騎士王復活の兆し
まぁ茶番だよな。四面楚歌の状況から一発逆転を
狙うなら、コウヨウを落とすまたは首謀者を討ち
自らの手柄としてうちに差し出して有利にする。
オンルリオに敢えて尋ねずまたオンルリオも敢えて語らなかった。
それはそういう事だからだ。
正直この一手はカイヨウを滅ぼし糾合する事も
可能にする手。オンルリオは俺が尋ねれば答えただろう。
うちから亡命し数々の非礼そして最後は反乱に協力。
カイヨウは今、うち無くしては一瞬にして波に飲まれる。
何を思ってこんな事をしたのか。
そうまで自らの立ち位置にのみ固執する人間だったのか。
俺の見る目が間違っている事を大いに世間に晒し、
皆の糧にする事も考えた。
が、それをすればアーサーの管理不足そして
エムリス以下騎士たちの統率の取れなさ、
更に言えば戦況も読めない愚か者として
国民から見放されてしまう。
気運はうちへの合併へと一気に傾れ込む。
……そう考えるとテュールの囁きがあったのかもしれない。
合併のいざこざのうちにトウシンを壊滅。
戦力を増強しコウヨウを殲滅するべく、
オーディンが来る前に決着を付けに来るとか。
「それを教えてどうする」
「気を使われすぎだと思ってな」
「……ならさっさと国に帰って体勢を立て直してくれ。生憎子供連れでピクニックに行くような状況じゃないんでね」
「言ってくれる……確かにその通りだ。こんなに借りを作ってしまっては剣が鈍る」
「それは結構。また俺の勝ちで終わりだ」
その言葉にアーサーは小さく笑う。余裕だなぁ。
「こうしてやはり直接言葉を交わすことに意味があるな」
「確かに。相手がどんな感じなのかが分かる。交渉しようがあるのかどうかもな」
「存外甘いな」
「俺が甘いのは今さらだと思うが」
「そうか? 外から見ると取り締まりや処罰には一切迷いが無く見える。民は君の事を”大地の番人”と呼んでいるようだ」
「こんな小さいおっさんが大地の番人、ね。いまいち実感が無い」
「今度お得意の視察をやってみるがいい。面白いぞ?」
「……まさかアーサーにそんな事を言われるとはな。また少し変わったか?」
俺の言葉に頬笑みながら席を立つ。
俺も立ち上がり王の間の扉前まで移動するアーサーの後に付く。
「ここから更に変わる。十分休ませてもらったし、重い腰を上げるとしよう」
「ついに騎士王伝説の幕開けかな」
「今さらだがな。借りついでに後ひと月なんとかしてほしい」
「ひと月で何とかなるものなのか?」
「何とかして見せるさ。これでも優秀な者たちがいる。それに今はレンが張り切ってくれている」
「今回は来ていないようだが、里心が付くといけないからか?」
「それは君に言える事でもあるがね」
俺とアーサーは歩きながら笑い合う。
笑いながらも目はやる気の炎が灯っていた。
「見送り感謝する。突然すまないな」
「いいさ。そのやる気に満ちた顔を見れて安心したよ」
「苦労を掛ける」
「御代はその首で」
俺とアーサーは握手を交わす。
まさかこうして笑いあい握手を交わす日が来るとは。
夕暮れとともにアーサーはお供と俺からのお土産を引いて、
カイヨウへと引き上げていった。
俺は突然の帰国だったので、ガンレッドを見舞って
トウシンへととんぼ返りになる。
ガンレッドの様態についてお爺先生やユズヲノさんに
尋ねたが、深刻な病ではないので気にしなくて良いとの事。
そういう言い方をされると気になって
仕方なくて落ち着かないと言うと、デリカシーが無いと怒られた。
そしてなんだかよく解らないまま暴竜砦へと戻る。
本国の前線から離れているという事から
出る穏やかな雰囲気とは違い、
こちらは皆活気があるようにみえるが、
頑張ってる感じだ。
よく解らない集団が迫っていると思えば
そうするよりないだろう。
逃げ出したところで変わらないという事を知っている。
俺はツキゲをゆっくりと歩かせながら皆に声を掛けていく。
砦というか少し今は広がって街になっていた。
皆が通りに出てきて歓喜の声を上げる。
チート異世界人が戻ってくれば生き残る可能性も
高くなるんだから当然だろうな。
頻繁にコウヨウに帰らないのも、ここに留まる皆が
本国の者たちを敵視しないように考えてである。
ノブレス・オブリージュとしてというより、
俺の考えとしてなるべく強い者は前線に居るべきだし、
この戦いを決めた責任者は前線で皆と共に
罪を背負うべきだ。
「陛下、おかえりなさいませ」
アシンバが俺を出迎えてくれた。
砦の主の間は簡素だったものが、街になった事で
少し豪華になった。玉座も作られている。
「で、どうだ。カグラたちの消息はまだ掴めないか」
その言葉にアシンバは傅き首を横に振る。
その後トウシン方面の進捗の報告を聞いた。
小競り合いすらも今は無い。不気味なほど静かで、
更にここに逃げてくるトウシンの民も減り続けている。
どうにかしてこっちの領土に入ろう、取り入ろうとして
あの手この手を駆使してきているらしい。
勿論俺の方針として認めないと宣言しているので、
それに加担した者は処罰されている。
具体的にはトウシンの首都へ向け追い立てる。
これが抜群の効果を発揮していた。
「あまり気分の良いものではないが、一人を許せば後から後からになる。決まりを護る事。先ずはそこを理解しないのであればトウシンの民を受け入れるつもりはない。出し抜こうとする気持ちは分かるが、それを許すほど悠長ではない」
アシンバは頷く。そして相変わらずトウシンの
亡命団の団長のお願いというより強要に近い発言は
変わらずだった。こちらとしては混乱の種を
態々迎え入れるつもりはない。
ログを占領した時に感じたあの薄気味悪い感じ。
意思があるのか分からない。
ひょっとすると生贄の後にガワだけ利用されている
可能性もある。
「ただこのままのんびり構えている訳にもいかない。ロシュを呼んでくれ。作戦を練ろう」




