勝利と大地の影
カトルがトウシン陥落の報を聞いて
俺が来ると考えて配置していたようだ。
そのまま連れだってホクリョウへ向かう。
生憎と俺のシライシはタフで足も速い。
先導している馬が遅いとストレスを感じてしまう。
ホクリョウへ向かいながら景色を眺める。
何とかデッドラインを超えずに、
ホクリョウで押し止められたようだ。
前線とは違いのどかな雰囲気が流れる。
「陛下、お待ち申しあげておりました」
ホクリョウまで一キロ位のところで
連れだっていた兵士は先行した。
大分前からなのかカトル達が入り口で
待ち構えていた。
「ロキはどうした?」
握手をしつつ周りを見回すが、
何か様子が変だった。
戦闘をもう大分前に終えているような
感じさえする。
そんな報告は受けていない。
「それが……」
カトルはいきなり傅く。
そして肩を振るわせた。
「ロキに何かあったか?」
「はい……ロキ様は敵将テュールと一騎打ちの末……」
「どういう状況だ。あの軍神が一騎打ちにのこのこ出たりはしないだろう?」
「ロキ様は大分前から対スカジ用の罠を仕掛けておられました。それにより隙を一気に我々が突き、更にジェルジオ侯、アーサー王の指揮により壊滅まで追い込むことに成功。その後ロキ様から一騎打ちの申し出をされ……」
「そうか……」
実際に見ていないにせよ、ロキの覚悟とケジメを感じた。
罠の存在はスカジへの諜報活動をしていた時に、
している事は聞いていたので驚きはしなかった。
それもあってロキを置いてきたのもある。
よもやテュールに後れを取らないだろうと。
なので本当にそんなあっさり逝くほどお行儀が
良いとは思えない。軍神と自分の息子二つの命。
そして仕掛けた罠。
「まぁ間違いないだろうな」
「は……?」
「いや独り言だ。それよりロキの国葬をしたいと思う」
「遺体はありません。テュールも同様に。互いの技がぶつかり合い、まさしく消滅したように消え去りました」
「そうか……ならば統一後に国葬を戦った者たちと共にし、記念碑と銅像を作ろう。我が国への貢献度を思えば裏方としてよくやってくれた。ロキの努力を無駄にしない為、スカジへ攻め込もう。会議を開きたいので準備をしてくれ」
「はっ!」
カトルは素早くホクリョウの中へ部下たちと共に消える。
俺はそのまま連れてきたファニーと恵理、
ヘズとヴァーリにバルドルと入城して
執務室で決裁と報告を処理した。
「あまりにも芝居がかりすぎてなぁ……」
書類を眺めながら呟く。
正直損害も死者ももっと多かったはずだ。
その損失は三割に抑えられている。
復帰したばかりのカイヨウ兵や、
スカジ離脱兵に多い部分は想定内だ。
ロキは上手く罠を作動させ
ヴァルキリーたちの一瞬の隙を作りだした。
魔法ではなく地道な作業の賜物と言っていい。
崩れやすくした丘の近くに戦線を張り、
更に地面も柔らかくしたり、沼地の様にしていた
場所に引きずり込んだ。
更に紐を斬ると一斉に矢が飛ぶようにした
仕掛けを別の丘に予めしておき、それを作動させる。
混乱に次ぐ混乱を招かせた。
テュールにとって一番痛かったであろう事は、
ロキは勿論のこと、アーサーの聖剣そしてジェルジオ侯の
機敏な指揮の三つを相手にしなければならず、
手前味噌っぽいがカイヨウにはこの大地一の槍使いもいる。
ヘルモーズと言えど苦戦を強いられた事だろう。
元神の名前も幾つか見受けられたが、
聖剣の餌食になったようだ。
「よう、何か言っておく事はあるか?」
ふと視線を外に向けると、
執務室の窓の外に一羽のカラスが居た。
この大地では賢鳥として崇められており、
食用としては使われる事無く
最近数が増えてきた。
日本にいたカラスとは少し違い、
粗暴さは無く肉より草木を食している。
そのカラスは俺をじっと見ていたが、
特に何も起こらない。
「そうか。まぁ約束もあるし楽しみにしておく」
俺がそう呟くと、カラスは高い鳴き声を
あげ、三本足で足場を蹴って飛び立って行った。
「三本……?」
慌てて窓に近寄ってみたが、
もう遠い空へと消え去った後だった。
俺は溜息を吐いた後、書類の処理に戻る。
暫くして執務室に首都より駆けつけた
ナルヴィと共に互いの報告をしあう。
ロキの死については特に何もないようだ。
ナルヴィも俺と同じことを思っているようで、
常に警戒を怠らない方が良いでしょうなという
意見で一致してそれ以上語らなかった。
ナルヴィが去って次の日、
イシズエがやってきて報告をしあう。
ロキの死に暫く呆然としたものの、
戦い抜く事が報いる事になりましょう、
と気合を入れなおしたようだった。
そして宰相たちからの提案で一旦俺は帰国し、
国民に戦勝の報告とロキの死を伝え
発破をかける事になった。
ジェルジオ侯とアーサーとも直ぐに連絡が取れ、
二人とも国民に説明の後、ホクリョウで会議を
行う事の了承を得た。
ホクリョウ到着から三日後、
粗方作業の目処がついたので俺はトウシンから
連れ立ってきた五人と帰国する。
コウヨウに付いた時、大変な熱狂の渦に驚いたものの、
ファニーと恵理に促されて手を上げたり
笑顔で勝鬨を上げたりと答えて見せた。
「いやぁ凄いなぁ。浦島気分だわ」
「国民はいつここが戦場になるか落ち着かない気持ちでここ数日居りましたし、何より陛下があのトウシンをお一人で落としたとなれば我が国は盛り上がらざるを得ません!」
「落ち着けイシズエ。ですが喜ぶ国民はより一層陛下に忠を尽くします。この後の最終決戦に向け、頼もしい事であるのは間違いありません」
二人とも久しぶりに俺とゆっくり仕事を
する時間が出来たのもあってか
改めて国民の様子と戦況などを確認して興奮していたが、
俺はそれを咎めなかった。
何しろ置いてけぼりにした訳だし、
ひょっとするとこれは不満を自己解消する為に、
やっているのかもしれないのでそっとしておく。




