光の矢と星の力
狙いは俺……に見せかけたバルドル。
悲しい事に攻撃は全て俺の下で頭を抱えている
小太りのおっさんに向かっていた。
俺は街に入る前、シライシからスットゥングの泡槍を
受け取っていたので、相棒二振りを空に放ち
泡槍で相棒たちを潜り抜けた光の矢を弾き飛ばす。
「ひぃぃぃいいい」
自らの技が自分に止めを刺すものになるとは。
まぁ出会った時にそれは分かっていた事だ。
こいつもそれを知っていたはずなのに。
そこまで母の愛に縋りたい、縋るしかないのは
哀愁を感じざるを得ない。
「おいびびるのは良いが、動き回るなよ? 動いたら命の保証はしない。俺も考えつつ捌いている。足の一つや二つは覚悟してくれよ?」
「いやぁああああ!」
顔から水ものが出る全てから垂れ流しつつ、
膝をついたまま叫ぶバルドル。
「よう、そんなにママは大事か?」
「なにがぁああ」
「気になったんだ。ああまでしてママの為に頑張ったのに、こんな仕打ちを受けてもまだ拘るのかなと思ってな」
「僕は主神の息子だぞ! その為に頑張ってきたんだ! ママは褒めてくれる!」
「褒め殺してくれるようだ。なんなら飛び込んでいけ」
「こんなの嘘だ! 夢に違いない!」
「それはお前に生贄にされた連中のセリフだ。まぁ夢だと思うなら飛び込め。止めはしないから」
俺は本命ではないものを一つ弾かず通す。
「ぎゃっ」
バルドルの尻に刺さったそれは光が晴れると、
豪華な装飾の施された小剣となって現れる。
「やはり宝剣の類か」
俺は泡槍で捌きつつそれを引き抜く。
小剣は光の粒となって空へ消えてゆく。
バルドルは声にならない痛さなのか、
床を叩いていた。だが流石不死。
傷口は直ぐに閉じられた。
理屈的には超回復というか超再生なのだろう。
無限の細胞とでも言うべきか。
仮にヤドリギ以外で倒すなら、
その細胞そのものを全て消し飛ばし
命の核そのものへダイレクトアタックする。
言うのは簡単だがマグマの中にでも
突き落とした方が楽なレベルだ。
……マグマ?
「おい小太り」
「し、失礼な!」
「分かった分かった。バルドル、この近くにマグマはあるか?」
「ふん。ユグドラシルが地底で活動出来て更に大地を活性化させているんだぞ? この大地の下にはマグマがあるに決まってんだろ!」
「この真下はどれくらい掘ればマグマと会える?」
「前にここは山だったらしい。その所為でここは周りから少し高い場所にあるんだ。堀を作ることでより圧迫感を近付く者には出せるって寸法よ!」
「……お前が考えた訳じゃ無かろうに。まぁ良い。バルドル、お前に選ばせてやろう」
「何を!」
「このままママのお願い通りマグマダイブに参加して最後の生贄となるか、それとも俺と一緒にママの真意を訊ねに行くか」
「マグマダイブ……?」
「フリッグさんもお前をこれで殺せない事は理解しているはずだ、俺もいる事だしな。なら今この行為はなんの為にしているか。周りを見てみろ、光の矢で地面が削られている。直にでかいのがくる。選択の時間はそう無い」
「う、嘘だ……僕は信じないぞ!」
「そう言う選択もありだ。フリッグさんの最後の一手までに必要なものは、粗方手札に来ている。お前を生贄にする事で最後の一手の召喚は完成する。何しろ血縁者なのだからな。となるとやはりカイヨウ方面が気になる。釣られたに近いが、それでも出来る手は打っているはず」
「おい! 何の話だ」
「こっちの話だ独り言だ。で、どうする? 俺はもう離脱するが」
「……てくれ……」
「そうか、ならお別れだ。助けた命ではあるが致し方あるまい。あの世で生贄人生を謳歌してくれ!」
「連れてってぎゅださぎ!」
俺は捌きつつ深呼吸をした後、振り返りバルドルに背を向けさせ
バルドルの尻を思い切り蹴り飛ばす。
流石チート能力は凄い。バルドルは一気に扉をぶち破って
遥か彼方へと突き進む。
俺もその速さに追いつくべく走り出そうと、
隙を突いてスットゥングの泡槍を光の矢の飛んでくる
中心であろう部分へ向けて放り投げ、技を展開させる。
これは一時的な妨害にしかならない。
対象が居ない事で異空間は展開されるが巨人は現れない。
それを見届けて俺はバルドルを蹴り飛ばした方向、
この街に入った場所へと全速力で走る。
五秒あれば良い方だ。恐らく真ん中くらいまで来たところで
相棒たちが俺の近くへ来る。走りつつ後ろを振り返ると、
ほぼ消し飛んでいた。俺をも飲み込まんと光の矢は
束になり、レーザー砲のようになって追いかけてくる。
「嘘だろ!」
恐らく魔法だろうが、こんな力を行使出来るような
ワイルドカードがあるのか。そんなもんあったら
制限カードだろどう考えても。
いや魔法自体制限されててルール違反なんだが。
にしても大胆に行使するもんだ。
「星よ! この星を犯さんとする者に抗う力を!」
俺はそう叫んだあと相棒二振りを手に取り、
トウシンの首都を出て堀を超えたところで
振り返り迎え撃つべく星力を纏って足を止めた。
相棒二振りの切っ先を天へと向ける。
迫りくる光の渦。一か八かに近いがやるしかない。
「行くぞ!」
そう叫んで技を放とうとした時、
足元で大きな揺れが発生。
そのすぐ後、その光の渦を飲み込むように
赤い壁が現れる。
「マグマ……?」
攻撃に触発されて吹き出してきたのかと思ったが、
それは俺の前に立ちはだかるように立っていた。
「マジかよ」
見上げるとそれはマグマが人を模ったようになって
光の渦を防いでいた。暫くすると光の方が力尽き、
空は何時もの様に戻って行く。
「生きているのか……?」
問いかけるというより唖然として口から出てしまった。
それに反応するかのようにマグマは振り返る。
「ニゲ……ロ……ラー」
「え、らー?」
右腕らしき部分をあげて口のあたりにもっていくと、
そのまま溶けるように消えた。
俺は茫然としてしまったが、地鳴りが強くなるのを感じて
我に返り急いで後退。バルドルを回収し、
皆に暴竜砦まで下がるよう指示を出して撤退した。




