アイゼンリウト騒乱編エピローグ
「おめでとうコウ」
その声に目を覚ます。
目の前には例の絶世の美女が居た。
「ありがとうございます」
「見事打倒したわね。貴方の働きに私達は感謝しています」
「いえ、自分がしたくてした事ですから……」
「それでもよ。私達の予想を超えた敵が現れて、貴方はそれを倒す事に成功した」
「あの人は?」
絶世の美女は難しい顔をしている。
俺もそれを見て苦笑いする。
取り合えず俺には幸せを祈る他無い。
「で、今回の貴方への報酬なんだけど」
「え、良いですよ別に」
「そうはいかないわ」
絶世の美女は真剣な顔で俺を見る。
「どうする?元の世界へ戻る?それとも……」
聞かれると思った。
だが答えは決まっていた。
「あの世界に、皆と共にもう少し居たいと思います。まだ何もしてないし」
「そう、それならそのようにしましょう」
「ありがとうございます」
「いいえ、元々私達が貴方を呼んだのだから当然よ。それからご褒美だけど」
「いや、それは」
「私達からはその内に。後別の人からご褒美があるわ」
「まさか」
「そう。あの眼鏡からよ」
「何か嫌な予感がするんですが」
「勘が良いわね。死なない事を祈っているわ」
「え!?」
話が終わる前に俺はまた意識が薄れて行く。
絶世の美女は笑顔で俺に手を振る。
凄い嫌な予感がする。
俺はそのまま意識を失う。
俺が目を開けると、そこは見知らぬ豪華な天井だった。
上半身を起こすと、立派なベッドに寝かせられていた。
そして窓を見ると夜になっている。
体を触ると、鎧は脱がされており、
ベッドから出ると、机の上に置かれていた。
それを俺は手早くつけようとするが、手間取る。
リードルシュさんに付けてもらったので、
付け方がイマイチ解らない。
だけど何とか時間を賭けて付け終わると、
傍にあった黒隕剣を手に取り、
こっそりと部屋を出る。
どうやら城の中らしい。
静まり返っているが、嫌な感じはしない。
俺は静かに歩き始める。
そして姫の部屋があった所を通り、
広間に出る。
そこには大きな月が昇っていた。
この世界にも月があるのか。
美しいなぁ。
そう思い一つ大きく息を吐くと、また歩き出す。
広間を下り、城の入口まで行くと
そこは戦いの跡があった。
昨日の事なのか、それとももっと過ぎているのか
解らない。
俺は気を付けて歩きながら城を出る。
「何処へ行くのだ?」
聞きなれた声が後ろから掛かる。
振り返るとそこにはファニーが居た。
「おはよう」
俺の返事にファニーはずっこける。
まぁ間の抜けた答えだから仕方ない。
「挨拶をして行かないのか?」
「行かないよ。挨拶すれば、別れが辛くなる」
「そうか。ここに居れば英雄として不自由なく暮らせるが」
「そんなものは必要ない。元々俺は冒険者として過ごす予定だし」
「覚えていたのか」
「勿論。路銀をこれから貯めないとな」
「後リードルシュの鎧代もな」
俺はそれを聞いて頭を掻く。
そうだった。それも稼がないと。
「しかし我を置いて行くとは酷い奴だ」
「ファニーなら俺の行く先は解ると思ってさ」
「いま思いついただろう」
「ああ」
そういうと俺とファニーは笑いあう。
「ようやく終わったな」
「ああ、ファニーと笑いあってそれを実感した」
「ならば行くとしよう」
「俺達の始まりの街へ帰ろう」
ファニーが俺の横に来るのを待って歩き出す。
「あの国はどうなるのかな」
「姫が居れば立て直せるだろう。まぁまた危機になったら駆け付けるさ」
「そうだな」
「俺はこの国から悪意を除いたけど、救ってはいない。救うのは姫だし、導くのも姫だ」
「うむ」
「ダンディスさんもリードルシュさんも残るだろうし、あの姉も居るから平気だろう」
「ああ」
ファニーと話しながら、荒れた城下町を歩く。
そこでは夜にも関わらず、復興をしている人たちがいた。
皆懸命に仕事をしているから、通る俺達を気にも留めない。
それでいい。
祭り上げられるのも、崇められるのも好きじゃない。
城門に辿り着き、外へ出るとそこには意外な光景が広がっていた。
兵隊が群れを成していた。
この混乱に乗じて国を乗っ取りに来たのか。
俺は黒隕剣に手を掛ける。
「アンタ達、俺は魔族を倒した男だ。ここから先へは一歩たりとも進ませない」
俺は黒隕剣を構え、そう啖呵を切る。
その言葉を聞くと、全ての兵隊が膝をつき頭を下げた。
「コウ殿、この度は我が国を救って頂き、何とお礼を申し上げて良いか解りません」
一際立派な鎧を着た者が俺の前に来て頭を深々と下げた。
「アンタは?」
「私は王子とは別部隊で動いていた将軍です。貴方がお休みの間に、周辺国からの襲撃を抑え、今戻った次第です」
「そうか、良かった……復興頑張ってくれ。姫の為に、民の為に」
「それは身命に誓って。ですが、コウ殿。どうか残って我らを率いては下さりませぬか」
「それは俺の仕事じゃない。姫が居る。姫に忠を身命を賭してくれ」
「勿論そのつもりです。ですが、周辺国の動向を思えば、貴方のような強力な抑止力があると無いとでは」
「解るが、それじゃあ王や宰相が居たのと変わらない。これからこの国は、変わらなければならない。それは他人の力じゃなく、この国の人間が自ら行わなければならない事だ」
「……解りました。私達が姫を支え、国を蘇らせます」
「ああ、頼むよ」
「ですが、我々は諦めません。英雄たる貴方をいつの日かこの国に迎えたい」
「頑張ってくれ」
俺は頭を上げない兵達の横を過ぎて行く。
ある程度離れて振り返っても、その姿勢を崩さない。
これはマジか。
俺も随分と買われたものだ。
ただ、仲間の為に戦っただけなのに。
「コウ、王様になりたくはないか」
ファニーが俺に問う。
「王様か……想像もつかない。でももし王様になるとしたら」
「したら?」
「うん、仲間達と共に国を築きたい。俺の心を許せる人達と共に」
「良い夢だな」
「ああ、でも先ずは路銀を稼いで世界を回ってみたい。この世界はまだまだ色々な不思議が待っている気がするから」
「そうだな、行こう。我はいつまでもコウと共にある」
「ありがとう」
こうして、アイゼンリウトの騒乱は幕を閉じる。
俺は一人の冒険者へと戻る道を選んだ。
王様なんてものになる気はないが、
いつかそんな日が来るのか。
それとも元の世界へ戻るのか。
それはまだ何も解らない。
ただ決まっているのは冒険者として稼ぐ事だけだった。




