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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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トウシンの首都目前

 一夜明けてここに連れてきた兵士たちも加えた

トウシン討伐軍で、少しずつ活動可能範囲を広げていく。

周りに森林が無い分マシだ。岩場と少しの木。

トウシンは元々この大陸の商売を一手に牛耳っていた。

それでこの有様なのは、自分たち以外に興味が

無かったのだろう。滅ぶべくして滅んで行くのかもしれない。


「陛下」

「ヘズ、どうした?」


 俺はヘズを自分の部隊に組み込んで作業をしていた。

目が見えないとは思えないほど感覚が優れていて、

支障は無いと考えたからだ。


「いえ、やはり皆この大地を見てその酷さを憂いているのだなぁと」

「そうだな。やりようは幾らでもあったからな。ここまで荒廃させたままというのは、やはり他国に依存していたのだろう」

「ええ。なまじ頭が回るものですからそれのみに重きを置いた結果です。そんな事をするくらいなら相手から騙し取る方法を考えろ、と」

「最悪だな」

「ですね。であるからこそ兄者のようなよく分からないものを拝みたくもなったのでしょう」

「言葉は正しいかもしれないが、実が伴っていない」

「そうです。良い事は言うんです。でもそこに実は無いもんだから最終的には共倒れになるんです。まぁもっともこの大地を見れば最終的に行きつく先は同じだったんだなぁ、と」

「バルドルは長続きしなさそうだもんな」

「流石分かってらっしゃる。小さい頃より主神の息子としての母から愛情を目一杯受けてきましたが、それ以上にひどい目にも遭ってきました。一番最悪だと思ったのは神々より死なない事を試す為に、兄者に物を寄ってたかって投げつけるという暴挙を父は止めなかった事です。それを興が乗ったなどといい囃し立てる有様。以前ロキが兄者を殺す為けしかけたのも、それをへらへらと黙って受け入れた上に自らの技にするなどという矜持の無さに怒りを覚えたのかもしれませんね」


 ヘズと共に荒廃した大地を歩きながら、

目の先にいるであろうバルドルに思いを馳せる。

俺はひょっとするとそういうバルドルの匂いを感じて、

あの時ロキから守ったのかもしれない。

似たような境遇だったからこそ。


「私もヴァーリ兄さんも頑張ったんですけどね。一度曲がったものを完全に真っ直ぐには出来ませんでした」

「まぁ完全には難しいだろう」

「ええ。ですが陛下なら例え完全ではないにしても、兄者を真っ直ぐに近い角度にはして頂けるような気が我々兄弟はしています」

「俺は俺なりにしかやれないが」

「それで良いと思います。……陛下、ナシンの街が近いです。それに橋も」


 ヘズの言葉に辺りを見ながら歩を進めると、下り坂を進んだ先に

街とその先に橋が見えた。俺は手を挙げ周辺の者たちを集める。

そして櫓車と木槌を用意させて街に近づく。

当然のように廃墟と化していた。そして今度は四方の角の塀が

新しくなっていた。早速一つの場所を解体して地面も掘った。


「……何とも言えないな」

「いえただ下種である、という言葉しかありません。ここまで露骨に人を消費物としてしまえるのか……私には理解できません」

「当然な。で、どうするか」

「陛下の思われたままで良いかと。自分で埋まったのか埋められたのか知りませんが、この者たちの顔からして弔う事に意味があるのかどうか私にも分かりません。ですが我々は命を慈しむ者として、弔いはしたという事実は揺るがないので、陛下のなさりたい事に私は賛同します」


 ヘズの言葉に頷き残り三角も同様にして、

その後焼き払い弔った。

死すら喜んで受け入れるとは一体どういう感情なのか。

いつか来るものだとしても、終わりではないのに

自ら選択し死を受け入れるのはあまりにも

与えられた命に対して全力で生きてはいない気がするので

不敬だと感じる。

死にたくても死ねない人や、

死にたくないのに死ぬしかない人もいる。


「個が繋がるのに信仰が必要だったのか」

「そうかもしれません。商売を行うという事は相手を出し抜く事も必要です。勿論それだけではありませんが、それにばかり目が行くことで人心は荒廃し、信じる事など無くなりましょう。その隙間を突くのは思う以上に簡単だった」

「居もしないものを祈るのではなく、見える者に対して祈るから効果は絶大か」

「そうですね。それに荒廃した大地を蘇らせる為、とか未来の為にとか上手い事を言えば、商売に失敗した者などは縋る思いで我が身を差し出すかもしれません。這い上がる機会は思考の柔軟さを失った者たちにはありません。国もそれを救いはしなかった」

「聖戦の為に、とかな」

「然り」


 手を合わせてその場を去る。

翌日は橋の点検をしつつ、俺は少し離れたところから

下へ向けて木槌を振るう。

こういう時チート能力があると良い。

皆にも手伝ってもらって下り坂を作る。

少し急だが丁寧にならしても居られない。

下のところまで来たら、そこからは上り坂を作る。

この作業に三日掛った。

 更に先の街も同じように弔った後、

橋を点検坂を作る。


「ついに来たか」


 眼下に広がる景色の先に、

城が見えてきた。二週間弱でトウシンの首都目前まで

辿り着く事が出来た。

ただ不気味なのは敵兵の一人も居ないという事だ。

連絡も密にしているが、他の戦場も奇妙なほど

静まり返っているらしい。これは何か来るな。


「嫌な予感しかないな」

「そうですな。元々不気味でしたがここにきて更に増した気がします」

「……鳥肌もそうですが、何か雨が降りそうな感じがしますね」


 ヘズの言葉に俺とヴァーリは見合う。

雨……?


「……総員直ちに後退しろ。そして空を見て何かあれば避けるように伝えろ」

「はっ」

「総員退避!」


 ――少しは勘が良くて助かるよ――


 頭に直接響く低い声。


「全軍退避! 上空に気をつけろ!」


 俺の声が終わる前に、それは轟音を響かせ空を走り、

大地に降り注ごうとした。

俺は相棒を引き抜きその太い束に向けて、

星力を纏わせて放り投げた。

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