししたように、やはり心のぜい肉を落とさせませんとまた良からぬ事をしそうなので」
ヘズとヴァーリは同時に同じことを話した。
勿論慇懃無礼な方がヘズである。
「で、どうやって絞ってぜい肉を落とさせようと?」
「そこで陛下の御知恵をお貸しいただけないかと」
「我々は今までの恨み辛みを晴らせと言われれば幾通りも案はございますが、生かしたままというのは難しく」
さらりと恐ろしい事をいうヘズ。
そして二人に引きずられながら、
何故か眠そうな顔でへらへらと笑うバルドル。
イラッとするな。こういうのは女性にウケるんだろうか。
「そうだな。こいつ泳げる?」
「いいえ」
「……なるほど。兄者を海に突き落とし、生死を彷徨いそうになったら引き上げるを繰り返す訳ですね」
「陛下良い考えだ。コイツの嘘を見抜くのも難しい。必然的にギリアウト位を狙うしかなくなる。生憎死なないから良いだろうが」
「それ拷問!」
「こんなものが拷問などと手緩い。何しろ泳げるようになれば救われるのです。こんな楽な事は無い」
「全くだ」
言い切るヘズヴァーリ兄弟。
拷問厨怖い……。
「ルールについては再考した方が良い気もするが、相も変わらず反省もしてない感じなので推奨はしないが口ははさまない。ただ泳ぐのは全身運動になるから効果が高い。これは間違いない」
「陛下は泳ぎは?」
「うん……何故だか分からないが、水の中でも苦しくない。ので楽に泳げる」
「それは便利ですな。常時水の中でも地上と変わらずにいられるとは」
「全くだな。不思議と凄くお腹が減って食べたいという気にもならないし、眠るのも寝ないと倒れるからと考えて寝てる感じだ」
「なるほど……道理で我々が陛下に与するのを良しとする訳だ」
「何がだヘズ」
「ヴァーリ兄さん考えてもみてよ。コレはいざ知らず、僕たちは陛下と似てるところがあるね」
「……そう言われれば確かに。俺たちも腹が減って食べたいとも思わない。寝るのも昼間が俺たちの能力を発揮するのに良いから寝てるにすぎない」
「いや神様と同じではないでしょ。俺が不敬過ぎる」
「日本と言う国では八百万神というのが概念としてあるとか。そう考えますと、日々の生活の中で全てを疎かにせず貶めず誰の中にも神が居て、神に大きいも小さいも無いという考えだとするならば、不敬という言葉は当てはまらないかと」
「俺たちは残念だが過程が無い。神であったという結果のみしかない。そういう意味では父上や陛下は羨ましい。どうして畏れ敬われたのかが誰かによって過程が残っているのだから」
「そう言われるとなんか俺が化け物じみてきたな」
「戦績を見ればまるで小説かお伽噺の様ですな」
「……お前ら何話してんか訳が分からん。少し静かにしろ眠い」
バルドルは地面に寝転がりながら寝ぼけた声でそう言うと、
屁をこいて俺たちに背を向けた。
どうやったらこんな有様になるのか……。
「……陛下失礼を。この大地においては神も何もありません。為すべき事を為すだけというのは楽でいい」
「俺たちの目下のやる事はこの体も心も肥えた奴を一から叩きなおすことだ。が、何かあったら即呼んでほしい。陛下に付き従うと誓った身だ」
「ありがとう、無理はしないようにな」
ヘズヴァーリに引きずられていくバルドル。
肉が厚い所為なのか眠気が勝っているのか
寝ながら地獄へと出発した。
正直神様は畏れ多いしお断りする。
銅像とかそういうものの一切を禁止しよう。
後は紙幣もいい加減別のデザインに変えないと。
「陛下」
「ナルヴィ、急ぎ連絡を。アーサーとジェルジオ侯に会議の都合が良い日を伝えてほしいと。直ぐで良いならそのまま来てもらって構わないとも伝えてくれ」
「動きますか」
「ああ。なんだかある程度は何とかなるような気がしてな」
「確かに。嵩に掛って責め立てるのであれば窮鼠猫を噛む場合もありますが、陛下であれば慎重に慎重を重ねておられます。何より今回も少しだけ間が空いておりますから、虚を突くには宜しいかと」
「ただし慌てず騒がずだ。こっちが虚を突かれても困る」
「心得ました」
ナルヴィは一礼して去っていく。
俺が神という訳ではなく、ここではオーディンの敷いたルールで
魔力は無くまた神はそのままでは現界出来ない、
要するに土俵は同じなのだ。
であれば対等であるし、ルールを犯したペナルティはあちらにあるはずだ。




