根深いものによる亡命
「あー、えー、この度はどういった御用件で?」
「はい! 亡命してまいりました!」
……ここまでストレートに笑顔で言われると
疑い辛いんだが。
「えーっと理由は」
「胡散臭いからです」
「え」
「胡散臭いからです」
「前から胡散臭さ全開だった気が」
「以前にも増して胡散臭いからです」
なんというか難しいなぁ。
俺は空いている手で後頭部を掻きながらそう思いつつ、
回りくどいのもなんなのでダイレクトに言う事にした。
「亡命に関しては大歓迎とは言いませんが歓迎します。ですがそう気軽なものではないでしょう?」
「確かに陛下の言う通り簡単ではありません。ですがそれを簡単にしたのは、兄ヴァーリを使い捨てた事です」
「……実に明瞭な答えですね」
「更に申し上げるなら陛下の国の政策に興味があるのです」
「それはどうも。私は大したことはありませんが、他の皆は優秀です」
「私としては陛下が建国の際に医療分野を発達させた事や、その後弱者対策を色々している事も興味がありました。そう言った事は切り捨てられていくのが当然ですからね!」
笑ってるけどこっちは笑えない。闇ましましって感じよね。
「王とかそういう者は大抵上でふんぞり返ってそれこそアイドルみたいにキャラキャラしてるのが常です。兄もそうです。本来なら死んでいるのだから生真面目になればいいものを荒れ地に見捨てられたとかでいい年こいてへそ曲げて。人を引き付けるカリスマ性が無駄にあるものだから利用される為に祭り上げられたのにマジで祭り上げられて本人もその気になって始末に負えません。最近では真面目に宗教じみてきて生きてる人間が居るように思えません吐き気がします。やはり王と言えどもリスクマネジメントをしっかりと考えて行動していくことが大事です。そうでなければ誰かにとって代わられ首を刎ねられるのがオチかと。普通なら死んでるところ生きてるのだからそう言ったところに気が回らないものかと僕は常々兄に口を酸っぱくして言ってきましたが無視。挙句私と同じく口を酸っぱくして言っていた法の番人である兄ヴァーリを切り捨てた。次は必然的に私ですし、訳のわからない者たちに混ぜられて特攻させられるくらいなら降ろうかと……そんな感じです」
「要約すると愛想が尽きた、と」
「そうです。豆腐の角に頭をぶつけるべきです東洋風に言うのであれば」
笑顔で握手したまま淡々とヘズ君は
鬱積していた思いを捲し立てた。
こういう恨みは根深いものがある。
それで投降してきたのであれば受け入れても良いだろう。
信用はまだ出来ないけど。
「一応分かっているとは思いますが、これからバルドルと」
「是非一番槍を、と言いたいところですが弓兵故に、中間位置からバルドルの眉間に矢を放ちましょう。ヤドリギ、あります?」
やる気満々やんけ。
今日のところは一先ずと一旦切り上げて、
食事を共にした。実に丁寧に綺麗に食べる辺り
育ちが良い人物なのだろう。
個人的な感想だけど、バルドルが同じように食べるとは思えない。
これも母の愛され度の違いなのか……。
「ヘズ!」
「ヴァーリ兄さん!」
翌日夕方までヘズには俺の国の政策など、知恵として盗まれても
施策できなそうなものを見せながら、ゆっくりしてもらっていた。
ヘズの件を直ぐに本国のヴァーリに伝え、こちらまで来た。
「陛下、気を使って頂いて申し訳ありません」
「感謝する」
二人にゆっくりするよう伝え、俺はその間暴竜砦の倉庫や
施設などの見回りとかの雑用をこなしていた。
俺が一人入る事で休憩できる人間が増える。
三時間ほどそうして色々していると、
アシンバから二人が呼んでいると言われて
執務室に戻る。
「お心遣い、感謝の言葉もありません」
「陛下も分かってくれていると思うが、我々はあの兄を懲らしめる事になんら躊躇いはない。寧ろ陛下があの兄を生かすつもりなら寸前で止める事をお勧めする」
決意も新たにしたようで、気合いの入った顔をしている。
「ならば遠慮なく協力してもらおう。ヘズには先陣の中に加わってもらいたい」
「喜んで。道案内はお任せを。陛下の事ですからもう地図は御有りでしょう。安全を保障すべく先陣を賜りたいと思っていました。生憎目が悪い故、知らない土地よりも知っている土地ならお役に立てますし」
「ヘズに任せると良い」
個人的に確かめたい事もあり、ヘズに先陣を任せることにした。
こうして最後の調整に入る事になる。
ヘズが言うように地図はもう手にしている。
トウシンの首都までには街が三つあり、首都の北と南には倉庫街がある。
攻略は三つの街を無力化した後、その北と南の倉庫街を抑えてからになる。
正直兵の数は以前であれば三千。今は不明だ。
どれだけスカジと繋がっているのか。
ヘズとヴァーリ曰く、母であるフリッグの愛を一身に受けているにしては、
いまいち援助は薄いようで、バルドルが一生懸命ゴマ掏っているようだ。
強制的に住民を一旦スカジへ行かせた後帰ってこさせるを
繰り返していたらしい。更に別の街ではトウシンの者ではない者たちが
訪れた後、次の日には街の人間が一人も居なくなったという
話も聞いている。
うちに亡命を求めて砦の近くに
身を寄せている者たちから情報を得た。
彼らを受け入れる訳にはいかないが、
そう言った事と引き換えに食料を渡したりもしていた。




