トウシン討伐戦への準備
砦の主の間に来たロシュと話、
更にシンラも呼んでトウシン方面の
日程を確認。更に本国のナルヴィ、
ホクリョウのカトル、アイロンフォレストの
ジェルジオ侯、セイヨウのアインスに
書簡を送りすり合わせを行う。
予想するまでも無くスカジは動く。
俺がテュールならば、少ない軍を
分けて出る事はしない。
が、ヴァルキリーを信頼し更にヘルモーズも居る。
恐らく更に人数も増えていると思う。
そう考えるとトウシンを切り捨てて、
ホクリョウとカイヨウを同時に討ってくる
可能性もある。
俺が元居た世界なら、動きがあれば即対応できるよう
通信技術が発達していたが、この世界は基本中世を
基軸としている。科学の代わりに魔術がある程度発達している。
が、ここでは魔術は無くなり更に動植物もまだ完全に
生態系が回復したわけではない。
そんな事情で馬による伝達のみを使用している。
狼煙は相手にもばれるのが厳しい面があって
使用していない。
「そういう点ではヴァルキリーは便利だよな……」
俺は計画書を書きながら呟く。
空を飛べるのは便利だ。特にこの世界に障害物はそうない。
ただロキやナルヴィ曰くそう便利でもないらしい。
魔術粒子があれば魔力を使う事によって飛ぶ事も可能。
無くて飛ぶ場合は羽がいるが、それを動かす筋力などを
考えると非常に燃費が悪いらしい。
鳥は飛ぶ事が基本なので問題ないが、
人型であれば羽よりも体が大きく、更に脳みその重さなど
重力に逆らう為の力は鳥以上に必要になる。
また体も強くなければ速度に体が付いていかないとの事。
ロキ曰くだからこそヴァルキリーの召喚には
神を降ろすのに近い大量の生贄が必要らしい。
「良かったよなぁ少しは向こうにもウィークポイントがあってさ」
「皮肉にしても大概ですな」
「最大限に権限を利用してチートしてるのと変わらないからね」
「おっさんも同じだけどね」
「然り。この程度のズレはイーブンと言ったところであろう」
恵理とファニーの突っ込みに溜息を吐く。
なんで神様とイーブンにならにゃならんのか。
絶対無敵なら楽だったしイーブンと言われても納得がいくがなぁ。
「ラハム様との連絡は?」
「相変わらずだね。嫌な予感はしてるけど、今はどうしようもない」
「流石に我々でもオーディンの結界から外に出る為には、中から高エネルギーをぶつけて空間を歪ませるしか手段がありません。ラハム様が向こう側から穴をあけて頂ければこちらからも開け、何とか行き来できるのですが……」
「そう。こっちからじゃ結界の半分までしか干渉できない。何しろ神から人に降りているからね」
「神様ってのはそう簡単に地上に干渉できないんだろ?」
「勿論。過干渉が過ぎると世界が歪んでそれが世界の崩壊につながる。中生代に一回、紀元前一万年頃に一回、過干渉が過ぎて星そのものの危機に直結している」
「詳しく聞いたらいけない感じだな」
「それが良いと思われます。何れ学ばれると為になるかもしれませんが、今は余計な知識になるかと」
「個人的には爆笑物の笑い話でしかないんだけどね」
その話を聞いていて、恐らくこの世界は元の世界を参考に
構築されている。ロキたちの見解は果たして誰の見解なのか。
それとももっと大きなものが関係しているのか。
「ま、今はそれどころではないか。死なないように勝たなきゃその先が無い訳だし」
「その通りよね。昔にロマンはあるけどそれを知って今が変わる訳じゃないし」
「然り。我らは明日も不明瞭な状態で生きている。暗中模索の中であっても星の誕生から得るものがあるといえる状態ではない」
「要するに僕らは今はロマンチックな話に花を咲かせるより、トウシンをどうするかに全力を注げってことね」
「確かに」
「御意」
こうしてトウシン討伐計画を纏めていき、
物資の面人員の面を考慮して立案された。
トウシン討伐はカイヨウのアーサーを信じ
ひと月後に行われる。それまでは勝ちすぎず負けすぎず
更には兵器や戦術などを試す期間とし、
戦術局などには通達した。
更に人事や育成もこの時期に見直しなどを行い、
継続戦闘能力を向上させるよう、医療の分野など
とも連携を深めておく。
また懲罰開墾団などにも開拓を緩やかにして
編隊などの鍛錬に時間を割くよう指示。
計画的にはスカジ討伐までのロードマップの
始めに位置するものとして立てている。
この計画の基盤となる為その都度ブラッシュアップを
意識して進めていく事で一致した。
この期間俺は前線に立ち続ける。
その分皆には徹底して悔いないようやってほしいと、
本国に赴き国民たちに伝えた。
この大地の未来を決める為の最終決戦である事も。
慌ただしく日々は過ぎていく。
正直ひと月待つのは嫌だった。
前線に立っていれば分かるが、
相手もその間に編隊の確認や作戦の立案、
更に生贄を用いた召喚もやっているだろう。
が、それを推してもカイヨウが立ち直るのが重要だ。
後々を考えれば今ここでカイヨウが崩れれば、
それだけで戦況が不利になる。
彼らが自分たちで一応立ち直る事が重要になる。
正直アーサー以外は戦力として考えていない。
今はコウヨウの兵士たちの方が、
向こうの騎士より上だと計算している。
ただ経験を積んだらどれだけ差が縮まるのか。
「何にしてもこのジレンマは中々堪える」
そう呟いてから自分が焦っていると気付く。
勢いのまま押し切れる相手ではないはずだ。
どれだけ入念に準備しても足りる相手ではない。
俺を焦らせているのはまだ本丸がない状態で
この状況だからだろう。




